雪乃の内面の憎悪の矛先が、オレに向かう
溜まっていた感情が、一気に吐き出される
あんたのせいなんだからっあたしは、何も悪くないのにっあたしをこんな目に遭わせてっ
うんこれでいい
これで、雪乃のアイデンティティは崩壊しない
雪乃は白坂雪乃として、自分の人格を守ることができる
許さない一生、許さないわっあたし
雪乃が激しい憎悪の眼で、オレを見る
これが、正しい姿なんだ
オレと雪乃の
ああ許さなくていいよ
どうせ、これからもお前に、もっともっと酷いことをするんだから
黙っていたメグがオレを見る
ヨシくんもういいじゃない捨てちゃおうよ雪乃なんて
そうだよ、お兄ちゃん雪乃さんみたいな人、要らないよ
お前たちそしたら、雪乃は死ぬぞそれでもいいのか
オレの言葉に雪乃はハッとする
雪乃はプライドが高くて、自己中心的だが、馬鹿じゃない
オレに見捨てられたら家や親の後ろ盾のなくなった現在の雪乃は
死ぬしか無い
白坂本家からの依頼を受けた、シザーリオ・ヴァイオラに抹殺されるか
ミナホ姉さんに外国のスラム街の娼館に売り飛ばされるか
死んだっていいよそんな人
そんなこと言っちゃダメだ
オレは、マナの身体を抱く
マナもオレに縋り付く
マナの身体は、少し冷たい震えている
マナにはオレが、家族がいるじゃないか
でも、雪乃には誰もいないんだから
雪乃の顔が、恐怖に歪む
プリンス派を代表して香月昴が尋ねる
高圧的な他のメンバーではなく、ここは年少者が質問するべきだと思ったのだろう
その辺をアイコンタクトだけでやるのだからこの集団のチームワークは凄い
みすずは、冷ややかな態度で答えた
そろそろお教え下さいませんでしょうかどうして、この場に今、問題になっている白坂創介の娘が居るのか
香月昴は、気持ちの悪い作り笑いを浮かべている
その後ろで8人のプリンス派の連中が、偉そうにオレたちを見ていた
もちろん、司馬アキラと新興グループの6人も
興味深そうに、みすずの返事を待っている
そんなことは、あなたたちには教えません
みすずは、静かに言った
なぜです、僕たちにも知る権利があると思いますが
香月昴は、なおも食い下がるが
権利あなた、それ本気で言っているの
みすずは、突っぱねる
あここの言い方は、ミナホ姉さんだ
みすずは、ミナホ姉さんの口調を真似ている
だって僕たちは、あの
香月昴は、口籠もる
我々は、閣下の私塾のメンバーです将来の香月グループを支える人材です
香月操が、弟に代わってみすずに告げる
お祖父様が私塾をお作りになったのは、あなた方のお父様に頼まれたからです私塾のメンバーだからといって、将来香月グループの要職に就けると思ったら大間違いですよ
みすずはふふふと笑って、そう言う
ましてやあなたたちが香月グループに籍を置くということは、あたしたちの臣下になる覚悟をするということですよ臣下ならば、臣下としての義務を果たしなさい主を尊重すること無く、権利ばかり主張する臣下など、あたしは必要とは致しません
みすずは、そう言って瑠璃子を見る
みすずお姉様のおっしゃる通りですこれまでのあなた方の振る舞いには、呆れましたお祖父様も、きっとそう思っていらっしゃると思います私塾など解散して、お祖父様にはもっと有意義にお時間を使っていただくよう進言致します
ちょっと待って下さい瑠璃子様
香月操が、そう言った瞬間
臣下が主に命令するとは、何事かぁぁッッ
麗華の鋭い声が、プリンス派たちを突き刺す
貴様たちは臣下としての心構えが全くできておらぬっ恥を知れ、恥を
そうか麗華は、剣士としての修行を積んだ人だから
主とか臣下とかそういうことには、うるさいんだ
むむぅ麗華ちゃん、声大っきすぎ
そんな麗華の膝の上で、真緒ちゃんが耳を塞ぐ
あ、申し訳ございませんもう、大きな声は出しませんから
麗華は、真緒ちゃんに微笑む
うんっ、なら許してあげるっ
真緒ちゃんと麗華は、すっかり仲良しだな
あのみすず様、発言してもよろしいでしょうか
そう言ったのは司馬アキラだった
どうぞ、アキラさん
みすず様のお言葉はよく判るのですがしかし、現代の日本において主とか臣下という考え方は、少し時代錯誤では無いかと思います
司馬アキラは、堂々とそう言った
企業経営者と従業員は、対等な関係のパートナーであるべきです雇用関係と主従関係を混同なさるのは、大変危険なことだと思いますが
アキラさんは、お祖父様の私塾にどれくらいの間、通っていらっしゃいますか
2年ほど前より、兄と一緒に週2回夜の8時から11時まで香月ホールディングスの本社ビルで、閣下のご指導を受けていますそれ以外に、今日の様に社交的な場に連れてきていただいたり、実際の企業内の業務を見学させていただいたりしています
社交的な場というのは、紺碧流の家元の発表会のことだろう
それから彼らは、この後の白坂本家との交渉を見学するという名目で、今日この場に連れて来られている
アキラさんは、私塾を有意義なものだと考えていらっしゃいますかお祖父様の年寄りの我が儘に付き合っているだけだと思っているのではないですか
いえ、僕は毎回、とても良い勉強をさせていただいていると思っています閣下のお話は、一つ一つがとてもためになりますし、様々な現場を見せていただけることもとっても刺激的です
ではアキラさんは、お祖父様にお月謝を支払っていらっしゃるのですね
お月謝は、払っていらっしゃらないのですか
みすずはミナホ姉さんの様な冷たい笑みを浮かべる
は、はい特にはいえ、むしろ閣下には、毎回、何かしらご馳走になっています
司馬アキラは、しどろもどろになる
でも、それはあの閣下がいつも、僕たちに気遣って下さっているからでその
お祖父様が気遣って下さっているのなら饗応を受けることは当然だと思っておられるのですね
対等なパートナーなどと口に出す前に自分の立場を知りなさい誰が誰に、どんな話をしているのか、理解できないのなら口を閉ざしなさい一般論なら、誰でも言えます
みすずの言葉は、厳しい
お祖父様とあなたのお父様の関係が、ただの雇用関係ならお祖父様は、あなたを私塾に入れて教育させたりはしませんあなたがここに居るのは、あなたのお父様がお祖父様の臣下だからですそのことは、あなたのお父様も理解していますそうでなければ、司馬沖達さんの様な立派な方が、お祖父様の無償の私塾にあなたを来させたりはしません