工藤父は、凍り付いている
あのみ、ミッチィくん
わたくし、今日は危ない日でございますので確実に受精していると思います
じゅ受精
どうして、そんな生々しい言い方をするんだ、美智
ですから、父上産まれてくる子の名前を考えておいて下さいませ
工藤父がギロッとオレを見る
ええ
わたくし女の子を産みますので女の子の名前をお願いしますっ
昨日の父は、ずっと看護士さんに
まずい、このままでは鎌倉に連れて行かれる鎌倉にっ
と、言っていたらしいです
父よ鎌倉で何があった
父は昭和40年代に、鎌倉に住んでいた時期があるらしいのですが
299.父よ、母よ
きっさまぁッッオレのミッチィくんにぃぃ
激高した工藤父が、オレに襲いかかるが
スススッとオレ前に移動してきた美智が工藤父の攻撃を全て受け流す
わたくしは父上のものではございませんっ
美智は、顔を赤らめて言う
身も心もすでに、ご主人様のものですから
なんですとぉぉ
シュシュシュシュババババッ
工藤父が、さらに廻り込んでオレに接近しようと試みるが
それも、美智に阻止される
あげくに
な、何だッ
眼と眼が合った瞬間美智は招き猫の手で、宙を掻くっ
わひっ
工藤父は、強く釣り出されるようにして態勢を崩す
その瞬間、美智が工藤父の足を払った
工藤父は、スデンッと床に尻餅をつく
ミッチィくんそ、その技は
工藤流古武術奥義心月でございます父上
痛めた尻を擦りながら、ハッとして娘を見上げる工藤父
工藤流古武術奥義心月だと
ギッと娘を睨む
その場に緊張感が走る
何じゃそりゃオレは、知らんぞそんな技
オレはズッコケた
はいお祖父様は、父上には伝授していないとおっしゃっていました
ちくしょう、あのクソ親父オレに教えてない技があんのかよっ
工藤父は、喚きながら立ち上がるが
それは父上が修行を途中で放り出して、家を出られてしまったからなのではございませんか
それはその悦子が真一を孕んじまったんで、稼がないといけないという止むに止まれぬ事情があったんだよミッチィくん
工藤父は、若くしてできちゃった結婚をしている
それで家を飛び出して、工藤流を使って裏稼業の仕事を始めた
えもしかして、オレの知らない技ってまだあるのか
おそらくは心月をご存じないということは、宇呂焼沼も、円月大回転も電光雷鳴崩しも稲妻重力落としもご存じないのでは
マジっすか全然、知らんです、はい
工藤父は、ガックリとしている
父上わたくしは、これから工藤流古武術・黒森派を名乗ろうと思います
わたくしに、お前はお前の工藤流を作れと仰ったのは父上です現在のわたくしはもう、黒森家の家中におりますし
香月家ではないのか
みすず様も、すでに黒森家にお入りになりましたわたくしも、黒森家の女でございますから
美智は、父に頭を下げる
父上、申し訳ございません
わたくしは父上には、花嫁衣装をお見せすることはできません
な、何でだこいつとお前は
工藤父が、オレと美智を見る
子細は今は申し上げられませんわたくしは、この方と正式な婚姻はいたしませんしかしわたくしの生涯はすでに、この方に捧げております
オレの他の女たちを気遣ってくれている
オレとの正式な結婚は、望んでいないと
そして父親に晴れ姿を見せられないことを侘びている
お前には驚かされっぱなしだな
工藤父は言った
何が何だか、全然よく判らんがお前の覚悟だけは、判った
お前はもうオレの手から離れたということなんだな
大切にしますっ大切にしますからっ
お嬢さんをオレに下さいという言葉が喉まで出かかったが
それを言うのは場違いだと思った
美智は、すでに自分の意志でオレの女になっている
今更、父親の許しを乞うことは美智の覚悟を汚すことになる
一生泣かせませんから美智をオレ
そんな言葉だけが、口から出た
泣きませんわたくし
泣きませんからご主人様は、どうぞご自由になさって下さい
わたくしは、いつも勝手にご主人様のお側におりますどんなことがあっても離れませんからわたくしのことは気になさらずに、ご主人様はご自身の道をお進み下さい
美智の言葉に工藤父は
そうかそいつはお前にとって、人生の伴侶じゃないんだな
はいこの方は、わたくしの主です一生お仕えすべきお方です
ミッチィくんの心は判ったよ主とは、結婚できないもんな
ご主人様は、わたくしを可愛がって下さっていますそれだけでわたくしは、充分です
美智の発想はどこまでも武人なんだ
主には仕えるもの絶対に対等な関係になっては、いけない
だからオレの女にはなっても、妻にはなれない
大切にしてやってくれいい加減なことをしたら、オレがお前をブッ殺す
その前にわたくしが父上を倒します
美智は、平然と言った
そうかもう、違う家の人間だものな
はい父上であろうと、わたくしたちの家の前に立ち塞がる者には容赦致しません
お別れでございます父上
美智は父と決別する
オレと黒森の家族としての道を進むために
工藤さん最後に、美智を抱き締めてやって下さい
えおい
美智もお父さんに抱き締めてもらえ
美智が、オレを見て
工藤父の前に身を寄せる美智
工藤父が、ギュッと美智を抱き締める
大きくなったなあ、ミッチィくん
わたくしは小柄です
赤ちゃんの時はあんなに小さかったのに
そんな前と比べられても困ります
お前が居てくれて、幸せだったよ美智
美智と工藤父は心の仮面を外す
ごめんなさいわたくし
オレこそ、ゴメンずっと親父にお前を預けっぱなしで、ろくに遊んでもやらなかった
わたくしは工藤流を通じて、お父さんとはずっと近しい気持ちになっていました
幼い頃から美智は家庭が貧しかったから、祖父の家に預けられていた
祖父の元で工藤流を必死で学んだのは
それが父との絆になると信じていたから
ちくしょう今じゃあ、お前の方が工藤流ではオレより上だとはな
お父さんだって、お祖父様のご指導を受ければ
この年で今更親父に頭を下げられるかいいさ、オレは邪道な工藤流で正当な武術は、お前が継承してくれればいい
いいんだ幸せになれよ、美智
もう幸せです、わたくしわたくし、今、人生の中で一番幸せなんです愛しています愛されています守るべき主が、家族が、仲間がいます
そうかうん
工藤父は、美智から身体を離す