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中層に来る少し前ってわたしがブランに捕まる前ってことでは?

うむ。ラディコが攻め込んできた前後だな

当たり前のように告げるOlに、フローロは呆れたものか感心したものか大いに悩む。

ところで、今回頑張って手伝ったので、一つOlにお願いを聞いて貰いたいことがあるんですが

わかっておると言っただろう

どうせ自分の相手もちゃんとしろと言う話だろうと嘆息するOlに、フローロは首を横に振る。

ブランを、助けてあげて欲しいんです

第12話冒険者ギルドを作りましょう-1

おじさん、いらっしゃい!

お待ちしておりました、おじさま

ルヴェとクゥシェに迎えられ、Olはスィエル領を訪れていた。

Ol殿

その背後に控えたテールが、厳めしい顔つきでOlに告げる。

後で機会と場所を設けますので、どうか此度もお嬢様がたを思いきり犯して頂けますでしょうか

忠告かと思えば、酷い懇願だった。

男に情事を見られる趣味はない。わざわざお前には見せてはやらんぞ

無論ですとも!後で縛られ身動きを取れなくされつつ、Ol殿のものがどれほど良かったかを聞くのが最高に幸福なのです

少々方向性を間違えたかもしれない。Olはそう思ったが、今の魔力量でこの男を殺すことなく丸く収めるにはあの方法しかなかった、と自分に言い聞かせる。戦力としては非常に頼れる男ではあるのだ。

アンタがOlかい

三人に案内されて向かった最奥の部屋。大きなテーブルの向こう側に、鋭い眼をした老婆が待ち受けていた。

真っ白な太い三つ編みを長く垂らし、細く長い古木のような印象を与える老人。彼女こそ、中層でもっとも力を持つ三人の壁族のうちの一人、レイユ・スィエルであった。

うちのはねっ返りどもが随分と世話になったようだね

カン、と甲高い音を立てて長煙管を鳴らし、レイユは灰を落とす。

それで?一体何の用件だい

Olが対面の椅子に座ると、それに呼応するかのように背後の通路から武装した兵士たちが押し寄せて、たちまち彼をぐるりと包囲した。

孫娘を誑かされたくらいで腹を立てるほど狭量じゃないけどね、アタシに対しても同じ事が出来ると思われちゃあ困るんだよ

Olは落ち着き払った態度で兵士たちを見渡す。テール程の手練では無いにせよ、優れたスキルを持った者が揃っていた。たとえルヴェたちが加勢してくれたとしてもこの質と量には抗えないだろう。

今日は商談に来た

だがOlは気にした様子もなく、懐から皮袋を取り出すとテーブルの上に置く。レイユは一瞬道具袋を警戒するが、きっちりと口が革紐で縛られているため少なくとも生き物が入っている可能性はないと知れた。生き物を入れた道具袋の口は閉じることが出来なくなるからだ。

なんだい、こりゃ?

革紐を解き袋をひっくり返して出てきたのは、レイユをして目にしたことがないものだった。

がらくた、ですね?

クゥシェが鑑定を発動させてそれを見る。がらくたとは、その名の通りなんの効果も持たないアイテムより正確に言えば、アイテムでは無いもののことだ。破壊されてしまったアイテムや使用回数を使い切ったマジックアイテム、あるいは食べ終わった食料の器なども、鑑定するとがらくたと表示される。

クゥ、鑑定に頼りすぎるんじゃないっていつも言ってんだろ

だがそれはただのがらくたではないとレイユは見抜いた。あまりにも精巧な作りであり、何よりそれには明確に種類があったからだ。

これ何個あるの?おじさん

今回はそれを全部で十万個分持ってきた

そのうち最も小さいものをつまみあげるルヴェに、Olはそう答える。

えー、どう見たって十万個もないじゃない。せいぜい数百個ってとこでしょ?

ルヴェの言葉に、レイユの脳裏に稲妻が走った。相変わらずこの孫娘は、鋭いくせに抜けている。頭でっかちで考えすぎる癖のある妹と足して分ければいいのに、とレイユは常日頃から思っていた。

コレを、一体どうするってんだい

うむ。その袋の中身はひとまずくれてやるとして、今後お前にはそれとドロップ品を交換する権利をやる

慎重に問うレイユに、Olはとんでもないことを言い出した。

何いってるの、おじさん?こんな何の役にも立ちそうにないがらくたとスキルを交換なんてするわけないじゃん

そう、確かにそれは何の役にも立たないだろう。武器にもならなければ家具にもならない。食べられもしない。だが。

これはアンタんとこのフォリオって翼族だね

そのうちの一つを摘まみ上げ、レイユは呟く。問いかけのようだが、返答は求めていない。とっくに調べはついている事だ。

で、こっちはブラン。そしてこれがアンタが担ぎ上げようとしている前魔王の娘、フローロ

よく調べ上げているな

Olの世辞に、レイユは盛大に舌打ちして見せる。こんなものをレイユの元に持ち込む以上、Olの方がレイユの事をしっかり調べてきていることは明白だったからだ。

つまりこれは、ブランがフォリオ100枚分。フローロは更にその100枚分ってトコかい

察しがいいな、その通りだ。単位はまあフローロにちなんでフルとでも呼ぼうか

テーブルの上のそれをじゃらりともてあそび、Olは告げる。あらゆるものがモンスターから産出されるこの世界に、それまで存在していなかった新しい概念を。

これの名前を、貨幣という。俺の世界で最も強い力を持つ道具だ

理解できずに互いの顔を見合わせる姉妹をよそに、レイユはその価値を完全に理解していた。いや、正確には価値という概念そのものであることを。

つまりこれはあらゆるスキルやアイテムの価値を数字にするための道具だね?

流石だな。その通りだ

今まで、あらゆるアイテムやスキルは物々交換で取引されていた。自分の欲しいスキルやアイテムを、欲しがっている者と交換する。だが、自分が欲している物と、相手が欲している物が運良く合致することなどそうそうあるわけではない。

そこに目を付けたのが、レイユだった。不要なものはがらくた以外どんなものでも引き取る。そしてあらゆる品物の目録を作り、落とすモンスターの強さや希少性、有用さなどから釣り合うスキルやアイテムを提示する。

そうすることによってレイユは己の領地以外からもドロップ品を集め、中継し、かすめ取ることによって少ない戦力でもその勢力を維持してきていた。

だがこの小さな金属片が、そのレイユの仕事を全て奪ってしまう。レイユが今まで豊富な経験と勘で行ってきた取引が、誰にでも簡単にできるようになってしまう。

もう一度言おう。貨幣とドロップ品を交換する権利を、レイユ、お前にだけやる

今ならその利益を、独占することができる。これはそういう話だった。