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つまりドロップ品を貨幣と交換するのは、アンタがやるって話なんだね

まあそうなるな

つまりこうだ。不要なドロップ品を手に入れた壁民は、まずOlの所にそれを持っていき、貨幣に交換してもらう。そして次に、その貨幣をレイユの所に持っていき、好きなドロップ品と交換することができる。

そしてレイユは必要なドロップ品を、Olから貨幣と交換で手に入れることができるのだ。レイユだけが、Olからドロップ品を譲り受けることができる。

しかもOlに払う値段より、壁民と交換する時の値段を高くすれば、レイユはその差分を丸々得することができるのだ。

いくつか決めることがあるね。まず、スキルの値は固定で、変えないこと。次に、在庫があるとき売り渋らないこと。そして、アタシが売るときの値段はこっちが勝手に決めさせてもらう事だ。どうだい?

ああ。それで構わん

なんだって?

あっさり承諾するOlに、かえってレイユは驚いた。条件を詰めていくことを前提に、まずはふっかけたのだ。あまりにもレイユに都合がよすぎる条件を、まさかそのまま飲むなどとは思ってもみなかった。

ああ、後は仕入れたスキルをこっちに提示する前に勝手に使うのも禁止させてもらうよ

もちろんだ

更に気づいた穴を埋めれば、それもOlは気にした様子もなく頷く。

取引の場はうちの者に見張らせるからね。誤魔化そうったってそうは

そもそも場所を分けるのは不便だろう。同じ場所で堂々と取引を行えばいい

Olの提案に、レイユは混乱した。あまりにOlに利益がないように思える。

悩むレイユを見て笑みを浮かべ、Olは懐からごとりと鉄の鎧を取り出した。

俺はこれを、いくらでも作れる

Olが鎧を撫でると、それは一瞬にしてざらりと貨幣の山へと姿を変えた。

なんだって!?

Olが貨幣をいくらでも作れるのであれば話は変わる。実質的に無限の富を所有しているようなものだ。レイユは得をするが、それ以上にOlが得をすることになる。

アタシがその話を飲まなければどうするつもりだい?

それは、レイユという大壁族が後ろ盾になるからこそ意味のある話だ。Olなどというどこの誰ともわからぬ人間が貨幣とやらを広めようとしても、乗る人間はいないだろう。レイユが協力しなければ彼の計画は簡単に頓挫する。

ハルトヴァンに持っていくまでの話だ

正気かい?アイツにその話が理解できるとでも?

中層でもっとも有力とされている三人の壁族。ユウェロイとレイユ、そして残る一人のハルトヴァンは極めて単純な男だ。脳味噌までもが筋肉で出来ていそうなあの男に、貨幣などという複雑な概念が理解できるとは思えなかった。

無論お前と組むよりは損はするだろうな。さりとてユウェロイに話を持っていくわけにもいかん

Olが自らの主であるユウェロイに頼まない理由は明白だ。彼は、ユウェロイを追い落とそうとしているのだ。そのパートナーを探し、レイユを選んだ。そういう事だろう。

商売というのは、本来互いが得をするべきものだ。俺も、お前も、そして貨幣を利用する壁民たちも得をする。故に裏切る必要はないし、破綻することはない。できれば俺はそれを、ハルトヴァンではなくユウェロイとでもなく、お前と築きたいと言っておるのだ

揺らぐことなく立ち上る煙に、レイユはカン、と煙管の灰を落とす。

全く、その手口で娘っ子どもも口説き落としたってのかい?やれやれ、こんな婆を口説いてどうしようってんだ

それは随分魅力的な口説き文句だった。もう五十程若かったら落ちていたかもしれない、などとは思うほどに。

アンタみたいなのが孫娘に近づくと知ってりゃ、もうちょっと警戒してたってのに

舌打ちして毒づくレイユに、手遅れですとルヴェとクゥシェがOlの腕にそれぞれ抱き着く。

で、ドロップ品を集める具体的な方策は考えてんだろうね

貨幣を広めるのならば始めが肝心だ。広がりだせば勝手に動くだろうが、まず壁民たちにそれを周知し使ってもらわねばならない。それは言うほど簡単なことではないはずだ、とレイユは読む。

うむ。それを広めるために、お前の領地に作ってもらいたいものがある

何を作るってんだい

また妙なことを言い出すんだろうね、と内心呟くレイユの心情を知ってか知らずか、Olは答えた。

冒険者ギルドだ

第12話冒険者ギルドを作りましょう-2

ネリスさん!見てください!

得意満面の顔でシェロが持ち込んだのは、毛皮の服だった。中層の強敵として知られ、中堅パーティでも出会えば逃げることを推奨される大猿のドロップ品だ。

シェロ様、大猿に勝ったんですの?素晴らしいですわ!これで名実ともに上級冒険者ですわね!

ネリスと呼ばれた女はカウンターに置かれたそれを確認すると、大仰に喜んでパチパチと手を叩いた。シェロは照れくさそうに、しかし誇らしげに鼻をこする。

では査定をいたしますので、他のドロップ品も出して頂けますか?

あ、いえ、今回はこれだけであと査定もいらないです!これネリスさんに差し上げます!

シェロの申し出に、ネリスは口元に手を当てまあと目を見開く。そして申し訳なさそうに微笑みながら謝罪した。

お気持ちは嬉しいのですが、規定で受付は冒険者の方からの贈り物は受け取ってはいけないことになっておりますの

そんなじゃあ、冒険者から受付じゃなく、俺個人からネリスさんに贈るという事では?

なおも食い下がるシェロに、ネリスは首を横に振る。

わたくしがオーナーに怒られてしまいますの。どうか聞き分けてくださいまし

あああのちょっと顔の怖いオーナーさんか

オーナーの顔を思い出し、シェロは少し怯む。確かに彼に怒られるのは恐ろしそうだ、と考えるシェロの手を取ると、ネリスは両手でぎゅっと握りしめた。

シェロ様のお気持ちは、しっかり受け取っておりますわ。それは、規定では禁じられておりませんもの

ネ、ネリスさん!

カウンターの上にぐっと身を乗り出し、ネリスに顔を近づけるシェロ。

その動きを、ゴホンと立てられた咳払いが遮った。

あら、オーナー

すまんが少々用事があってな。ネリスを借りて構わんな?

怖い顔と呼ばれたばかりの鋭い眼光がシェロを捉える。巨大な猿と戦い勝利した彼でさえ、思わず腰が引けてしまうほどの雰囲気がオーナーと呼ばれた男にはあった。

あ、も、もちろんじゃあネリスさん、また来ますね!

はい。お待ちしておりますわ

ニッコリと笑うネリスに手を振って、シェロは逃げるようにギルドを出ていった。

では、休憩に入りますわ

そう言って手を振りオーナーと共に奥の部屋へと向かうネリスを、他の受付嬢たちは羨ましげに見送った。