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「大丈夫だ。海なら多少経験がある。慣れるまで、俺が支えるからさ」

そう言って硝子に手を伸ばす。

硝子は、はにかんだ笑みを浮かべて俺の手を握り、俺は引っ張って船に乗せた。

「な、大丈夫だろう?」

「そ、そうですね。絆さんとなら、安心できそうです」

「それ、勘違いされるから、あんまり言うなよ?」

「……?」

一瞬ドキっと来たじゃないか。

硝子って時々こういう無防備な事言うから怖いんだよな。

これで本人に自覚があったら問題あるんだが、反応からして気付いて無さそうだし。

そんな気分を誤魔化す為に闇影達の方を向くと……。

「タイタニックでござるー!」

「……そう」

闇影が船の先頭で両手を広げていた。

なにやってんだよ……。

しぇりるが微妙な顔しているじゃないか。このお調子者が。

「そういう縁起でもない事するなよ。沈んだらお前の所為だからな!」

「ふふっ」

闇影に注意していると背後から小さな笑い声がした。

振り返ると硝子が笑みを浮かべている。

いや、硝子は良く笑う方だが、今回のは違う。

今までに見た事のない、楽しそうな笑みだ。

「硝子、笑い事じゃないぞ」

「す、すみません。つい」

「つい?」

「いえ、皆さんと一緒にいると楽しい、と思いまして」

「……そうか」

楽しい、か。

MMOの醍醐味は見ず知らずの誰かと一緒にゲームをする事だからな。

「私は今までずっと、強くなる事に固執していましたが、絆さん達とこういう風にしている方が合っているのかもしれません」

「そう言われると照れるな」

前線組の効率から見たら、俺達は相当アレだと思う。

でも、誰も見た事がない海へ向かうと考えると心が躍る。

この感情を共有できた事がちょっと……いや、かなり嬉しかった。

それに。

「だけどな、硝子。俺はネタプレイに生きると決めた訳じゃないんだからな」

「わかっています」

海へ行くのはエネルギー獲得量も兼ねているし、海の向こう側に可能性を見出しているからでもある。できれば硝子がエネルギーを失った事で前線から離脱したのを少しでも補えれば、とも考えている。

無論、絶対に何かあるとは思っていないが、可能ならば硝子が一度夢見た前線復帰の手伝いもしたい。

今はまだ、足を引っ張っているが、四人で何かできれば良いな。

「じゃあ、出航と行くか!」

「はい!」

――こうして俺達は大海原へ旅立った。

小さな失敗、大きな経験

「やっぱ帆船は違うな!」

俺達四人の船が出港した際の言葉はこんなものだった。

手漕ぎボートは性能上、沖に行くのに時間も労力も掛かったからな。

その点帆船は違う。

おそらくしぇりるは舵スキルを取得しているのだろう。

しぇりるが船を動かして俺達は海を眺めるという、ある種旅行気分だ。

「天気も良いですし、海というのは気持ちの良いものなんですね」

日によってまちまちだが今日は天気が良い。

どういう物理エンジンを積んでいるのかは知らないが、曇りの日や雨の日まであるので出港式としては幸運に恵まれた。

硝子の評価も上々だし出発点はうまくいったと見て良いと思う。

「しぇりるはモンスターの分布知っているのか?」

一応訊ねる。

俺も多少船であっちこっち探索した経験こそあるが、具体的な分布は知らない。

マグロが取れる位置は覚えているので必要がなかったともいえる。

「ん。弱いのから順に、試してみる」

帆を調整しながら言った。結構大変そうだな。

以前船を動かす奴が必要といったが、確かに一人は舵をする奴が必要だな。

「じゃあ俺は金稼ぎに釣りでもしてるから、敵は硝子と闇影に任せるぞ」

「わかりました」

「承知でござる」

モンスターが多数やって来たら俺も援護するが、一匹や二匹なら二人で十分だろう。

若干約一名がエセ忍者っぽいポーズで『にんにん』言っている所に一抹の不安が残るが……。

それよりも船の所持率が少ない現在、マグロやタイを売れば金になる。

帆船作成で失った金を少しでも増やすには丁度良い。

そういう訳で俺は釣竿――船の材料集めのついでに作ってもらった『人面樹の竿』を取り出した。

トレントの木が材料なのは言うまでもないが、比較的良い物を使ったので+1。

これで竿の性能もランクアップだぜ。

という訳で糸を海に垂らす。

最近は釣りよりも戦闘や商談が多かったので、なんか久々に感じる。船が海を切り裂いて進むので今までとは違う感覚を伴ってこそいるが、やっぱ釣りだよな。

「釣れますか?」

「どうだろうな。釣れる時もあれば、釣れない時もあるからな」

まあ現実よりは釣れるけどな。

という補足も踏まえて護衛兼最高戦力の硝子と話す。

「しかし絆さんとしぇりるさんが仰っていましたが、海は随分と広いんですね」

「まあ海だしな」

「いえ、そうではなく、絆さん達の言葉を疑う訳ではありませんが、先が見えないというか、どこまで続いているのか不透明に思えます」

「……まあな」

水平線を遠い目で眺める硝子に深く同意できる。

どこまで続いているのか分からない。

それはある意味、不安でもある。

先に進めば進む程モンスターが強くなるというのもそれを拍車をかける。

大昔のRPGは船を手に入れると自由度が広がった。しかし誤った道へ舵を取れば凶悪なモンスターが沢山沸いて全滅、なんて事もあったが……まさかな。

そんな時は逃げれば良い。

手漕ぎボートで逃げ切れたんだ。

帆船としぇりるの腕があれば適正な場所で戦える、はず。

「……敵、臨戦態勢」

これからの不安に胸を焦がしているとしぇりるが突然そう言った。

俺は釣竿片手に周囲を見回すと東北の方向から黒い影、以前俺が戦ったキラーウイングがこちらに向かって急速接近している。

「自分の出番でござるな!」

ドヤ顔で言い放つ闇影。

頼りになりそうな気もするが、お調子者な所に不安が残る。

「行きます! 充填……」

扇子を構えて硝子はいつもの鬼神染みた気迫と共にキラーウイングへ対峙した。

前衛が硝子で闇影が後衛。たかが一匹相手に遅れは取らないだろう。俺は攻撃を受けない様に気を付けて立ち回れば良いか。