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「い、いや、なんでもない」

咄嗟に誤魔化してしまったが、どういう事だ?

きっとオンラインゲームにありがちなレベルの上がり辛さだろう。

序盤だけ早くて、後半は異常な量必要になる経験値。

あれに違いない。

「紡の兄さんだな?」

思考を戻すと紡が来た方向から四人のパーティーと思わしき人物が話しかけてきた。

話しかけてきたのは人間の男。

兄として妹を呼び捨てされた事に若干シスコン根性が沸いてくるが、考えてもみればゲームなので呼び易い言い方になると納得する。

男は赤の入った茶髪で白いアーマーを着込んだRPGに出てくる勇者みたいな奴だ。

態度から紡が所属するパーティーのリーダーといった所か。

後ろには両手杖を持ったローブを着けた人間の女性。本、魔導書を持った晶人の青年。ライトアーマーの草人の少年、と紡を含めて種族オンパレードだ。

その中にスピリットがいないのが悲しい所か。

「ああ、俺が紡のリアル兄の絆だ」

「聞いてるぜ。お姉さんと紡に妹にさせられたんだってな?」

「……まあな。まあ程々に楽しませてもらっているよ」

「よろしくな、絆。オレはロゼット。皆からはロゼって言われてる」

そう言って握手を求めてきたロゼ。

断る理由がないので握手を交わしてから会話を続ける。

「聞くまでもないが、ロゼは前線組か?」

「一応な。紡やレイ達のおかげだ」

レイというのが誰かは知らないが後ろの三人の誰かだろう。

ロゼの第一印象は、なんかギャルゲーの主人公みたいな奴だ。

男三人、女二人の一般的なRPGにありがちな構成。

王道的に見て、後ろ三人は、両手杖の女性がレイとやらで光魔法、魔導書の青年が四属性魔法、ライトアーマーの少年が弓って所か。

そしてロゼは盾役か。パーティーリーダーに合いそうな男だ。

ちなみに実際に訊ねたら正解だった。

俺の勘も中々のものだな。

まあ、MMORPGでハズレの無い構成というと、そんな感じなんだけどさ。

「それでディメンションウェーブの調査はどの程度進んでいるんだ?」

「第二までの途中に今までなかった場所があるらしいよ」

「……特設マップって所か」

そのマップに何かあるか、あるいはそこで戦闘があるのか。

予想ではボスモンスターでもあのヒビから沸いて出てくる、とかが妥当か。

「オレ達は三日後に何かあると睨んでる」

「三日後……そういう事か」

――三日後、その日は俺達がこの世界、ディメンションウェーブが来て丁度一ヶ月目だ。

なるほど、その線は十分あり得る。

イベント的にも一月経った辺りで大きなイベントがあるのは納得できる。無論、ハズレる可能性もあるので引き続き調査は必要だが、三日後に何かあると踏んでいいだろう。

仮に三日後、大きな戦いがある事を仮定した場合。

……俺が最初にできる事は解体武器の効果だ。

この情報を公開すればゲーム内戦力の底上げができるはず。

十分稼がせてもらったし、今まで紡と一緒にいた彼等になら――

「おいおい、勇者様はスピリットなんかとつるんでるのかよ」

決意を固め、喉から言葉を出し掛けた直後、ロゼに話しかけてきた人物がいた。

金髪のイケメンだ。まあゲームなので美男美女ばかりなのだが。

「……お前等か」

今まで比較的好印象だったロゼが眉を顰め、不快そうな顔をした。

まあ態度からあまり関わり合いになりたくない類の輩なのは分かる。

その金髪の背後には三人連れがいる。装備や構成がどことなくロゼ達に近い。

多分、レベルが近いのだろう。そうなると彼等も前線組と考えるのが無難か。

「スピリットが弱い種族なのは事実かもしれない。だが面と向かって言う事ないだろ」

ロゼが反論する。

これは庇われているんだよな?

俺とロゼの関係は数分程度だ。ほとんど初対面で通じる。

それで尚、庇ってくれるって事は、ロゼは良い奴だな。

「ちょっとやられたら弱くなるのは事実だろう?」

ヘラヘラとした笑みを浮かべる四人組み。

……頼む、一言だけ口にしたい。

何、そのマンガにでも出て来そうなあからさまなチンピラキャラ。

笑える以前に、こんな奴実在したんだな。

そもそもこんなリア充みたいな奴等が何を思ってこのゲームに参加したのか。

むしろそっちの方が気になるぞ。

「第二都市開放戦で彼女がどれだけ貢献したのか忘れたのか!?」

「HPが高いのがスピリットの特徴だろう?」

「それでも彼女がいなければ敗北していたのも事実だ」

ロゼと金髪は俺などそっちのけで口論をしている。

前線組も中々大変なんだな。

まあオンラインゲームにおけるお約束みたいなものか。

経験値効率、アイテム、狩場云々で喧嘩になるのは高レベルプレイヤーの方が多いからな。俺も何度か経験があるので心配する程でもない。

ん?

ちょんちょんと服の裾を引っ張られたので、振り返ると紡が耳打ちしてきた。

「狩場の取り合いで良く争うパーティーの人。構成が似てるから」

「なるほどな」

という事はあっちの四人も盾、魔法、魔法、弓の構成なのか。

典型的な効率パーティーだな。必然的に狩場が近くなるって事か。

「それで、何の言い争いをしているんだ?」

「うん。第二都市の開放で戦う事になったボス戦でスピリットの人のおかげで勝てた様なものなの。多分、その人がいなかったらあの時全滅してたと思う」

「まあ、彼の言う通りスピリットのHPが高いのは長所だしな」

代わりにそいつはエネルギーを相当削られたんだろうな。

しかし、どこかで聞いた様な話だな。

「それで、その彼女とやらはいないみたいだけど、どうしたんだ?」

「うん。一週間とちょっと前……位かな。その辺りから一緒にいる所を見ないからパーティー脱退したのかも」

「へぇ」

一週間とちょっと前か。

俺が丁度海釣りをやめてフィールドに出た頃だな。

……………………硝子じゃね?

確か硝子は都市開放戦に参加したとか言っていた覚えがある。

無論、全くの別人である可能性も捨てきれないが状況は一致する。

外道だとかなんとか言っていたが、所謂効率厨って奴なのだろう。

硝子の戦い方を見るに、敵はモンスターだけじゃなかったのかも。