これには閣下も、グゥの音も出ない
とりあえず、渚の家に逃げ込めば閣下は手出しできないということだ
みすずの学校なら、転校すればいいし御名穂さんの学校でいいんじゃない克子が理事長なんだから、問題は無いわ
渚がツラツラと話を進めていく
登下校時の安全は、わたくしが確保致します
美智が当然の様に言った
そうね、もちろんマルゴちゃんや恭子さんにも助けていただくわ
みすずが祖父を見る
皆さんに助けていただいてあたしは生きていきますさようなら、お祖父様
ま、待って下さいみすずお姉様もっと、お祖父様とお話し合いをなさるべきです
瑠璃子さんが、引き留めようとしてくれるが
いいえお祖父様は、どうせ何を言ってもお判りになっては下さらないと思います心配しないでほんのちょっとのことですそうね10年だけ、待っていて瑠璃子さん
年下の麗しい従妹にみすずは、言った
10年ですか
言葉の意味が判らない瑠璃子さん
はいお祖父様に今日、香月の家を追放になりましたがあたしの人生設計は、何も変わりません予定が、10年ばかり延びただけです
黙り込んでいた老人が尋ねる
あたし東大へ進みますそして、父の後を追って国家公務員に上級試験に合格して、高級官僚になりますそこで政財界とのコネクションを繋ぎますあたしはあたしの力だけで這い上がって見せます香月の家から追われても、何の支障もありません
みすずの眼には、力がみなぎっていた
確かに東大に進むのに、香月家の名前はいらない
国家公務員の試験を受けるのも
10年経てばお祖父様は92歳ですご健在だとしても、経営の最前線にいらっしゃれるはずがございませんその時あたしが政府の中で有能な存在として際立っていれば、香月家の方からあたしに近付いて来るはずです
うん閣下の威光が衰えたなら
香月家は再び、みすずを受け入れようとするだろう
そういう人間になれるように頑張るわ、あたし
みすずは、瑠璃子さんにニコッと微笑む
だから10年だけのお別れよきっとまた、戻って来るわ
みすずが、瑠璃子さんに近付く
抱き合う二人
わたくしはみすずお姉様のように強い人間ではありません
瑠璃子さんが、悲しげに言う
だからきっとわたくしは、お祖父様の選ばれた方と結婚して、その方のおっしゃる通りに生きていくと思いますやがて、香月の家の中に争いが起きたとしてもわたくしには、きっと何もできないできないと思います
あなたはそういう人生を選ぶの
瑠璃子さんが、心からそういう人生を受け入れるのならあたしは何も言わないわでも、そんな人生が嫌なのなら
嫌なのなら
みすずを見上げる瑠璃子さんの必死な眼差し
反逆なさい
お祖父様にですか
みすずは笑う
違うわ運命に従容として流されている、自分自身の弱い心によ
お姉様
うなだれる瑠璃子さん
さあ、閣下とのお話は終わったみたいだから、そろそろ行きましょうっ御名穂さんたちが待っているわ
渚が、ニッコリと微笑む
うん、行きましょうっ
真緒ちゃんも元気だ
美子さん、瑠璃子さんをお願い
みすずは、瑠璃子さんを美子さんに托す
すぐに答えは出ないでしょうけれどあたしが今言ったことを、よく考えてみて
そして祖父に振り向く
それでは、お祖父様
さわやかに微笑む
おさらばでございますっ
さあ行きましょう、旦那様
いいんだろうか
こんな形でみすずと閣下を別れされてしまって
瑠璃子さんたちを、置き去りにして
待て
鋭い声で閣下は言った
何でございますか香月様
みすずは祖父を香月様と呼んだ
お前は私に家から追放されるのではなく、自ら家を出ることを選ぶのだな
はいおっしゃる通りですわ
みすずは、強い眼で祖父を睨む
ならばお前が、香月の家から与えられた物は全て置いていけ
この部屋からは、身に付けている物を全て脱いで裸で出て行くがいい
この祖父と孫娘の対決は、意地っ張り通しのブラフの張り合いですのであんまり、気にしないで下さい
渚だけは、その辺の家族の心情を理解しています
さてこれも警備員のバイト時代の話
そこは、羽田の埋め立て地のダンプカーの重さを量る計量所でした
私は、そこでその日ダンプの誘導の仕事を命じられていました
さて、昼になり事務所でコンビニ弁当を食べていると
所長と20代後半ぐらいの若いダンプの運転手さんが話をしています
横で話を聞いているとその人はまだ若いのに、10台以上のダンプを持っている会社の社長さんなのだそうです
で、その若社長さんが言います
うちの下の連中には、何があっても挨拶だけはしっかりしろと言っていますやっぱり、挨拶は全ての基本ですからねだから、うちの社員はどこへ行っても挨拶が良くできているって褒められるんですよ
その若社長さんが帰った後食後の缶コーヒーを飲んでいる私に、所長さんが言いました
君今の人、どう思った
いや、何かまだ若いのに、しっかりしたことをおっしゃる方でしたね
そしたら所長さんは、物凄く不機嫌そうに
社長があんなことばっかり言っているからあそこの会社のドライバーはダメなんだよっ
その時は意味が判らなかったんですが
10年ほどして、判りました
自分でうちの会社は、挨拶が良いから褒められているって自慢する人が、まともなわけないですよね
それも20歳以上年上の所長さんに向かって
246.愛の誓い
そうですわねっ失礼致しました
みすずが制服のボタンに手を掛ける
えまさか
閣下の言う通り裸になるのか
裸でこの部屋から出て行くのか
部屋中の女達が顔面蒼白になる
お祖父様、それは余りにもご無体ですっ
瑠璃子さんが、そう言ってくれるが
いやみすずには、香月の家から施された物は全て置いていって貰う
と閣下は強い表情で言う
それだけで、瑠璃子さんと美子さんは怯えてうつむいてしまう
関さんと藤宮さんは、戸惑っているが
主人である閣下に文句を言うことはできない
美智は閣下を睨み付けている
渚と真緒ちゃんは、何故かニコニコして
みすずのストリップし始めるのを楽しそうに見ていた
旦那様あたしを隠して下さい
ボタンを外しながらみすずが、オレに言う
お祖父様には、あたしの裸をお見せしたくはありません
みすずが、オレを眼を見る
決意の籠もった眼
オレはみすずの前に立って、閣下の視線にみすずの身体が入らないようにする