女教師はフッと鼻で笑った
何言ってるのよあなた、あの子の肉体にしか興味ないじゃない心なんてどうでもいいんじゃないの
それは
そもそも、あなたが彼女の何を知っているのあなたは彼女の外見が気に入って好きになったただそれだけでしょあの肉体を自分のものにするだけで満足なんじゃないの
オレはどう答えたらいいのか判らなかった
この先生の言うことは正しいのかもしれない
だけどだけど
ゆっくり考えなさいただし、時間はあんまり無いわよ最近の高校生はすぐにセックスしたがるからねあの子だって、いつまで処女を守るか判らないもの
白坂さんが処女を失う
遠藤に犯される
いやだそれだけはいやだ
あなたがあの子を不幸にする覚悟があるのなら自分も不幸になる覚悟があるのなら学校中の人々をみんな不幸にする覚悟があるのならあたしに言ってちょうだいそしたら、あたしが彼女の肉体を自由にさせてあげる一度きりじゃないわよあの子の肉体が一生、あなたのものになるあなた以外の男が、あの肉体を抱けないようにしてあげるきっと、あの子はあなたを憎むでしょうね一生ずっと恨み続けると思うわ
そんなの信じられません
嘘よあなたはもう信じているあたしの言うことをね
どうして先生は、オレにそんなことを言うんですか
女教師の口がニタリと歪む
もう判っているでしょうあたしは、悪魔なの
あそうだ
この顔この微笑み
この人は、悪魔なんだ
何故か、オレはそう感じた
あたしが高校生の頃に憧れた悪魔にあたし、やっとなれたのだから、夢を叶えたいのよ
先生の夢
さっき話したでしょこの学校の人間を一人残らず不幸に堕としてやるって
オレの心臓を掴んでいる悪魔の冷たい手がギュッと掴んでいる
あたしこの学校を地獄にするわ
先生の顔美しく、冷たく、狂おしい容貌紫色に輝く瞳
それから先オレの記憶は飛んでいる
気が付いたら家に着いていた
あれからどうやって帰って来たのか、オレは全然覚えていない
夢でも見たのかもしれないと思ったけれど、心臓がじんじん痛む
胸の痛みが、あの先生との会話が夢ではないということを教えてくれる
あんまり身体が痛むので、早めに眠ることにした
ふと勉強机の上に置いてある入学式でのクラス写真を見た
白坂さんが映っている
白坂さんが笑っている
遠藤もいる
遠藤も嫌な笑顔で映っている
オレも写っている
オレは、笑っていない
白坂さんは今日、遠藤と一緒に帰って行った
もしかして、もしかしたら、今頃、白坂さんは遠藤とキスしているかもしれない
もしかしたら、セックスも
そう考えたら、虚しくなって、頭から布団を被って寝た
夢の中に白坂さんが出てきた
白坂さんはいつもの制服姿でていうか、オレは制服と運動着以外の白坂さんを知らない
突然、夢に遠藤が出てきて、白坂さんの服を一枚一枚脱がせていく
チクショウ、やめろ
オレは夢の中で、遠藤を突き飛ばす
遠藤は消えて、乱れた制服の白坂さんとオレだけがそこにいて
ね、やっぱりあなたはその子を犯したいだけなんでしょ
振り返ると、エンジ色のスーツを着た女教師が見下した目でオレを見ている
あなたは彼女に性欲しか感じてないのよ
ハッとして、白坂さんを見る
彼女の大きな瞳が、不安そうにオレを見ている
もっとよく見なさいあなたの望むものがそこにあるのよ
女教師の言葉に、オレはつい白坂さんの身体を見てしまう
そこにある半裸の白坂雪乃の肉体
可愛い顔可愛い唇小ぶりな胸美しい曲線の尻と脚やっぱり白坂さんは可愛い
遠藤なんかに取られるは嫌だ
オレは、やっぱり白坂さんが欲しい
白坂さんを手に入れたい
あの唇を、あの身体を、オレはオレはオレは
オレは堪えられなくなって、白坂さんに襲いかかった
でもだけどオレはああ
朝、目が覚めると、オレは夢精していた
夢の白坂さんで夢精していた
情けなくって、死にたい気分だったチクショウ
うーむ
どんなもんだろうか
先生の設定は見切り発車です
4.レンアイ✕セックス禁止令
今朝の空も晴れていたけれど、オレの心は曇っていた
朝のホームルーム前みんなざわついている
女子のグループが、もうすぐ迫ったゴールデンウィークの話題でくっちゃべっている仲の良い友達同士で、どこかへ遊びに行こうという計画らしい
入学して約一月オレには、クラスの中に話のできる友達はいない
オレは三年間、テレビもラジオも禁止の世界にいたから、今何が流行っているのかもしらないし、興味もないこれといった趣味もない(中学の時の友人は、みんな山奥の全寮制男子校に捨ててきた)
だから人と話をするとっかかりがない
特に女の子相手になると、オレはとっちらかっちまうし
いいんだよどうせ、このクラスには気の合いそうなヤツもいないんだし
おはよう、吉田くん
突然、声を掛けられた
え白坂さん
高校に入学してから一月オレ、初めて誰かにおはようって言われた
昨日はありがとう助かったわ
いいいや、ああの、オレはべべべ別に
白坂さんはそれだけ言うとニコッと微笑んで、自分の席に戻って行く
綺麗な背中のラインスカートの上からでも判る、お尻のふくらみ
昨夜、夢の中であの体を抱いたあの肉体を
おい、あんまり人のオンナをジロジロ見るなよ
振り返ると、憎々しげな顔をした遠藤が立っていた
お前、判ってるんだろーな
ななな、なんの話だよ
お前みたいなヤツは、引っ込んでろっていう話だよ
雪乃のことを嘗め回すみたいに見やがって気持ち悪いんだよ、このクソ野郎
オレは遠藤に何て言い返せば良いのか判らなかった
そしたら、遠藤はヘッと下卑た笑いでオレを見下し、カツンとオレの肩を小突く
いいか、もうオレたちの視界に入ってくるんじゃねぇぞ
そう言って、遠藤は白坂さんの席に向かう
白坂さんが、遠藤に微笑む
オレに微笑んでくれた時よりも、もっともっと嬉しそうな感じで
嫌なのに聞きたくないのにそれでもオレは二人の会話に聞き耳を立ててしまう
白坂さんと遠藤の楽しげな会話話題はやっぱり連休の予定
連休の後半に練習が休みの日が一日あんだよだからさ、どっか近場で旅行でもしようぜなんなら一泊するか
馬鹿ね高校生じゃどこも泊めてくれないわよ
ああこれがゲンジツだチクショウ
ホームルームの開始を告げるチャイムが、リンゴンと鳴った
教室の教壇側の戸が、ガラガラと開く
担任かと思って、クラスは一瞬で静かになる