無論、三回チャットを送って全部拒否されたら連絡を受けるつもりがないと諦めるか、あるいは直接会ってみるというのも手だろう。
アルト辺りに聞いてみれば、友好関係の広いアルトの事だ。知っているかもしれない
――チャットにしぇりるさんが参加しました。
「あ、突然すいません。絆†エクシードと言う者ですが、一週間程前貴女の店で船を購入したんです」
「…………」
あれ? 反応がない。
ちゃんと繋がっているか? いや、電話じゃないんだ。間違え電話みたいな事は早々ないだろう。何より別段複雑な名前でも無いのだから間違えようがない。
「聞こえていますか?」
「……聞こえてる」
「それはよかった。それで、ご相談なのですが、先日買った船は二人乗り位のサイズでしたが、もっと大きな船は売っていませんか?」
「……ない」
「そ、そうですか……」
少し期待していたのだが、そう簡単に上手く行く訳ないか。
さて、そうなると次の案を考えないとな。
「お時間取らせてすいません。では――」
「だけど、材料さえあれば作れる」
「材料、ですか」
「船を買った人物に心当たりは一人しかいないから……多分あなたの事、覚えてる。4万をぽろっと出せる人なら材料も揃えられるかもしれない」
なるほど。
記憶が確かなら、4万セリンで材料と経費だったはず。
彼女の目的は不明だが船を進んで作っているのだから、材料費さえ出してくれるなら、製造スキル持ちとしては願ったり叶ったりと考えられる。
「……具体的な材料数は船の大きさによる。希望は?」
「三人の人間が自由に動いて戦える位の大きさなのですが可能でしょうか?」
「…………」
「えっと」
「……待って、計算してみる」
地味に無理な相談しているよな。
しかし船の材料か。
仮に今所持している船が3万5000セリン位で作られていたとして、この3倍……いや、4倍から5倍の大きさだったとすると17万程になる計算だ。
正直、そこまで来ると高過ぎる。所持金も相当オーバーしてしまう。
「……こっち来れる?」
「はい?」
「あなた、こっち来れる?」
「こっちとは第一ですか?」
「そう」
「行こうと思えば可能ですが、今は第二にいるので少し掛かるかと」
「そう」
「一度実際に会おうという事ですか?」
「……そう。できれば、三人と言ったもう二人も連れてきてほしい」
一度硝子と闇影に視線を向けた後、少し考え。
「仲間内で相談した後で良いですか?」
「ええ」
「それなら、何時頃に行けば良いでしょうか」
「いつでも構わない。あの時と同じ場所で店を出してるから」
――しぇりるさんがチャットから離脱しました。
まだ分からないが少しは前進したのかもしれない。
……それにしても主語が無い子だったな。少し話していて大変だった。
「どうでした?」
二人が訊ねてくる。
当初より話の内容が変わっている。説明する必要があるな。
「一応連絡は取れた。唯、もしかしたら製作から手伝う事になるかもしれない」
「どういう事でござる?」
「まあそこ等辺の出費は俺が出すから安心してくれ、重要なのはそっちじゃない」
「と、言いますと?」
「製作者に直接会う事になった。本人曰く俺以外にも硝子や闇影に会いたいらしい。一応会うかどうかは本人しだいって事にしたけどな」
彼女も『できれば』と口にしたので、可能なメンバーだけで行くのが無難だろう。何より彼女にそんな強制力はない。まあ俺個人としては全員で行きたいが。
「それでは全員で参りましょうか」
「了解でござる」
「いいのか? 事後承諾みたいな感じになったけど」
「はい。行き詰っていた状況ですし、絆さんだけに苦労を強いる訳には参りません」
「自分は絆殿と函庭殿の影でござる。影は常に後ろに居る物でござる」
喜べば良いんだろうが、最後のストーカー宣言についてはごめん被る。
ともかく俺達は徒歩で第一都市に向かう事にした。
仮に話が流れたとしても今日の所は多少効率が悪くても夜に常闇ノ森で狩る事になった。ケースバイケース、といった感じの流れだ。
マリンブルー
「いた。あれだ」
俺達三人は第一都市にある、一週間前俺が船を買った広場に来ていた。
露店には俺が購入した船と同じ物が並んでいる。
くすんだブルーグレーの髪にマリンブルーの宝石が胸に付いた晶人の無表情な少女。
オーバーオールを着ているしぇりるは一週間前と同じく暇そうに空を眺めていた。
「あの方ですか? 女性の方だったんですね」
「絆殿は婦女子ばかりに目が行くのでござるな」
「……なんか俺、責められてないか?」
謎の追求を無難に避けつつ、露店の前に立つ。
するとしぇりるの視線が下がって俺を見詰めた。
「ん」
……何だ、そのセリフは。
挨拶か何かなのかもしれないが、どうも掴み所がない。
「さっき連絡した絆だ。言われた通り仲間を連れてきた」
「そう」
「初めまして、函庭硝子です」
「そう」
「自分は闇影でござる。何ならダークシャドウでも良いでござるよ」
二人としぇりるは各々に自己紹介を始めた。
しかし闇影さん。あんた、まだそのネタ使うのか。
「……わかった。闇子って呼ぶ」
「くっ!」
咄嗟に口元を押さえる。
「な、何故その名称を知っているでござるか!?」
「……別に?」
このネタに持っていく発想は俺だけじゃなかった。
どうでもいいが、少ししぇりるに共感を抱いてしまった。
ともあれ商談だ。
あまりにも突飛な値段を請求されれば船所じゃないからな。
「それで、船作りの商談にどうして二人が必要だったんだ?」
「どうして船が必要なのか、知りたかったから」
「……? 船の必要性と人数は関係ないのではないですか?」
「そうでもない。一人で船は動かせないから」
確かに小船程度ならどうにか戦えるが、大きな船となるとそれも難しそうだ。
「聞きたい。どうして大きな船が必要なの?」
「嘘を吐く理由がないな。単純に経験値がおいしそうだと思ったからだ」