もちろんオレたちの追跡を諦めた場合だけれど
了解次の合図は、一休さんだからよろしく頼むよオーバー
寧さんは、通信を切った
寧さん、一休さんて何です
え、ヨッちゃん知らない一休さん
いや、あの確か、お坊さんですよね日本史でやりました
中学の時の教科書の室町時代の文化のページが思い出される
確か、肖像画も載ってたよなあ
うちの男子校のクラスメイトは、柄本明に似ているって言っていたけれど
パソコン部のやつは遺作さんと呼んでいた
遺作さんて誰なんだろう
そっか、ヨッちゃんはアニメの一休さんは知らないんだ
アニメ
あんな、オッサン顔のお坊さんがアニメになっているのか
こっちに帰って来てすぐの頃マルちゃんの日本語の勉強のためにさ、日本のアニメとかをよく観たのよあたしも一緒に日本語ちょっと、あやふやになっていたからそれで、マルちゃん、一休さんが大好きになったの
あたしが好きだったのは、ガンバと仲間たちとトム・ソーヤの冒険ね
え、それ日本の作品じゃ無いでしょ
トム・ソーヤはアメリカ人だろう確か
だから日本の人が、日本でアニメ化して、日本語なのっそういうのがあるのよっ
馬鹿じゃ無いの、あんた
ごめん、オレ子供の頃から、テレビとかあんまり観てきていないから
ご両親が厳しかったのですか
美智が尋ねる
教育熱心な御家庭だと、テレビなどの娯楽は一切禁止にされることもあると聞いていますが
そっか美智は、知らないんだっけ
逆よヨッちゃんは、両親に虐待されていたの
寧さんが、静かに答える
いや、虐待だなんて別に、殴られたり、蹴られたりしていたわれじゃないですから
もっとよくないわよ存在を、ずっと無視されるなんて
寧さんが、オレのために怒ってくれる
ええっとオレは、家の中では空気みたいになっていないといけなかったから喋っちゃいけないし、求めちゃいけないしできる限り、母親の前に姿を見せてはいけなかったから
美智が、驚いている
だから虐待されていたのよヨッちゃん
でも、中学は3年間、山奥の男子校で寮生活だったからそんなに辛い思いはしていないよまあ、テレビもラジオも禁止なところだったし携帯は、学校に申請すれば持っててもいいんだけれど、オレの携帯は非常用で親がネットに繋ぐ契約をしてくれなかったから本当に、電話する機能しか無かったしなあそれでも寮の友達が、読み終わったマンガや雑誌を貸してくれたりしたからうん、あの頃は、何でも読んだよ車の雑誌から、釣りや将棋の雑誌まで読んだ釣りなんて、道具持ってないから、一度もやったことないんだけれど
とにかく読めるものは何でも読みたかった
だから、マンガで読んだことがあったりする作品はあるんだけれどアニメは知らないなあ絵だけは、友達のアニメの雑誌とかで見たことあるけれど、絵が動いているのは知らないんだ同じ寮に居たアニメ好きのやつとかは凄いんだよ休みに自宅に帰った時に、録り溜めておいたアニメを一気に観て来るから今シーズンも何とか追いついたぜとか、言っていたなでも、オレは休み期間でも、自宅に帰れなかったから
春休みも、夏休みも、冬休みもオレは、ずっと寮に居た
だからこの春、中学を卒業して、ようやく家に帰って来たんだけれどテレビを点ける習慣がなくってさそれに、テレビを点けると怒られそうだし
いや電気の無駄使いだって、怒られそうでさ
実際はオレを叱りつける人間は、もう家には居ない
母親は、勝手に実家に戻ってしまった
親父は失踪中だ
それでもオレは、誰かに叱られそうな気がして、テレビは点けられない
いや家の中の電灯すら
寧さんがオレを抱き締める
昔のことは全部忘れてっヨッちゃんはもう、黒森の家の子なんだよあたしの弟なんだからね
張りのある柔らかい胸が、オレの頬を包み込んでいる
一緒に、いっぱい色んなものを観よう一休さん全話観るからねみんなで
全296話だからね
ミッちゃんも、一緒に観るんだよっ
あんなムサい顔のお坊さんのストーリーが296話もあるのか
どんな物語なんだ
やっぱり、天竺へお経を取りに行くのか
別の意味で興味が湧いてきた
んどうしたんだよ、雪乃
雪乃が、何か元気の無い顔をしている
別に何でもないわ
いや、何か暗いぞ
何でもないわよっあたしが、あんたのことなんかに興味を持つわけないでしょ
雪乃が、オレに嚙み付いてくる
何言っているんだろうそんなこと、言われなくたって判っている
雪乃がオレのことなんて知りたいわけがない
不意に部屋のドアが、ノックされた
鋼鉄製の分厚いドアだノックの音は鈍い
寧さんが、オレたちを制してそれから、通信機を取る
コホンと咳払いをしてから
寧さんは、通信機のマイクに向かって歌い出した
好き好き好き好き好き好っきあ・い・し・てーるっ♫
トンカトントンッ
ドアが、リズミカルな音で叩かれる
マルちゃんだっ
寧さんは、急いでドアのロックを開けた
大丈夫だったかい
開いたドアの向こうに、マルゴさん、関さん、麗華の3人の姿が見えた
みんな再開に、安堵した顔をしている
関さんの眼が、部屋の中のミス・イーディを捉える
ミス・イーディは
シザーリオ・ヴァイオラの軍勢と同じ、黒い戦闘服を着ていた
思わず関さんが発したその一言が
香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートとしての反射的な警戒心が
ミス・イーディの闘争心に着火《イグニッション》してしまう
瞬間ミス・イーディが風の様にダッシュする
YEERAAA
どこに持っていたのか判らないが手にナイフを握って、関さんに襲いかかる
キーンッ
金属と金属のブチ当たる鋭い音
さすが関さん持っていたピストルで、ナイフを受けた
よし初撃は躱せた
しかし、この近距離では銃よりも、ナイフの方が有利だ
WOOOOOO
ミス・イーディが二撃を打ち込む前に麗華が、撲殺ステッキを突き出す
すわっとギリギリの距離を見切る、ミス・イーディ
その彼女をマルゴさんが、キックで迎撃しようとする
SEAAAE
ミス・イーディは、くるくるっと廊下を転がって一旦、3人と距離を取る
まずい、全面的な戦闘になってしまった
NOEdie
廊下に飛び出した美智が、大きな声でミス・イーディに叫ぶが瞬間沸騰してしまった血を、彼女は抑えきれない
マルちゃん敵じゃないのよっこの子っ
寧さんも叫ぶが再び、ミス・イーディが、3人に向かって疾走する