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判りました、みすずさん香月の家の未来は、どうぞわたくしにお任せ下さい

彼女の顔は晴れ晴れとしていた

わたくしとっても嬉しいですわ香月の家のために、何もかも遠慮なさっていたみすずさんが、ご自分の幸せを第一になさろうと決心して下さったことがこれで、もうわたくし、思い残すことはありません

思い残すって

わたくしがお祖父様のお望み通りに生きます人生を香月の家に捧げますわたくしは、みすずさんがお幸せに暮らされる姿を拝見できればそれで満足です

おい待てよ

瑠璃子さんはそれでいいの

思わず、オレは尋ねてしまった

はいわたくしは、香月の家のために生まれた娘ですから

瑠璃子さんは何の迷いも無い笑顔で、そう答えた

元々、わたくしは香月重孝の長男、香月重秋の長女です嫡流の血を受けた以上、わたくしが次代の香月家を引き継ぐことは生まれた時より覚悟しております

そうだ彼女は、長男の娘

みすずは次男の娘

現在の香月家の当主、香月重孝閣下には他に、孫はいない

瑠璃子さんとみすずで、後継者争いということになっているけれど

血統から言えば、嫡流の瑠璃子さんが継ぐのが正統なんだ

みすずさんは、とてもお綺麗ですし、才能も豊富でいらっしゃるから一族の者の中には、わたくしとみすずさんのどちらが後継者になるか判らないなどと、言う者が居ることは知っていますわたくしと、みすずさんに後継者争いをさせて香月家を二分させようと企む者もいることも知っております実際わざと、わたくしとみすずさんを仲違いさせようと、わたくしの耳に良からぬことを吹き込もうとする者もおります

瑠璃子さんが、悲しそうな眼をする

わたくしは、もちろん風聞のたぐいは一切、信用しておりませんわたくしは、子供の時分からみすずさんのことを良く存じ上げておりますし従姉妹として敬愛しています

あたしもあなたのことが好きよ、瑠璃子さん

ありがとうございますしかし勝手なことを言う方々が増えるばかりです酷い噂が拡がっていきますと、わたくしの側に居る者の中でも勘違いをする者が出て参ります本当に、わたくしとみすずさんが争っていると思い込む者まで現れて

ああ、あの人か

先程遙花さんが、みすずさんに何かご迷惑をお掛けしたのも、そういう理由だと思いますわたくしには、判っております遙花さんにとっては、わたくしに対する忠節のおつもりなのでしょうが大変、申し訳ございませんでした

瑠璃子さんは、また頭を下げる

頭をお上げ下さい遙花さんのことは、気になさらないであの方のことについては、こちらでもきちんと対処致しましたから

対処ですか

瑠璃子さんが、みすずを見る

あたし遙花さんは、前々からボディーガードの仕事には向いていらっしゃらないと思っていましたあの方は、最初はあたしの警護役に推薦されたのですけれどあたしがそれを断って、美智を選びました

はいそれで遙花さんは、わたくしの護衛役ということになりました

工藤遙花は、高校3年生

本当なら、高校2年生であるみすずの警護に就くべきなんだ

そうすれば、学校の中でも警護できるし

なのにみすずは、工藤遙花を拒絶した

だから、中3の美智が年上のみすずを警護するということになって

それだって、本来なら中3同士なんだから、美智が瑠璃子さんを警護する方が正しい姿なんだろう

そのことで、遙花さんはあたしを恨んでいらっしゃいます何かと、あたしや美智に辛く当たられるのは、それが原因です瑠璃子さんには、関係ありません

みすずは、スッと瑠璃子さんに頭を下げる

とんでもございません年長者とはいえ、遙花さんはわたくしの下にいらっしゃるのです遙花さんのなさったご無礼は、わたくしが幾重にもお詫び致します

いえいえ、わたくしが悪いのですわたくしが、同い年でありながら遙花さんをお諫めできなかったことがみすず様も瑠璃子様も悪くはございません全ての責は、この美子にございます

美子さんまで加わって三人で頭を下げる大会になってしまった

でも、もう大丈夫ですわあたし遙花さんには、ボディーガードの仕事をお辞めいただこうと思っているんです

遙花さんは空手の選手に専念なさった方が良いと思いますあの方は競技者であって、警護役の様な仕事が勤まる感性の持ち主ではありません

スバッと、一言で切り捨てる

それはわたくしも、そう思います遙花さんは、空手に専念なさった方が

美子さんが言った

実際現在でも、空手のお稽古と試合の方に時間を取られて、瑠璃子様の警護がおろそかになっておられますし

はい、学校内ではわたくし美智さんに警護していただいています

え、美智が瑠璃子さんを

いつもありがとうございます

瑠璃子さんが、美智に頭を下げる

それは同級生でございますから同級生を親しく警護するのは、当然のことです特に、みすず様より瑠璃子様を警護せよという様なご指示をいただいたわけではございませんっ

まったく、この武士娘は嘘を吐くのが下手くそだな

そうかみすずが、空手が忙しくて仕事にならない工藤遙花の代わりに

校内に居る間はずっと美智に、瑠璃子さんの警護をさせていたんだ

香月の家の人間があの学校の中でどれだけ息苦しい思いをするのかは、あたしが一番良く知っていますから

みすずが2歳年下の従妹に言う

はい誰からも妬みそしりを受けないよう常に鷹揚な態度でいなければなりませんしどんな方とも親し過ぎる関係になってはなりません

香月家の後継者と親しくなればその人間は、他の人から妬まれる

だから、瑠璃子さんは周囲の人間は全員平等に扱わないといけない

親しい友人は、できない

今のわたくしが本当に心を許せるのは、美子だけです

瑠璃子さんは、お付きの美子さんにニコッと微笑む

工藤遙花は警護役なのに、全然信頼されていないんだ

以前のあたしもそうでした

みすずが言う

しかし、あたしにはお付きはいませんでしたからあたしの父は、そういう香月の古いしきたりを嫌いますし

そうか瑠璃子さんの父親は、長男だから香月家の企業グループの中に居るんだろうけれど

みすずのお父さんは確か、文部科学省の高級官僚だ

旧華族の血を受け継ぐ、香月家の伝統を嫌ったんだろう

だから、みすずにお付きを付けることを断った

お察ししますわたくしは、3歳の時より美子と共に暮らしております美子がいてくれなければ、孤独に打ちのめされていたと思いますみすずさんは、さぞお辛い思いをされたことでしょう

父の意志とは関係無くみすずは、香月閣下の孫として、香月家の人間として世間と闘わなくてはならなかった