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君が、邪悪なる魔術師Ol?

ゴーレムとリルの奥に控えるOlに剣を向け、少女が問う。Olは答えず、呪文の詠唱を始めた。

沈黙は肯定、っと。いくよ!

小さく呟いた刹那、少女は凄まじい速度で駆けた。迎撃しようとリルが爪を長く伸ばし、ゴーレムが腕を振り上げる。が、少女の動きに対して、それはあまりに遅すぎた。少女は疾風の様にゴーレムとリルの間をすり抜け、一瞬にしてOlの前に迫る。

しまっ!

振り向いたリルがみたのは、少女の剣によって刎ねられ、宙を舞うOlの首だった。

首の切れ目から鮮血がほとばしり、首が地面に落ち、ごろごろと転がる。

一瞬遅れ、身体の方も地面へと倒れこんだ。

それと同時に、Olの魔力を失ったゴーレムが腕を振り上げた体勢のまま地面に倒れる。

君は人間じゃ、ないよね。羽生えてるし。ご主人サマの敵討ちとか考えるタイプ?

少女がリルに向き直り、油断なく剣を構える。リルは両手をあげて降伏の意を伝えた。

まさか。私は契約で縛られてるだけだからね。主人が死ねば、契約も無効。とっとと魔界に戻るわよ

そうなんだ? じゃあ聞くけど、今あたしが殺した人がOlで合ってるんだよね?

少女は剣の血を払うと、鞘に収めた。とは言え、不用意にリルの近くに寄ったりはしない。

リルが彼女に襲い掛かれば、すぐさま剣を抜き放ち両断できるのは明らかだった。

うん、あってるあってる。すんごい性格悪くて、人使いって言うか悪魔使いも荒いし、実年齢70以上の癖に滅茶苦茶エロいし、ダンジョンの事ばっか考えてるダンジョン馬鹿

あはは、悪魔さんも結構苦労してたんだ

朗らかに少女が笑う。

でもね、そんなに嫌な奴でもないんだよ、うちのご主人様は

リルの言葉に、少女は僅かな違和感を感じる。その原因を探ろうとする間もなく、リルは爪を伸ばして少女を切り裂こうと腕を振るう。

わっ! 敵討ちなんてしないって言ったのに、嘘吐き!

少女はそれを難なくかわすと、剣を鞘から抜き放った。

嘘なんてついてないよ。敵討ちなんてしないって

その言葉に、はっと気付いた時にはもう遅かった。少女に杖を向けたOlが、一言呟く。

眠れ

薄れいく意識の中で、少女は違和感の正体に気付く。

主人の事を評する言葉が、どれ一つとして過去形ではなかったのだ。

よく気付いたな

崩れ落ちる少女を抱きとめつつ、Olはリルの頭をぽんと叩いた。

子供じゃないんだけどと言いつつ、リルは答える。

言ったでしょ。主人が死んだらとっとと魔界に帰るって。帰ってないんだから、死んでないに決まってるじゃないの

魔界に帰るのはリルの意思ではない。契約の内容だ。Olはここまで計算して契約内容を考えたのかと、改めてリルは彼の慎重さを思い知った。

所でどうなってんの、それ

既にぴったりとくっ付き、血の跡すらないOlの首を指差す。

若返ったり、体力を戻したり出来るくらいだから傷を治せるのはわかるのだが、流石に死んだのを生き返せるとは思えない。しかも、それが他人ではなく自分自身であれば尚更だ。

大して珍しい術でもないんだがな。命を別の場所においているから、この身体はどれだけ壊されても死なん。代わりに、身体には傷一つなくても、命の方が壊されたら死ぬが

ああなるほどね

何に命を保管しているかは言うまでもない。

Olが最も大事にしているものつまり、ダンジョンコアだ。

それで、その子はどうするの?

リルはOlが抱きかかえる少女を示した。死んだ訳ではなく、ただ眠らせただけらしい。少女は規則正しくすーすーと寝息を立てていた。

そうだなどうやらコイツは、英雄の星の元に生まれているようだ

英雄の星?

鸚鵡返しに問うリルに、Olは頷いてみせる。

ごく稀にいるんだ。何らかの宿命の元に生まれる人間が。そういった人間は大抵、幼い頃から他の人間とは段違いの能力を持ち、成人すればその道で一流以上の達人となる。が、その人生そのものも平坦なものではなく、必ず大きな不運や幸運を呼び寄せる事となる

へーもしかして、Olも魔王の星の元に生まれてたり?

そんなわけないだろう。そうであれば、この齢になる前にダンジョンを完成させるか、野垂れ死んでる

Olは自身を、才も非才もない、ただ努力した年月の分だけの能力を持つと評した。唯一の僥倖は、寿命までにダンジョンコアを完成させ、龍脈を見つけ出した事だ。

で、結局その子は?

再びリルが問うと、Olが表情を曇らせる。

英雄の星に生まれた者だ。殺そうとしてもそう簡単には死なん。かといって、洗脳魅了の術の類も効き目は薄い。ここぞと言う場面で解けるだろうな

ぐっすりと寝ているのだから殺してしまえばいいとリルは思ったが、仮にも英雄となるべく生まれた者。殺そうとすれば何らかの奇跡が起こって命を拾うらしい。死ぬのは晩年、力が衰えたとき。それも、惨たらしい死に方をする。それが英雄に生まれついた者の常なのだそうだ。

じゃあどうすんの? ずっと寝かせておく訳にもいかないでしょ?

仕方ない、成功率があまり高くないからやりたくはないが、他に方法もない

苦渋の表情で、Olは決断した。

調教するか

第6話哀れな虜囚を調教しましょう-1

ユニスが目を覚ますと、そこは暗い石造りの部屋の中だった。

ぼんやりとした頭で必死に状況の把握に努める。身体を動かそうとすると、右腕につながれた鎖がじゃらりと音を立てた。

右腕だけではない。両手両足は鎖によって壁につなぎとめられ、大の字の状態から殆ど動かせない。更に身体自体もベッドに鋼の輪の様なもので拘束されていた。

身に着けていたはずの武器や防具は全て外されており、少なくとも視界の範囲には見当たらない。

僅かな灯りを灯すランプと、ユニス自身を拘束するベッド、そして鎖。それだけがこの部屋を構成する要素だった。

入り口には扉すらなく、どこかへと続く通路が闇の中に沈んでいた。

目を覚ましたか

その通路から、一組の男女が姿を現した。

琥珀色の髪に灰色のローブを着た、中肉中背の20歳前後の男。そして、コウモリの翼を生やし、漆黒の髪を持つ、みている方が恥ずかしくなるような服(と言うか、下着?)を纏った美女。

それをみて、ぼんやりとしていたユニスの意識ははっきりと覚醒した。

邪悪なる魔術師Olと、その使い魔この二人に、自分は負けたのだ。どうやら殺される事はなかったようだが、果たしてそれは幸運だったのか。かなり怪しいところだ、とユニスは思った。

一応名乗っておこう。我が名はOl。聞き及んでいるようだが邪悪なる魔術師だ。こちらは我が助手にして女悪魔のリル。お前の名は?