心配してないかと言われれば嘘になるが、今直ぐ会わなきゃダメって程でもない。
「……そうでもない」
「大丈夫だろ。一応前線組だしな」
「違う。絆には第一へ帰還。情報収集してほしい」
なるほど。一理あるな。
海から船で帰れば距離の関係、帰還アイテムを使うよりは時間が掛かる。
その点、パーティーメンバーの誰かが情報収集に先行するのは十分ありだ。
「だけど、それは俺じゃなくても良いんじゃないか?」
「絆はこの中で一番友好関係が広い。情報集めなら、絆が適任」
「しぇりるさんのお言葉通りですね。絆さんが一番かと思われます」
「自分、人と話すのが苦手でござる故」
確かに前線組の紡、姉さん、アルト、ロミナ辺りに聞けば現状を把握するのは早そうだが、面倒を押し付けられている気もする。本音を言えば、それを喜んで頷いてしまう俺はシスターコンプレックスなのかもしれないけどさ。
「ありがとう。じゃあ先に行って可能な限り情報を集めとく。着いたら連絡頼むぞ」
「ん」
スピリットとして常用基本である帰還アイテム『帰路ノ写本』をアイテム欄から選ぶ。
緊急脱出用に三つ持っているが、これ1000セリンもするんだよな……。
いや、我侭を言うまい。時は金なり、とも言うからな。
今は1000セリンよりもディメンションウェーブ対策が重要だろう。
そういう訳で俺は帰路ノ写本を使用し、三人を残して先に第一都市へ急いだ。
前線組
「……被害は大きかったみたいだな」
都市の第一印象はそんな感じだった。
事前にディメンションウェーブ用に作られていたのか、第一都市ルロロナの建物は被害を受けて所々崩れている。以前とは見る影もない。
約二週間近く拠点にしていたので見覚えがある場所が多いのも微妙な心境にさせる原因か。
逆に行き交う人々はイキイキとしていると思う。
まあディメンションウェーブなんて大きなイベント、普通のオンラインゲームからすれば大規模パッチに近いからな。これから起こるイベントにワクワクしているのだろう。
「にしても寒いな」
第一都市は海に近い影響か、あるいは最初の街という事で比較的温暖に設定されている。小春日和みたいな、ボーっとしていると眠くなる、そんな印象のある都市だ。
しかし今はディメンションウェーブの影響なのか、温度が低い。
思えばゲームで温度というのも面白い。
まるで異世界にでも来たみたいな、そんな錯覚すら沸く。
セカンドライフプロジェクト的に可能な限り実装した、という事だろう。
さて、情報収集をすると言った手前調べとかないとな。
まずは姉さんと紡か。
後はアルトと連絡を取ろう。奴なら色々な所から情報が集まるだろう。
目的を決めて歩き出そうとした所、空に違和感を覚えた。
「……雪?」
そう、雪が降ってきた。
俺以外にも気が付いた奴は多く、少し顔を青くしている。
ゲーム的には演出なのだろうが、天変地異の様で不気味さが増した。
さながら北欧神話にでも出てくる世界の終焉みたいだ。
「……硝子、力を借りるぞ」
メニューカーソルからアイテム欄を選択し硝子が以前くれた粉雪ノ羽織を取り出す。
海ではそれ程寒くなかったので使っていなかったが、この寒さでは必要だろう。
相変わらず俺は西洋風の衣服系をメインに使っているので似合わないだろうが、粉雪ノ羽織は効果以上に暖かい気がした。
そうこうしている間に待ち合わせ場所である広場に到着した。
作為的な物を感じるが、ここはゲーム開始地点。
広場には普段は見られない屈強な全身鎧を身に纏った者や品質の良さそうな魔法使いといった風貌のローブを羽織って大きな杖を持った者がいた。
誰が言うでもなく、前線組の奴等だろう。
この中に一週間前まで硝子が混ざっていたと思うとなんだか不思議だ。
「紡達は……」
キョロキョロと辺りを歩きながら探す。
衣類パーティーの俺達と比べると両手剣などのごつい物を持っている奴等が多くて少しビビッた。良く考えるとMMORPG的にはそっちの方が自然なのか。
「お兄ちゃーーーーん!」
右後方から紡の声が響く。
姉さんと紡はリアルと同じ声を使っているので直に気付いた。
……こんな異世界っぽい場所で現実の声を聞くのはちょっとアレだがな。
「つむ――」
紡と言い切る前に俺にダイブしてきやがった。
しかも鎧だ。
重装甲って程でもないが、比較的重そうな奴……ミドルアーマーって奴か。
ともかく重そうな鎧のまま俺に飛びついてきた。
「うわっと!」
無理かもしれないとも思ったが俺はそのまま受け止める。
受け止めた衝撃で何かのアニメみたいに三回転した。
しかし意外にもその身体は予想に反して軽かった。
「むふー!」
ケモノ耳で再会の興奮を訴えているのか、耳が高速で開閉している。
頭を撫でてやろうと手を伸ばすが、紡は俺より身長が高い。
イメージとは違う、下から頭を撫でる形になった。
くっ! ちょっとかっこ悪い。
「あれ?」
「どうした?」
「ううん、なんでもない。お兄ちゃん元気そうで良かったよ」
「そっちこそ大丈夫そうだな……ていうかレベル高そうだな」
赤いアクセントの入った漆黒の鎧。
若干ロングスカート風味の鎧はかっこ良さと可愛らしさを両立させている。
武器は仕舞っているので何か分からないが、何を着けても似合いそうだ。
平民な兄に、騎士の妹って感じで多少思う所はあるけれど、目的が違うのだから自然と装備にも変化はあるだろうと納得する。
「あはは、26レベルになったばかりだよ~」
「……26?」
俺は紡のレベルに対して聞き返してしまった。
というのもしぇりるのレベルが21だからだ。
硝子と闇影が船上戦闘スキルを覚えたおかげで効率が跳ね上がったのも大きいがしぇりるは確実にレベルが上がっていた。
本人曰く『20から上がり辛くなった』とか言っていたが、初日からずっと前線で戦い続けていたであろう紡と5レベルしか差が無いのは不自然だ。
「あたしのレベルがどうしたの?」