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だがそれ以前からも細かい違和感はあった。やっていることがちぐはぐなのだ。

そもそもフローロを最下層の奴隷のまま放置していた意味が分からない。

最初は単にOlの実力を試しているだけかとも思ったが、それにしては本気でフローロを殺そうとしているように思える瞬間もあった。

そしてフローロが中層で暮らすようになってからは、何かと理由をつけて彼女をずっと自室に閉じ込め続けた。Olに会わせないためかと思えば、フローロがOlの部屋を訪れるのは一切止めようとしない。

誰かから守ろうとしているのは明白だった。しかしその誰かとは、Olでもなければモンスターでも、敵対する領主たちでもない。

他でもない、ブラン自身だったのだ。

要するにお前は愛する者を殺したくて堪らなくなっていたのだな?

Olの胸板に泣き顔をうずめながら、ブランは頷く。

そしてそれを、精神力でこらえていた

ブランはもう一度、こくりと頷く。

凄まじい精神力、そして忠義だ

おそらくは、通常の人間であれば迷わず愛する者を手にかけてしまうのだろう。だがブランはその忠誠心と思考力によって、その衝動に抗った。人を愛しく思えば思うほど、大事にすればするほどそれを虐げ破壊したくなる。己の心に背き続けるのがいかほどに苦しく辛いことか、かつて似たような経験を味わったOlにはよくわかった。

そして反転を手放したいという気持ちも反転させられていたわけだな

なぜそれがお分かりになったのですか?単に手放すことを禁じられているだけの可能性もあったはずです

スキルを抜き取るには、本人の同意がなければならない。ブランがそれを手放すには、ほんの一瞬でも心からこの呪われたスキルを手放したくないと思う必要があった。

そうだな。だが動作であればともかく、思考を禁じるというのは非常に困難だ。動作を禁じる場合も、禁を犯せば耐えがたい苦痛を味わわせるという手段を取るのが精々だろう。──そしてお前なら、その苦痛を耐えて見せたはずだ

はい。実際その苦痛も感じておりましたから

あっさりと首肯するブランに、Olは苦笑する。この娘とでは契約での縛りも意味をなさないという事だ。

一つ問おう。お前にそれを付けたのは誰だ?

それは──

ブランが返答に逡巡したその時。

部屋に駆け込んできたのは、ユウェロイとフローロであった。

Olから報告を聞きました。もう、大丈夫なのですか?

はい姫様。本当に申し訳ございませんでした。ユウェ。あなたにも、苦労をかけました

抱き合い、慰め合う娘たちを横目に見つつ、Olは今聞いた情報をどう扱えばよいものか思い悩む。

ブランは確かにこう言った。

自分に反転を付けたのは、魔王──フローロの父であると。

第15話封じられた箱を開きましょう-1

オーウルっ!今日からわたしもOlと一緒に探索できますよー!

いや、俺は探索はせんぞ

嬉しそうに飛びついてくるフローロに、Olはそっけなく言い返す。

何でですか!?

必要がないからだ

Ol自身が探索に出てドロップ品を稼いでくるよりも、冒険者たちの管理をしてその上前をはねた方が遥かに効率がいい。とはいえ、冒険者たちを管理するというのは言うほど簡単な話でもなかった。

元居た世界の冒険者というのは所詮まともな職に就けないごろつきの成れの果て。野盗よりは多少マシという部類の人間に過ぎなかったが、こちらの世界ではダンジョン探索こそが万人の就く職業だ。それゆえ、人間性で言えばおかしな人間の比率は比較的少ない。

にもかかわらず、問題は頻出した。あのパーティが獲物を横取りしただの、ドロップ品だけ盗んでいっただの、魔族だけのパーティのくせに生意気だだの、Olからしてみれば下らないとしか思えない話の仲裁をいちいちしつつ、利益を最大化するためにひよっこ達の面倒を見てやらねばならない。

基本的なスキルの使い方から戦術の運用、モンスターの特徴や対応方法、最適な狩場の紹介に普段の訓練方法などなど。そうして分かったのは、思った以上にこの世界の人間たちがふんわりとした認識で行動しているという事だった。

そもそも、訓練をするという意識がほとんどない。能力というのはどんなスキルを持っているかで決まり、それは自分の上となる人間から与えられたり、モンスターから偶然ドロップしたりといった方法で得られるものだからだ。

そんな連中を何とかまとめ上げて教育し、訓練を施し、いっぱしの探索者にしてやる。冒険者という仰々しい名前だってその一環だ。ただの探索、言ってしまえばそれは狩猟でしかない。

それを敢えて冒険と呼ぶことで、未知への挑戦言い換えれば成長を促し、生活するのに最低限必要な狩りで満足していた者たちの生産性を向上させた。

ナギアが存外そういった分野については優秀だった為なんとかなっているが、こんなものを一人で回していた元の世界の部下、商人のノームの手腕にOlは改めて感心した。

行きましょうよー

そんなに行きたければ一人で行けばよかろう。お前に合ったパーティメンバーも斡旋してやるぞ

わたしはOlと行きたいんです!

書類にペンを走らせ続けるOlに横からぎゅうぎゅうと抱きつき駄々をこねるフローロ。毎夜のようにその身体は可愛がっているとはいえ、ここの所ロクに相手してやれていないのも確かなことだ。今日は差し迫った問題も発生していないようだし、そろそろ構ってやるか。

オーナー!大変です!

急報が届いたのは、Olがそんなことを考えた直後のことであった。

これは凄まじいな

目の前に広がる光景に、Olは思わずそんな言葉を漏らす。通路をまるで海がおしよせてきたかのように埋めつくしているのは、毒々しい緑色の軟体生物。

泡雫球と呼ばれるモンスターの群れであった。

一体一体は不定形のネバネバしたスライムのようなモンスターで、その名の通りぶくぶくと表面から泡を立て、それが宙に浮いて漂っている。

その泡の中には毒素が含まれており、下手に割ると中毒症状を起こすらしかった。

対するOlは総力を連れての対応だ。フォリオにラディコ、サルナーク。ルヴェとクゥシェのスィエル姉妹にその従者のテール。冒険者としてみるみる頭角を表しているシィルとユグ。ユウェロイやハルトヴァン、レイユたちもそれぞれ部下を率いて事の鎮静に当たっている。それ程の事態であった。

気をつけてくださいね。この泡雫球の毒には解毒が効きにくいそうです

翼族の参謀、フォリオがそう忠告をする。

一体一体は大したことはない。サルナーク。フォリオ、ラディコと共に数を減らせ。ルヴェ、クゥシェ、テールの三人は居住区に向かう泡雫球を食い止めろ。シィルとユグは壁民の避難だ