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そうこう考えている間にキラーウイングは攻撃の届く距離まで接近していた。

硝子は扇子をキラーウイングに向け、闇影はドレインを詠唱する。

「――!」

一呼吸置くと硝子はキラーウイングの攻撃を避けながら扇子を薙いて当てる。

いつも通りの硝子に清々しさすら感じていると……何か変だ。

薙ぎが命中してキラーウイングの体勢が崩れた、までは良い。未だキラーウイングは健在だが連続での攻撃、更には闇影のドレインが次に控えている。

だが力の籠もった薙ぎを当てた硝子は自身の遠心力に囚われて船の外側へ――

「って落ちるぞ!」

パシっと空を切っていた扇子を持っていない方の手を間一髪に掴む。

硝子の不安そうな表情は俺が掴んだと見るや安堵の色に変わった。

……俺、今かっこいいんじゃね?

じゃなくて。

「大丈夫か?」

「は、はい!」

一瞬呆気に取られていたが直に頷くと硝子は体勢を立て直す。

「どうしたんだ?」

「いえ、足が……」

足が?

あれか、地上と船の上では感覚が違うって事か。

まだ断言はできないが俺は船上戦スキルを取得している。

だから補正が付いていると考えれば、硝子が本領を発揮できない理由も頷ける。

――ドボーンッ!

何か大きな物が海に落ちる音が響く。

若干ブクブクと泡の様な音も聞こえてキョロキョロと周囲を急いで探す。

闇影がいない!

「……ヤミが落ちた」

しぇりるの淡々とした言葉が耳に入り、焦りは高まる。

俺達の中で戦闘メンバーが事実上壊滅状態。

「……助けてくる。絆と硝子は敵と船をお願い」

「わかった!」

俺が頷くとしぇりるは海へと飛び込んだ。

そういえば船を作る前は泳いでいたとか話していた記憶がある。

多分水泳スキルでもあるのだろう。

そんな事よりも今は思考をキラーウイングに集中させる。

「船の戦いは陸とは違うっぽいな。慣れるまでは俺が援護する」

「わかりました」

「船から落ちない様に助けるから」

硝子が頷くのを見て、俺はアイアンガラスキを握る。

キラーウイングは鳥系、相性は良い。

更に言えば、そこまで強い敵でもない。

ここで立ち止まってしまえば、あの海を越えるなんて夢のまた夢だ。

「よっと!」

キラーウイングの攻撃をステップで避ける。

船が広いので以前みたいな殴り合いは避けられた。

「今だ!」

「乱舞一ノ型・連撃!」

既にある程度チャージが完了していた扇子から攻撃スキルが発動する。

横からキラーウイングの胴へ命中。ついでに俺も便乗して攻撃しておいた。

その甲斐もあって元々そんなに強いモンスターという事でもないが、鳥系が打撃に弱い事、硝子の装備や能力、蓄積ダメージなどの関係も相まって倒れた。

「だが、これは……」

「残念ながらマイナスですね……」

パーティーを組んでいるので経験値は300を四人で均等。パーティー補正を含めてもスキルを使った時点でマイナスといえる。

闇影に至っては海への落下でダメージを受けているからな。

「対策が必要だな……」

補足だが、竿が引かれていたので釣っておいた。

ニシンだった。

対策と結果

「ううっ……酷い目にあったでござる……」

海水で水浸しになった闇影が言った。

あれから数分も経たない内にしぇりるが救出に成功して、今さっき引き上げた所だ。

それにしても、まさかこんな事になるとは想像もしてなかった。

三国志か何かで陸地と海戦ではまるで違うという話をマンガで読んだが、ここまで違うとは。三国志の場合、赤壁は河だが、似た様な物だろう。

史実は知らないが演義だと圧倒的な数で上回っていた魏に策略を使ったとはいえ呉が勝利するんだったか。

そう考えると船での戦闘は船上戦スキルが必要になりそうだな。

「……そういえば練習とか言っていた覚えが」

出航前、硝子に向かってしぇりるが近場で練習すると言っていたのを思い出す。

しぇりるさん、まさか分かっていたのか?

気付かれない様に視線を向ける。

するとしぇりるは相変わらず感情の読めない表情をしていた。

まさかな。

「しぇりるは船上戦闘スキルどれくらいだ?」

「熟練度124でレベル3。絆は?」

「レベル……は分からないが、ランクⅡだ」

スピリットは種族柄、他の種族とは違うという事なのだろう。

正直、熟練度だのレベルだの言われても今一分からない。

憶測だがレベル3はスピリットでいうランクⅢの事を指すのではなかろうか。俺達スピリットは船の上での滞在時間だが、レベルの場合条件が違ったりするのかもしれない。

「絆さんが船の上で迅速に行動できるのはスキルのおかげなのですか?」

「ああ。取得条件は船の上で12時間経過だ。取得するか考えておいてくれ」

「12時間ですか……短い様で長いですね」

取得する気マンマンの硝子は取得条件を聞いて少しがっかりしている。

確かに12時間は夜目と比べると比較的に条件は軽いが、ちょっと長い。

「にしても闇影はなんで落ちたんだ? ドレインを詠唱していただけだろう?」

「それが自分にも理解できないでござる。気が付いたら海に落ちていたでござる」

「……詠唱で意識が足にいかなかったのかも」

「あーありえるな……」

結構船の揺れは無意識にバランス取っているからな。

詠唱が仮に全意識を使う、みたいに設定されていたら転がって海に落ちる、なんて事も十分考えられる。

この辺りは船上戦闘スキルで補えるのか? 補えると良いんだが。

というか補えなかったら船の上で魔法スキルが死んでいる事になるぞ。

無論、誰かが支えて魔法を唱えさせるとか仮案はあるが、現実的じゃないよな……。

「絆さん!」

う~んう~んと思考していると突然硝子に話しかけられた。

振り返ると目が輝いている。何か名案でも閃いたか。

「絆さんが私と闇子さんの手を握って戦うというのはどうでしょう!」

「……え?」

いや、どんな戦い方だ。

そりゃ足を引っ張られた硝子の安定を保つ事はできる。幸い硝子の武器は片手で使える扇子だ。更に闇影の詠唱による海落下防止もできるだろう。