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鑑定係!

は。その女、ユグという蹄族は確かにスキルを全く所持しておりません

ハルトヴァンの部下がユグのスキルを確認し、彼に報告する。

鑑定は持っているか?お前もワシを確認してかまわん

いや、結構だ。スキルを持っているのなら使っても構わんぞ

Olの言葉に、ハルトヴァンの額に太い血管が浮かんだ。先ほどまでは多分にポーズも含まれていたが、どうやらとうとう本気で怒ったらしい。

この嬢ちゃんを倒した後、お前さんも叩き潰してやるからな。首を洗って待ってろ

お、オーナーさぁん!

ハルトヴァンの部下に拘束されるOlを、ユグは半泣きで振り返る。

大丈夫だ。俺が指導した通りにやってみろ。上手くいったらまたじっくりと復習だ

し、指導

その苦しくも官能に満ちた行為を思い出し、ユグは赤面しつつもハルトヴァンに向き直った。

じゃあ悪いが行くぞ嬢ちゃん!

ハルトヴァンがぐんと踏み込み、まっすぐに拳を突き出す。素人目に見てもわかるほど無駄を削ぎ落された美しい突きが、ユグの鳩尾に突き刺さった。

いたっ!

痛みに顔をしかめるユグ。しかしその反応に、ハルトヴァンの顔色が変わった。彼は今の一撃でユグを沈めるつもりだったのだ。

むんっ!

ぐるりと身体を回転させ、その回転力をそのままにハルトヴァンは踵を叩きつける。ユグの巨体でそれをかわせるはずもなく、かといって捌くほどの技量もなく、彼女の太ももに回し蹴りが直撃する。

うぅっ

だが彼女の受けたダメージは、多少うめき声をあげる程度であった。それもどちらかというと過剰に反応しており、実際にはその声程の手ごたえもない。まるで鉄の盾のスキル持ちを蹴っているような気分だった。

ハルトヴァンは鑑定係を見るが、彼は首を横に振る。ユグが何のスキルも持っていないのは確かなことのようだった。鉄の盾を持っているのなら、呻くほどのダメージすら入らないはずだ。

(まさかワシと同じことをしとるのか!?)

考えうる可能性はただ一つ。ハルトヴァンが気と呼んでいる力を、彼女も使っているという事だった。

そしてそれは正しい。だが同時に、間違ってもいた。

Olは底辺冒険者と呼ばれる者たちが女だけであることに疑問を抱いていた。

確かに女性には戦いに向いていない要素がいくつかある。

例えばリーチの差。

同じ種族であれば、人型の生き物は大抵女よりも男の方が一割程度大きい。

それに月の物の問題もある。

個人差もあるが、動けなくなるほどに重い生理を持つ女性も存在する。

そして、筋力。

女性よりも男性の方が筋力に優れているのは、この世界でも同じだ。

だがそれらの差は、魔力を使えば何ら問題とはならないのだ。

たとえ魔術師でなくとも魔力というのは生き物の中には多かれ少なかれ必ず存在しており、強い力を発揮したり痛みや不調を抑えたりといったことができる。そして魔力量は男性より女性の方が大きい傾向がある為、最終的な筋力差はほとんど生じない。

だからこそ、Olの世界では女戦士というのは別に珍しい存在ではなかった。

しかしこの世界では、そのような魔力の運用が全くされていない。運用を完全にスキルに任せているからだろう。故に、スキルを持たない女性は男性に劣るものとして見なされていた。

ハルトヴァンはこの魔力運用を行っていた。本人はそれを気と呼んでいたが、独自の呼吸法を用いて魔力を巡らせ、身体を強化している。それに加え生まれついて優れた体格もあり、スキルなしの勝負であれば敵なしであった。

だがそれは、あくまで独自の発想によって培われてきたものだ。それに対しユグのそれは、極めて体系的かつ理論的に、Olによって教え込まれたものであった。

性交を通じてOlが相手の魔力を操作し、体内に魔力が流れる感覚を覚え込ませつつ、同時に魔力の経路を開いていく。Olの世界で何百年、何千年と魔術師たちによって培われ洗練された要訣を、更にOlの百年近くに渡る人生で昇華させた方法論だ。

ユグがそれを体験したのは時留結界の中で数か月。現実世界においては僅か二日程度でしかなかったが、その練度は既にハルトヴァンのそれとは比べ物にならない程に高まっていた。

体格で勝り、魔力の扱いでも勝っている。だがそれでもユグがハルトヴァンに勝てない理由が、二つ存在していた。

度胸と、技術だ。

第13話指導の成果を試しましょう-3

どうした!守ってばかりか!?

ひっ!

ハルトヴァンの怒声に、ユグは身を縮こまらせる。彼の拳は硬く痛く、どうしてもそうしてしまう。たまに反撃をしようとするも、それは簡単に避けられ、あるいは反らされてしまう。

とても勝てる気などしなかった。彼女は少し前まで、最下層の角兎にすら苦戦する底辺冒険者だったのだ。それがいきなり中層の壁族、それも武闘派で有名なハルトヴァン相手にスキルもなしに戦えと言われて、どうにかできる気がしなかった。

がんばれ、ユグちゃん!

すると、胸元からそんな声が聞こえてくる。胸の谷間にもぐりこんだシィルの声だった。

と言ってもあたしはおっぱいの中で何も見えないけど!

だが別に彼女が協力してくれるというわけではない。単に一人では心細いと駄々をこねたら、スキルを持たず何もしないならという条件でOlに許されただけだ。胸を通してシィルの声は伝わってくるが、ユグから何か伝えるわけにもいかなかった。

ぴぃぃ、無理だよぉぉっ!

か細い声で泣きながら、ユグは苦し紛れの蹴りを放つ。

うおおおっ!!

ハルトヴァンはそれを容易くかわし、もう片足に全力でタックルした。流石に不安定な状態でハルトヴァンの体重の突進を支えきれず、ユグはその場に尻もちをつく。これを好機と見たハルトヴァンは、その胸元に向けて突きを見舞った。

だめぇっ!

だが初めてその攻撃がユグに受け止められる。胸元にしまわれたシィルも同様に魔力の運用は教えられているが、体格が体格だ。ユグ程の頑丈さは存在しない。ハルトヴァンの攻撃を受ければ致命傷になりかねず、ユグは必死でハルトヴァンの連撃を防御した。

やめ、てぇっ!

そしてその腕をがしりと掴むと、力に任せて放り投げる。ハルトヴァンの巨体が宙を舞い、高くなった天井を掠めて観客席に落下した。

ああれ?

その時初めて、ユグは頭上を見上げる。それは、彼女が初めて目にする遠い天井だった。いつも走ろうとすればすぐに角が引っかかり、頭をぶつけていた天井が、そこにはない。