オレはみすずに着せた、背広の上着を脱がせてやり
閣下の眼からみすずをガードする
みすずは、すぐにTシャツを着て
下着を付けていないまま、短パンを穿く
素足にサンダル
うんどうにか、外に出られる格好になったぞ
しかし、随分、趣味の悪い服を買ってきたな
閣下が着替えたみすずを見てそう言った
このホテルには、もう少しセンスの良い服を売っている店もあったろう
閣下がオレに言う
今は、少しでも早くそして、安く買い物することを心掛けました
オレは閣下に言った
安く何だね、君はまた随分ケチな男なんだな
閣下がフンと鼻を鳴らす
オレを挑発していることは判っていた
ええ少しでも、お金を残しておかないといけませんから
それが、君の生き残るための知恵かね
みすずのためです
みすずの眼が大きく見開かれる
閣下がオレを見る
オレには女の子の洋服のことは判りませんどうせこの後、下着とかも買いに行かないといけないんですからみすずが、気に入った服を買えるように、お金はなるべく残しておきたかったんです
まだ9万円以上ある
これだけあれば何とか、みすずの好きな服を買ってやれるだろう
何という忠誠心
藤宮さんがオレをそう評した
違いますわ藤宮さん
みすずがニコッと笑って、オレを見る
旦那様はいつも、あたしのことを心から愛して下さっているんです
愛しげに自分の着ている服に触れる
あたしはこの服好きです旦那様が、初めてあたしに買って下さった服ですから一生大切にします
そうねあたしたちの関係は、主従関係じゃないわよね彼はいつも、あたしたちに優しいもの
はい旦那様があたしを愛して下さる様にみすずも旦那様を愛しています
みすずがそう言ってくれた
さて閣下どうなさいます二人の絆は、御覧の通りですわ彼がどんな男の子なのかも、もうよくお判りになったでしょう
渚が閣下に笑って告げる
今のオレが、みすずの服を買いに行ったのは
全てオレという人間を評価するための試験だったってことか
そいつの判断力と行動力については、よく判ったこの状況でまっすぐに買い物に行かずに、私たちの部屋の位置を悟られない工作がちゃんとできたことは認める大した気遣いだ後で、みすずに自由に服を選ばせるために、条件に適した安物の服を急いで買うことだけに集中したのも評価するしかし
閣下が、オレを見る
香月の家のみすずの婿に相応しい男とは、思えんな
冷たい眼でオレを見る
みすずの愛人恋人としてなら、これで申し分の無い男なんだろうが香月の家の人間として生きるためには、この実直さは問題だな企業経営者は、もっと鈍い方が良いトップに立つ人間はエゴイストでないと勤まらんよ
ジッとオレを値踏みする
判ったいいだろうみすずが、その男を個人的に愛人として囲うことは認めてやろうしかし、正式な夫としては、やはり香月の家に相応しい家柄の人物を迎えて貰わねば困るなに、偽装夫婦で構わん戸籍上のだけの関係でも、みすずの夫になりたいという男はたくさんいるまあやはり跡取りだけは、正式な夫の子供を産んで貰わないと困るか
閣下はそんなことを言い出す
オレとの愛人関係を認める代わりに他の男と結婚しろだって
しかもその男の子供を産めって
冗談じゃないっみすずは、オレの女ですオレ以外の男に抱かせるつもりはありませんしオレの子供以外は、産ませませんっ
オレははっきりと閣下に言った
部屋の中の女たちがオレに注目していた
こいつはもう、オレのものですっあなたの玩具じゃないっ
閣下の冷たい眼をオレは睨み返す
負けるもんか
お祖父様何か、勘違いをなさっておられるようですわね
あたしの旦那様は、どんな形でも、香月の家には入ってはいただきません
判っているそいつは、香月グループの適当な会社に入れて、そこそこの給与は保証してやるそれでいいんだろう
そういうことではありませんわ
バカにしやがって
オレはパン屋になりますからっ
パン屋だと
はいですからあなたの施しは受けませんっ
渚がオレを見る
あなたぁあたしのお花屋さんは
パン屋とお花屋さんと両方、頑張りますいずれにしても香月グループの助けは要りません
オレは、強く突っぱねる
はい旦那様には、旦那様のお仕事を頑張っていただきますわ
みすずが祖父に告げる
ですからご安心下さい香月の家の舵取りは、あたしがします
お前が馬鹿なことを言うな女に何ができる
閣下は、みすずを笑おうとするが
お祖父様にできることがどうして、あたしにはできないとおっしゃられるんですか
みすずの挑発に閣下が乗る
私を愚弄するつもりかね
お祖父様がなさっていることは優秀な人材の管理とグループ内外の利害関係の調整だけですわ本当の創造的な仕事をして下さっているのはグループの各会社の方たちで、お祖父様ではありませんお祖父様は、グループ内の問題について調整を行い才能ある人間を抜擢し、問題のある人間を排除するそれだけをなさっていらっしゃるのでしょう
それくらいお前でもできると言うのか
できなくてはなりませんいずれ、お祖父様はいなくなられるのですから
みすずは祖父と対立する
瑠璃子さんは素直で優しい方ですからそういう役割は無理でしょうかといって、お祖父様が選ばれる婚約者が調整役に付いてもグループ内に亀裂が走ることは決まっています各企業の経営は、有能な方々にお任せするとしてもグループ全体の調整は、香月の血筋のそれも、お祖父様の血を受け継いだ、あたしがするしかないと思っています
さっきお話しした通りあたしは東大へ進んで、国家官僚になりますそして、中央と政財界にパイプを作って30歳前後で、香月グループに戻ります香月グループのどこの派閥にも属さず国と政財界に独自のルートを持っているとなれば、グループ内の方々は黙って、あたしの帰参をお許し下さるでしょうトップが香月の本家筋の人間であることの方がグループ全体が安定することは、皆さんお判りでしょうし
しかし、それではお前が、大変だろう香月のトップになるということは、様々な野心家に常に付け狙われて生きていくということだぞ
だからあたしには、旦那様が必要なんです
この人さえいればあたしは、どんな困難も乗り越えられますこの人に抱かれているだけで、心が安らぐんです大好きなんですっ
みすずはずっと香月の家全体のことを考えてきて
自分や瑠璃子さんたちの未来を案じて
ずっとずっと、苦しんでいたんだ
オレは何をしてあげれるんだろう
判ったみすずオレ絶対に、お前を離さないからずっとずっと、オレが側に居てやるから