これからどうなるかなんて解らないけど、この四人なら大海原でもやっていける気がしてきた。
「とりあえず俺から書くな」
受け取った紙の名前欄にはしぇりると書かれており、触れるとオートで絆†エクシードと記入されて、OKの欄を押した。文字を自分で入力するのかと思っていたよ。
そして隣にいた硝子に渡し、硝子は記入後、闇影に渡して所有権は全員に行き渡る。
「じゃ、船、作り始める。できたら連絡する。それまで自由にしてて」
そう言うとしぇりるは大量のアイテムを前にスキルを唱えて船製作に入った。
時間はそんなに掛からないと思うが、話によれば個人ホーム、要するに住居などの製作には数時間要したって話をアルトから聞いた。
四人の人間が自由に動ける規模の船という事は同じ理論が適応する可能性が高いので、自由時間という事なのだろう。
見ているだけというのは辛いが、船製作に必要なスキルを所持していない俺が近くにいても邪魔なだけだ。今はしぇりるを信じて我慢しよう。
「絆さん、闇子さん、これからどうしますか?」
「先日装備を新調したばかりでござるので、自分は特に用事はないでござるよ」
「俺は船の製作工程を見てようかと」
「良いですね! では、皆でしぇりるさんを応援しましょう」
邪魔にならない距離で製作工程に入ったしぇりるを凝視する俺達。
「…………」
相変わらず表情は無表情だが、一瞬しぇりるが微妙そうにこちらをチラリと見た。
いや……原因は俺だが、精神的に邪魔しているよな。普通に。
ま、まあ仲間想いのパーティーという事で納得してくれると信じている。
ちょっと馴れ馴れしいだけだから、うん。
とりあえず俺は祈った。
俺達が邪魔した所為で船の出来に影響が出ません様に……。
大海原へ
それから船が完成したのは三時間後だった。
いや、実際船を作ったらもっと掛かるんだろうが、そこはゲームなのだろう。
最初こそチラチラと俺達を気にしていたしぇりるだったが、直に集中力を発揮して船はみるみる形成されていき、やがて大型クルーザークラスの帆船が出来上がった。
材料の中でも結構な額がした丈夫な布はこの材料だったのか。
しかし帆船とか実際には見た事無いけど、結構迫力あるな。
今は海に浮かべていないので帆は閉じられているが、これが広がるともっと凄そうだ。
「やっぱ四人で動けるとなると結構大きいんだな」
「そう」
「お? 船の後ろの方に弓みたいの付いているけど、これはなんだ? バリスタ?」
「そう」
「なんでも『そう』だけで片付けるのやめないか?」
「そう」
「…………」
まあいい、今日は俺達の船が完成した記念すべき日だ。
無粋な事は言わないさ。
……今日だけはな。
俺が黒い笑みを浮かべていると硝子がおろおろとしている。
どうやら俺がしぇりるに対して抱いている感情を読み取ってしまった様だ。
「さて、早速海に行くか?」
「……うん」
「自分は船が出来上がってから身体がソワソワしているでござる」
そうだろうな。
身体全体が妙に揺れていて、興奮で飛び出して行きそうだ。
「いきなりで大丈夫でしょうか?」
硝子が未知への不安を洩らす。
確かに俺達スピリットは安全を第一に動かなければいけない種族なので気持ちは解る。
「……大丈夫」
「……しぇりるさん」
見詰め合う硝子としぇりる。
え? 何、そのちょっとフラグ立ちましたみたいな雰囲気。
というか今までの流れ的に突然過ぎないか?
「最初は近場で練習する」
「練習ですか?」
「そう」
「何の練習ですか?」
「そう」
「いえ、ですから」
「そう」
「えっと……」
なんか硝子が助けを求める表情でこっちを見て来る。
まあこの二人に百合フラグが立つ事はありえないよな。
性格的に。
ともあれ間に入って仲介し、俺達は海へと向かった。
†
「じゃ、出す」
アイテム欄からしぇりるは帆船を取り出した。
あの四人が乗れる程巨大な船をどうやって収納したのか、とか考えていはいけない。
この世界はゲーム。
四次元的な効果で取り出したと思って納得した。
ザバーンッと小さな波を立てて海に浮かぶ俺達の帆船。
「そうだ……一応スキル取得しとくか」
誰に呟くでもなく、俺はメニューカーソルからスキル欄を選択。
船上戦闘Ⅰ。
船上専用スキル。
船の上で発生するあらゆるマイナス補正を軽減し、プラス効果を付与する。
毎時間200のエネルギーを消費する。
取得に必要なマナ200。
獲得条件、12時間以上船で行動する。
ランクアップ条件、84時間以上船で行動する。
船上戦闘Ⅱ。
船上専用スキル。
船の上で発生するあらゆるマイナス補正を軽減し、プラス効果を付与する。
毎時間400のエネルギーを消費する。
取得に必要なマナ600。
獲得条件、84時間以上船で行動する。
ランクアップ条件、168時間以上船で行動する。
取得した瞬間、ランクⅡが出現したので、そのままⅡまで取得した。
マスタリー系と違って具体的な効果が書かれていないが、どうなのだろう。
多少損になるが、効果が微妙なら後々マナ半分を犠牲にしてスキルをランクダウンさせればいいか。
「絆さん、行かないのですか?」
言われて周囲を見回すと既に闇影としぇりるが船の上にいた。
なんという速さだ。
「じゃあ、行くか」
「はい!」
大きな船なので、以前の物より安心感がある。
俺はぴょんと飛んで船に飛び乗った。
「うん。行けそうだな」
結構力を入れたつもりだが、ビクともしていない。
これなら硝子と闇影がいれば怖くないはずだ。
ん?
いつになっても船に乗らない硝子に気が付いた。
というよりも船の前で気不味そうな、心配そうな表情を浮かべている。
「どうした?」
「えっと……お恥ずかしながら、ちょっと怖くて」
あ~確かに、船って独特の緊張感があるよな。
揺れとかもあるし、浮遊感みたいのもあって怖い気持ちは理解できる。