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彼らはいわゆる動く死体(リビングデッド)であり、Olの魔力で仮初の命を吹き込まれた生ける屍である。

あなた、本当に他人を信用してないのね

周りを見渡し、リルは呟く。ガーゴイルは契約によってOlに完全服従を強いられている。命令されたことだけを忠実にこなし、命令されていない事はけして出来ない。中級以下の悪魔と契約する時には良くある種類の契約だ。

死体達はそもそも自我さえ存在しない。Olの魔力によって動いているだけの操り人形だ。

唯一自由意志を持っており、ある程度自分の意思で動けるリルも、やたらに細かい契約によって出来る事は限られている。

その徹底した対応に、過去に何かあったのだろうとリルは当たりをつけたが、それに対して詮索はしない。

Olの事を慮ったのではない。契約に過去を詮索しないという条項があったからだ。

では、次の村に行くか

リルの呟きが聞こえなかったのか、それとも聞こえたが無視しているのか。

Olは呟きに答えることなくそういった。

次? まだ村を襲うの?

この村にあった食料や金品はそれぞれもてるだけ死者達に持たせてある。それほど豊かな村ではないとは言え、冬が近いせいか膨大な量だ。リルは食事はできるものの必要ではないし、Ol一人なら十分すぎる量がある。

いいや、むしろここからが本番だ

ニヤリと笑みを見せるOlに、リルは額に手を当てる。まだ丸一日程度の付き合いだが、この笑みを見せる時のOlは大体ロクでもない事を考えている時だとわかってきたからだ。

ピシャアアアアッ!!

空間自体が破裂するかのような独特の轟音と共に、稲妻が地面を焦がす。

天気は雲一つない晴天。雷どころか雨さえ降りようのない状態で落ちた稲妻は、Olの魔術によるものである。

魔力を食う割には攻撃範囲も狭く、威力もそれほど高い訳ではない。生物を殺すには十分であるが、石や岩といった無生物には殆ど効果がないのだ。そんな使い勝手の悪い魔術であるが、相手をただ脅すのにはかなり有効な術だった。

突然の雷鳴に驚き、村人達が何事かと家から出てくる。そこで目の当たりにしたのは、真っ黒なローブに身を包んだ怪しい男と、申し訳程度の衣装に身を包んだ女、そして、血だらけの軍勢だった。

良く聞け。我が名は邪悪なる魔術師、Ol

さっきも思ったんだけど、邪悪なる魔術師って自分で自称するのはどうなの?

うるさい。こういうのはわかりやすい方がいいんだ

小声で突っ込みを入れるリルに、やはり小声で言い返す。

今日は貴様らに取引を持ちかけに来た

とりあえずOlは、すぐ目の前にいる一番年かさの男に向けて話を進める。

と、取引ですか?

先ほどの村に比べ、こちらの村はかなり及び腰だ。前の村の村長の様な手だれがいない事もあるが、Olの背後に控えるアンデッド達の存在も大きい。

そうだ。我に月に一度食料を、そして年に一度美しく清らかな乙女を捧げよ。さすれば、我が祝福を汝らに与えよう。作物は凶作に見舞われる事なく、狼も小鬼も盗賊も汝らを脅かす事はなくなるだろう

リルが意外そうな顔をするが、それは無視する。

そのもし、取引に応じなかったら?

恐る恐る尋ねる村人に、Olは軽く手をあげる。その合図と共に、背後の死者達が数歩前に出た。

この者たちは、取引に応じなかった愚か者どもだ

ゲオルグさん!

中でも村長だったものの顔を見て、村人たちの何人かが声をあげる。

あのオッサン有名人だったんだね

あの程度の規模の村にしては破格の腕だ。さもあろう

Olはリルの呟きに答えてやる。

我に敵対するならば、待つのは死などと言う生ぬるいものではない。果て無き永遠の苦役だ。しかし、取引に応じるならば汝らは百年の豊穣を得よう。差し出す食料よりも豊かな実りを。差し出す娘よりも多くの身の安全を約束しよう。さて、汝らが長は賢き者か? それとも愚かなる者か?

村人達は顔を見合わせたが、答えは大体決まっているのだろう。

さほど揉めた様子もなく、彼らはOlに恭順を誓った。

良いだろう。ならば村の中央に祭壇を作り、毎月一の日に供物を捧げよ。供物は牛を一頭、豚を二頭、鶏を五頭。作物はその月に取れた種類全てを、五分ずつ捧げよ。娘も同様に、竜の月の一の日に祭壇に待たせよ。良いか、娘は美しく、男をまだ知らぬ清らかな乙女でなくてはならん

ほんっと細かいなあ

ぼそりとリルが呟くが、これはまた無視。

その後、監視と護衛の為にガーゴイルを村の中央に置き、田畑に豊潤の呪いをかけ、祭壇の作り方について簡単に指示を残すと、Olは死者達とリルを連れて村を後にした。

ふうここに戻ると落ち着くな

その後数日をかけて近隣の村をいくつか回り、同様の契約を結んだ後Ol達はダンジョンへと戻ってきていた。

結局最初の村以外は抵抗するものもなく、全部で6つの村と契約した。多少遠い村もあるが、ダンジョンコアの魔力を用いて転移の術を使えば問題ない。村人たちに作らせた祭壇は転移の術の目印でもあった。

滅ぼした村から持ち込んだ家具で殺風景だった一室も随分落ち着いた空間となり、Olはソファにゆったりと身を沈めた。

でも、ちょっと意外だったな。てっきり全部滅ぼして奪いつくすのかと思ってたから。逆に魔力を分け与えて、生活を保障してあげるなんてね

実際そうしたところで良心の呵責を覚える訳ではないが、ある程度村人たちの事も気遣ってやるのはリルにとっても好ましい事だった。悪魔といえども、別に破壊と殺戮の化身と言う訳ではない。

そんな事をすれば幾つ村があっても足らんからな。人間が家畜の世話をしてやるのと同じだ。奴らが飢えて死に、生活も出来なくなれば、こちらにも実入りがなくなる

ああ、なるほどね

家畜と同じ、という説明はリルにとってはしっくり来た。悪魔から見た人間はちょうどそんな感じの存在だからだ。自分にとって益になる存在だから無闇に殺すのは気が進まないし、無抵抗のものを殺すのには若干の抵抗を覚えるが、自分に牙を剥くものであれば殺す事に何のためらいもない。

Ol、あなた本当に悪魔以上に悪魔みたいね

誉め言葉と受け取っておこう

多少憮然とした表情でOlはソファから腰を上げ、ベッドへと移動する。

まだまだやらねばならん事は山積しているが、とりあえずは一仕事終わったな。今日はそろそろ休むとしよう。来い

当分は必要ないんじゃなかったの? それにどうせ、すぐ若い娘が来るんでしょ

そういいつつも、命令は聞かない訳にはいかないのでリルはベッドに近づく。

やれやれ、まだ臍を曲げているのかと、Olは内心嘆息するが、表情には出さない。

最初の娘が来るのは2週間後だな。まあ、抱く為だけに処女を要求した訳でもないが