真緒のことまで、あなた
渚が、ハッとイキを呑む
オレみすずが恥ずかしくない相手になれるのかな
ダメだ、ダメだ、ダメだ
これ以上気弱になっちゃいけない
オレの心が、危険のシグナルを鳴らしている
こんなところで負けてたまるか
いやなるんだならなくちゃオレみすずが誰にでも恥ずかしくなく紹介できる立派な男に
オレの心中に光明が見える
吉田のままじゃ、もうダメなんだ
黒森になろう
吉田という情けないだけの男の人生は捨てて
オレは黒森になる
オレなるよメグの最高の彼氏にマナの素敵なお兄ちゃんに寧さんの弟克子姉の弟渚の夫美智の主真緒ちゃんのパパみんな、勤めてみせるから絶対に
オレにはもう家族がいるんだ黒森の家族が絶対に、くじけるもんか
負けるわけにはいかない
渚がオレを抱き締める
ごめんなさいあたしたちあなたの気持ちを、判ってなかったのね
申し訳ありませんっ旦那様
裸のままのみすずもスッと立ち上がり背中から、ギュッとオレを抱き締める
そんなに真剣に、あたしたちのことを一生懸命に考えていて下さっているなんてあたし、判っていませんでした
あなた、一人で溜め込みすぎなのよ
二人の言葉がオレの心に染み込んでくる
そうよねあなたも、ただの寂しがり屋の男の子で一人ぼっちで孤独だった少年でそれがいきなり、こんなことに巻き込まれちゃってずっと、無理していたのよね
オレの心を濡らしていく
何でだか判らないけれど涙が出て来た
オレオレ渚ぁぁ
涙がぼろぼろと零れる
あなたも苦しんでいたのにあなたは、傷だらけのあたしたちを受け入れてくれて必死にあたしたちを愛してくれたのよねごめんなさい
オレは渚の腕の中で泣く
背中から、みすずも抱いてくれている
苦しくて声が出ない
音を立てずに静かに泣く
大丈夫よあたしたちがいるからもう、絶対にあなたは一人にはならないわ一人になんてしてあげないんだから
渚がオレを強く抱き締めてくれる
裸のみすずが背中からオレの涙をペロッと舐めた
驚くオレにみすずが、ニコッと微笑んでいる
旦那様の涙は、みすずのものですだから旦那様の涙は、あたしが全部呑んで差し上げます旦那様が、みすずの涙を呑んで下さるように
みすずの言葉に涙が止まった
何もかも、重く考えないで下さいあたしは旦那様がいいんです旦那様でないとダメなんです側に居て下さるだけでいいんです世間体のことなんて、考えないで旦那様のことを悪く言う人なんて、みすず、絶交しちゃいますから
優しく微笑んでくれているみすず
そういう輩はわたくしが全員ブチのめしますっ
美智が叫んだ
ご主人様こそわたくしの生涯の主ですどうか、わたくしが粗相をした時はいつでも、ご処罰なさって下さいわたくしは、ご主人様に折檻されたいのですっ
いやご処罰に折檻て
それは、お前の性癖だろ
ご主人様じゃないとダメなんです
そうかじゃあ、折檻してやらないと
でも良かった
渚が、フフッと微笑む
あなたがあたしたちに心を開いてくれて
はい旦那様が、あたしたちに本当のお心を見せて下さいました
今度は、みんなのいないところでね二人っきりの部屋で、いっぱい、あたしの胸でお泣きなさいあたしも一緒に泣くから
あ、渚様、ずるいですみすずも、旦那様の涙をもっとペロペロします
みすずも微笑む
あなたまず、お金のことは、あなたが成人するまでは考えなくていいわ御名穂さんや克子やあたしに任せておきなさい
でもじゃないの恵美ちゃんやマナちゃんの生活費だって、ちゃんと出してあげるからあなたが大人になってから、返してくれればいいわ今は、あなたも精一杯、高校生活を楽しみなさい
だけどじゃありませんあなたの女に甘えなさいそれにね前も言ったけれど、あたしと克子は高校を途中で止めさせられたでしょだから、あなたたちにはあたしたちの分まで、高校生活を楽しんで欲しいのううん楽しみなさい今しかできないことを、今楽しむの
そんな顔しないであなたに甘えて貰えることが、あたしの幸せなのよ家族なんですもの
旦那様本当に、みすずに相応しい男性になって下さるんですね
みすずが、背後からオレの耳に囁く
ああみすずが満足してくれる男になるためなら、何でもするよ
もうお腹いっぱい満足していますでも、旦那様がそうおっしゃってくれるのなら
みすずと一緒に一流の世界へ行きましょう
一流の世界
はい一流のレストランへ行って、一流のお料理の味を学びましょう一流のマナーと一流の立ち振る舞いも一流の服も身につけましょう一流の音楽も美術も学びましょう一流の教養を身に付けますそうしないと一流の人たちに認められる様な、一流の人間にはなれません
みすずのためですから頑張って下さいますよね
ああみすずのためなら
何でもするよ
どんなことだって
うふふ旦那様っ
みすずが、オレに頬ずりする
楽しみです、あたしああ、どんどん幸せになる旦那様と一緒に、あたし、もっともっと幸せになっていくんですね
どうして、オレに一流の教育をすることがみすずの幸せになるのかオレには判らない
しかしみすずが、幸せならそれでいい
どうですっ瑠璃子さん
みすずが瑠璃子に振り返る
あたしたちの旦那様って、こういう人よ本当に純粋で、優しくて、真っ直ぐで、責任感があって一度受け入れた人間は、絶対に裏切らない人こういう人だからあたしたちは、一生一緒にいるって決めたのよ
ええあたしもそう
わ、わたくしもです
美智はちょっと違うだろう
でも、この難しい性格の娘のご主人様を本気でやろうとする人間は、オレぐらいしかいないんだろうな
こいつもオレが、一生面倒を見ないといけない子だって、思う
美智がちょこちょこと寄って来る
オレは、美智の頭を撫でる
どうしたのですご主人様
いや美智は可愛いな
いいから、撫でさせろ
ど、どうぞご存分に
美智は、恥ずかしそうに言った
それでどうしますか瑠璃子さんも、あたしたちの家族に入りませんか
みすずが瑠璃子を誘う
瑠璃子は祖父を見る
閣下は、暗い顔でジッとこちらを見ていた
わたくしはお祖父様の望まれるように、生きなくてはなりませんから
瑠璃子は自分の支配権は閣下にあると思っている
幼い頃から、それが当然として育てられてきたのだ
あたしもそうでした香月の家の娘として生まれこの身は、香月の家のためお祖父様のご意志のままに捧げなくてはならないって、ずっと思っていました