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その前に、手を打たないとな。

そう呟き、Olは更にユニスに暗示を加えていった。

第6話哀れな虜囚を調教しましょう-2

ユニスが再び目を覚ますと、そこはやはり暗い石造りの部屋で、彼女はベッドの上に寝かされていた。

汗やその他体液でべとべとに汚れたはずのシーツはさらさらした真新しいものに取り替えられており、一瞬あれは夢だったのだろうか、とユニスは考えた。

しかし、秘部を穿たれて大声で善がった記憶と、僅かに残る身体の火照りが夢などではなかったと訴えており、彼女は悔恨と羞恥に頭を抱え

自分の頭を抱えられる事に、気付いた。

相変わらず武器や防具の類は見当たらないし、魔術も封じられているようではあったが、身体を拘束するものは何も無い。部屋には扉もついておらず、そのまま通路に通じているところも元のままだ。

今なら、逃げられる?

そんなユニスの考えを読んだかのように、通路の奥からOlが姿を現した。

思わずユニスは身構え、ベッドから離れる。

そう警戒するな。もう危害は加えん

Olが指をパチンと鳴らすと、部屋の中央の床がぐにゃりと歪み、意思を持っているかのように動くと簡素なテーブルと椅子の形をとってまた石に戻った。

丸一日寝ていたんだ。腹も減っただろう

そういってOlは手に持っていた皿をテーブルの上に乗せた。

毒でも入ってるの?

起きている時にわざわざそんな事をするんなら、寝てる間に殺してるだろう

訝しげに見るユニスを尻目に、Olはさっさと席について皿を手に取る。Ol自身も食事を取るつもりらしく、料理の盛られた皿は二つあった。

それもそっか

納得して、ユニスはOlの向かいに座る。皿に盛られていたのは小麦粉を練って細長くしたものを茹で、ひき肉のソースをかけたものだった。

これってパスタ? 珍しいね

知ってるのか

こくりとユニスは頷く。この辺りの地方では、小麦粉はパンにして食べる事が多く、あまり麺類には加工しない。文化が根付いていないという事もあるが、この辺りで作られている小麦があまり麺類には向いていないというのもある。普通に作ると、どうしても口当たりがボソボソとしてしまうのだ。

ん、でも美味しい。これってディングラードの方の料理でしょ?このソースははじめて見るけどよく合うね。小麦を取り寄せたの?

いや、小麦はこの辺りのものだ。つなぎに一工夫を凝らして食感を良くしてある。ソースも一応俺のオリジナルだな

ふーんって、ええっ!?

急に叫ぶな。驚くだろう

全く驚いた様子の無い表情で抗議するOlに、ユニスは身を乗り出す。

え、これ、君が作ったの!?

そうだが、悪いか

憮然とした表情でOlがぼやく。

え、だって、邪悪な魔術師が料理とか

邪悪だろうが魔術師だろうが腹は空く。リルは悪魔だから人間の食べ物など食わんし、食わない物を作れる訳もない。人手不足で他に作るものもいないから、俺が作るしかないだろう。それに、料理は魔術実験に似ている。中々上手いものだろう?

心外そうに眉をひそめ、自作の料理を口に運びながら言うOl。

うん、美味しい

パスタをフォークに絡めて口へと運び、ユニスは素直に認める。少なくとも旅の間食べていた携帯食や、野生の動物を狩って火で炙っただけのものよりも数倍美味しかった。

さて

食事を終え、立ち上がるOlにユニスは再び身構える。そんな彼女に、Olは呆れたようにため息をついた。

そう身構えるな。もう危害は加えないといっただろう。昨日のアレは俺の命を狙った罰だ。もうこれ以上罰を与える気はない

あそ、そうなんだ

ユニスは自分の心に戸惑う。Olの言葉に感じたのは、大きな安堵。

しかし、その奥にほんの少しだけ、残念に思う気持ちがあった。

困惑するユニスに、Olが言葉を付け足す。

ただし、俺になお刃向おうというなら話は別だが

鋭い目で見据えるOlに、ユニスは答えを返せず押し黙った。

俺の邪魔をしないと言うなら、このままこの迷宮を出て行っていい。武具も返すし、封呪も解いてやる。だが飽くまで敵対するというなら、容赦はせんぞ

どうして?

ユニスは瞳に困惑の光を浮かべ、Olを見つめた。

君は邪悪なる魔術師とか言ってるけど、そんなに悪い人じゃない気がするそりゃ、あたしも酷い事されたけど、先に首刎ねちゃったのはこっちだし、罰を受けるのは仕方ないでも、どうして何の罪も無い村の人たちを一方的に脅して搾取したりするの?

ユニスの訴えにOlは考え込むように口元に手をやり、ふむと唸った。

どうやら、少し誤解があるようだな

誤解?

ユニスの心はOlを信じる方に傾きかけてきていた。

口元にやった手の向こうで、口が笑みの形に曲がるのに気付かぬまま。

Ol様! 申し訳ありません、供物の準備はまだ整っておりませんで明日の夜までには必ず用意いたしますので!

良い、気にするな。元々供物は1の日という約束だ。約束の通りに用意してくれれば良い

村に着くなり、走りよって平伏する村人にOlは鷹揚に答えた。その隣には、ユニスを伴っている。武具はまだ返していないが、拘束具の類もつけていない。

では、本日はどのような

うむ。田畑の様子を見に来た。それと少し気になる事があってな

田畑?

意外な言葉にユニスは目をパチパチと瞬かせる。

そうですか! ではどうぞこちらへ、粗末な村の畑ではごぜぇますが、Ol様のお力でみるみる育ち、もう冬も近いってのに今年一番の豊作でさぁ!

村人に案内された先には、様々な作物が豊かな実りを見せていた。どれも一般に流通しているものより遥かに巨大で瑞々しい。

一週間でここまでになるとは驚きでさぁ。これで余裕を持って冬を越せます。入り口においていただいたガーゴイルのおかげか、ゴブリンどもや野犬も全然手を出してこねぇし、Ol様にはほんに感謝しとります

うむ。それは何よりだ。冬の間はカブを植えよ。カブは冬でも良く育つし、滋養もあり、家畜の餌にもなる。冬でも安定して餌を作れるから、冬に入る前に絞めてハムや腸詰にする必要もない

わかりました! 早速村の者達にも広めます

うむ。それと、さっきから気になっていたが、顔色が優れぬな。体調が悪いのか?

ええ最近ちょっと風邪を引いたみたいでして。何、2,3日もすれば治りまさぁ

ぐっと腕に力を込めてみせる村人に、Olは掌から琥珀色の魔力を光らせながら触れる。