そしてみすずは
スッと、オレの前に跪く
お手を
オレの手をみすずが掴みキスをする
香月みすずは晴れた日も、雨の日も健やかなる時も、病める時も富める時も、貧しき時もあなただけの女としていつも変わらぬ愛を、あなただけに捧げることを神様に誓います
ニコッと笑って、オレを見上げるみすず
みすずの瞳に、キラキラと喜びの涙が光っていた
みすずはあなたのものですもう、絶対に、絶対に離れませんからっ
そう言ってみすずは、立ち上がりオレに熱い口づけをした
オレたちの抱擁に瑠璃子さんと美子さんが感激している
関さんと藤宮さんは呆然としている
今のってどっちかって言うと、男の人が女性にするべき行動ですよね
まあ、一般的にはそうよねみすず様の方が、主導的過ぎるわね
こ、これってけ、結婚しちゃったっていうことなんでしょうか
そんなの知らないわよっ結婚て神父様もいないのに、勝手に自分で宣誓しちゃってもいいものなの
でも、みすず様は神様に誓われましたよ
法律的にはオレはまだ高1だし、全然ダメなんだよな多分
そういう現実的なこととは関係無く神様の前での愛の宣誓ということにこだわっている辺りが、関さんも藤宮さんも乙女なんだなあと感じる
しかし、閣下は
はあ今日も暑そうですね
私は、大学一年生の夏休みはエキストラのバイトをしていました
テレビや映画の後ろを歩いている係ですね
私は、大きなエキストラ事務所に所属したのですが(今は潰れて無くなったそうです)
そこの会社だと、1番組につき8000円ぐらいのギャラだったのですが
同じ番組に来た子でも、下請けの事務所の子だと5000円
孫請けだと、3000円
一番可哀想なのは、俳優養成所の子で勉強だと思って行きなさいと言われてノー・ギャラだったそうです
撮影待ちの時間に、その場に居たエキストラの人の話の中で判ったことで
同じことをしているのに、余りのギャラの違いに全員驚いていました
緑山スタジオに行った時に、時代劇の幕末の敗残兵の幕府軍の格好をさせられて全員、顔に血糊を塗られたまんま6時間待たされたのも、良い思い出です
トイレから出た時に、ドスンとぶつかってしまった女性に
まあ、気を付けなさいね
と怒られたのですが大原麗子さんでした
と、声を掛けていたのが、いかりや長介さんでした
お二人とも、すでに亡くなれているといるんですね
暑いけど
247.後継者宣言
みすず許さんぞ、私は
祖父の声に、みすずは
はい許して下さらなくて結構ですあたしは家を出て、旦那様と暮らしますから
それでどうするつもりだ
さっきお話しした通りです渚様の家で旦那様と暮らします東大へ進みますし国家官僚になりますお祖父様がお元気でなくなる頃には香月の一族の皆様が、あたしを必要としますわほんの10年間の我慢です10年香月の家を出るだけのことですそしたら、また瑠璃子さんとも仲良くできます
私が老いるのを虎視眈々と待ち続けるというのかっ
お祖父様、本当に判ってらっしゃらないみたいですね
みすずは強い眼で、祖父を睨む
お祖父様は、もうすでに充分年老いていらっしゃいます
みすずこの私に対して、何てことを
渚が真緒ちゃんにささやく
ほら、真緒アレをやって
そして真緒ちゃんが、とことこと二人の間に立って叫ぶ
ダーメケンカしちゃ、ダぁーメッ
可愛い幼女の乱入に呆気に取られる二人
ホント性格がそっくりなんだから
渚が祖父と孫娘を見て、そう言う
強情で意地っ張りいつでも、精神的に自分が優位な立場に立とうとするそれでいて二人とも、頭の回転が速いからどうしようもない、口喧嘩を続けることになるのよ
閣下は渚を見る
みすずは前は、こんな子じゃなかった明るくて、優しくて、大人しい子だったぞお前のところに行かせてからだこんな生意気な娘になってしまったのは
みすずが、祖父に抗議する
あたしは昔からこういう娘ですっ渚様の所に行くまでは誰にも本当のあたしを見せることができなかったのよっ渚様と旦那様が素のままのあたしでいられるようにしてくれたんですっ
言葉の最後は涙声になっていた
あたしやっと、思っていることを自由に言うことができるようになったんですっお祖父様や一族の皆さんが喜んで下さる様な良い子を演じるのは、もう疲れたんです
この人が素のままのあたしを、受けとめてくれたんですあたし、この人の前ならどんな姿もさらけ出せますどんなあたしでもみすずがみすずである限り、この人は笑って抱き留めてくれますっあたしっ、絶対に離れないんだからっ
オレはみすずの背中を擦る
落ち着け、なオレはここに居るから大丈夫だから
渚が閣下に言った
みすずは心が優しすぎる上に、頭が良すぎるからずっと、香月様や周りの方々の望まれる様な娘を演じてきたのよねいつも自分の感情を押し殺して、我慢してよく頑張ったわねみすず
でも香月様は、みすずがそうやって無理をしていたことをちゃんとご存じだったわだからあなたをあたしのところへ行かせたのよ
閣下が口を開く
ああ君なら、みすずの傷ついている心を癒やせると思ったんだ君の力を信用していたなのに私の期待を裏切って、男を宛がうとは
渚は、フフッと笑う
あら彼と出会ったことで、みすずの心の悩みは全て解消しましたわみすずに本当に必要だったのは、あたしという女ではなく彼の様な男の子だったんですよ
オレを見る渚
男なんぞに誑かされおってしかも、そいつは黒森の男じゃないか
黒森の男ですけれど彼が、あたしたちのところに来たのはつい最近で、黒森の本業には一切関わっていないということは、香月様はすでにお調べになっておられますよね
うぐっ
どうやら図星らしい
渚の言う通りオレは、黒い森の本業娼館の仕事には、一切関わっていない
もちろん、男娼でもない
彼は、ただの高校生です普通の少年ですわ
普通では困るのだよ香月の家のためには
祖父の言葉に、みすずが叫ぶ
みすずにはこの方が必要なんですっ
ああ、堂々巡りだ
このままじゃあ、ラチがあかない
渚が抑えた声で、言った
そんなに口惜しいのですかこの少年に、みすずを奪われたことが
香月の家のためとか全て、言い訳でございますよね閣下は、ただいつまでも、孫娘たちを自分の支配下に置いておきたいだけなのでございましょうなのに、みすずが自分の知らないところで男を作って、独立してしまいそうだから、閣下は焦っておられるのでしょう