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そそうですね

フォリオの頬に手を当て、Ol。先ほどまでの情事を思い出したのか、フォリオは少し赤面しつつもうなずく。

その逆で、触れれば熱は封印の中に入り出てこない。つまり熱を奪われているため、実際の温度と無関係に冷たく感じられるのだ

氷じゃなかったらどうなるの?

話を理解してるのかしていないのか、ラディコが鋭い質問を投げかける。確かに重要なのはこれが何であるかではなくどうやったら消すことができるかだ。

解呪はスキルによって作ったものや影響を消すと言ったな。だがおそらく、スキルそのものを消すことはできまい

そりゃそうですよ

例えば、解呪であらゆる攻撃を防ぐ鋼の盾を消すことはできない。だがユウェロイの全身装甲で作り出した甲冑や投槍で作り出した槍ならば消すことができる。

他にも他人の能力を阻害する呪いに属するスキルの効果を消すこともできるが、Olが彼女を下したときに使った麻痺針のような毒は属するスキルは不可能だ。どのみち自分自身が麻痺してしまっていては、解毒スキルを持っていたとしても使えないから意味はなかったが。

これはおそらくスキルそのものに近い。その解呪を強力にしても、消すことはできまい

打つ手なしということですか

スキルを消せるスキルなんて、それこそ御伽噺だ。子供なら誰もが考える空想上の存在にすぎない。

いや。単に力づくでは無理だというだけの話だ

そんな都合のいいものはないとOlが言ったのも、同じ意味だった。この世全ての扉を開けるマスターキーなどというものはない。だが、それは扉を開けられない事を意味しない。

絶対に解けない封印などというものは、どんな封印をも解く魔術と同様に実在しないし、そもそもそんなものを作る必要がない。

解けない封印を作るくらいなら、その能力を持って中身を滅ぼしてしまった方が確実かつ手っ取り早いからだ。極論を言えば、すべての封印はいつか解かれるためにあるともいえる。

とは言え精巧だな。百年以上経て綻び一つない。これを解くのは少々骨だな

封印術は苦手という程ではないが、得意というわけでもない。少なくとも同じものを作り出す自信はOlにはなかった。

え?解けるんですか?

だが、フォリオは信じられないとでも言いたげに目を見開く。

今すぐには流石に無理だ。これにばかりかまけるというわけにもいかん。一年や二年は覚悟しておけ

少し期待させすぎてしまったか、と少々ばつの悪い思いでOlは言い訳めいた言葉を口にする。

実際には年単位の時間が必要とまでは思わなかったが、この先どの程度時間が取れるかもわからないし、この手の解呪は技術や知識よりも発想や思い付きを問われる。ハマってしまえば実際そのくらいかかる可能性もないではなかった。

いやいやいやいや、アタシの一族代々の宿願ですよ!?一年や二年?本当ですか?

今まで百年以上、糸口すら見つからなかったのだ。にわかにはOlの言葉が信じられず、フォリオは念入りに尋ねる。だがOlは、それを自身の能力への不信と受け取った。

良かろう。そこまで疑うならば、明日までにある程度の目処くらいはつけてやる

明日!?

驚くフォリオをよそに、Olは封印の前に座り込んで本格的に解析の準備に入る。彼の周囲にいくつもの魔法陣が浮かび、フォリオには理解できない情報がその表面に現れた。

ほんと、奴隷風情になんでそこまでしてくれるんですかね

髪をかきながらぽつりと漏らしたフォリオのつぶやきは、もはやOlには聞こえていないようだった。

第9話部下の望みを叶えましょう-5

とりあえずはこんなものか

一通りの情報を収集し終え、Olは封印から意識を離す。気づけば周囲の壁は薄っすらと明かりを放っていた。太陽のないこの迷宮の一日は日暮れと早朝の区別がつきにくいが、体感的には後者だろう。

解析を始めたのは昼過ぎの事だったから、ちょうど半日近く経ったことになる。

フォリオとラディコの姿は既になく、傍らにスープとパンが置いてあった。おそらくフォリオが置いていったのだろう。一体いつ差し入れたものだったのか、すっかり冷めきったスープを飲みながら、Olは解析した情報に思いを巡らせる。

術は非常に複雑なものながら、構造自体は思っていたよりもずっとシンプルな結界だった。おそらくこの封印は、時の流れと空間の距離を極度に捻じ曲げたものだ。さほど大きいようには見えないが、実際には極めて広大な空間が圧縮されている。フォリオが放った炎が表面で消えたように見えるのも、実際には中心まで到達できなかったがゆえのことだ。

シンプルであるがゆえに対処が難しい。Olの力であれば結界の境を超えて中に入ることは出来るが、出てきたときには下手をすれば数百年が過ぎ去っている、などという羽目になりかねない。

長年綻び無く保っているのも納得だ。結界そのものがその効果を受けているから、主観的には張られてからそう長い年月は経っていないという事なのだ。

いずれは自然に解けるだろうが、それが何年後の話になるかはわからない。そして外部から解くにしても、干渉自体が恐ろしく鈍化されてしまうために酷く手間がかかることにわかった。鍵穴自体は単純だが、鍵を突っ込んで回すのに時間がかかるのだ。

ともあれ、ひとまずの目処がついたのは確かなことだ。余裕を持って三月もかければ封印は解けるだろう。問題は、解いた後のことだ。

Olでさえこれほど手こずる封印。施した者も、そして施され封印されている者も、相当の力を持っていると見て間違いない。そんな者の封印を軽々に解いてしまっていいものか。中に入っているのが、友好的な存在とは限らないのだ。

Olはじっと封印の中に閉じ込められている人影を見つめる。半透明の封印に入ったその人影は、ぼんやりとした輪郭くらいしか見えず、恐らくは女だろうという程度しかわからない。

だがその影を見ていると、何故か無性に嫌な予感がした。胸がざわつくというか、厄介なことになるだろうという、漠然とした勘のようなものが脳裏をよぎるのだ。

もっとも、Olはそういった勘をあまり当てにはしない。ユニスたちのような戦いに生きるものたちであれば直感に従って上手くいくこともあるが、Olの強みは論理的な解析と分析である。事実というものは直感に反することも多い。

ともかくこれで最低限の仕事は果たしたはずだ、とOlは凝り固まった身体を伸ばす。もう一度ゆっくり湯に浸かりたい気分だが、それ以前に睡眠が足りていない。まずはひと眠りするかと、Olは下層にあてがわれた自室へと戻る。

む。どうした?

そこにはナギアとフローロが待ち受けていた。

どうしたではありませんわ!

ナギアは蛇のような下半身を波打たせるとしゅるりと詰め寄り、ひどい剣幕で言い募る。