でもここではマズイな
加奈子さんの眼があるし
その後ろで、睨んでいるやつらもいる
悪いんだけれど、あたしとの約束、忘れたわけじゃないでしょうね
工藤遙花が、オレに言った
次話から遙花との決闘に入ります
ここのところ、蒸し暑くていけませんね
じわじわと体力を削られている気がします
とにかく今日さえ乗り切れば週末が来ます
がんばろうっと
駅前が七夕に合わせて、竹に願い事の短冊が吊されています
どうも近所の幼稚園の子に書いて貰ったのを集めて、駅員さんが吊しているようです(高い場所にも吊してあるので)
幾つか見て、面白かったのが
弟が良い子になりますように
幼稚園児の字だと、何ともいえない味わいがあります
あと、
キュア・メロリーになりたい
多分、キュア・メロディだと思います
そんな短冊を見て、思い出したのですが
私が小学生の時、先生に大きくなったら何になりたい聞かれて、
と答えた、田代くん
クラス全員が小さくなってるじゃないかと突っ込んだのは、言うまでもありません
(この話、前にも書いたかもしれません)
223.エム
どなたですこの方
工藤遙花のただならぬ雰囲気に加奈子さんが、みすずに尋ねる
みすずは、平然と微笑んで
瑠璃子さんの警護役です加奈子さんは、気にしないで
香月家の中できちんと、解決致しますから
そう言われてしまえば加奈子さんは黙るしかない
みすずさんは、とにかく自分のお稽古を優先して後は、あたしたちに任せてくれていいから
先にみすずさんを楽屋口まで送る構わないよね
鋭い目で、工藤遙花に告げるマルゴさん
ええ、構いませんわ
工藤遙花も、了承した
とにかく心配しないで、加奈子さん
みすずが、もう一度加奈子さんにそう言う
ホントに大丈夫だからっ
寧さんが、不安そうな加奈子さんにニカッと微笑む
それでも、加奈子さんか心配そうな表情を浮かべていた
全員でゾロゾロと劇場ロビーから、楽屋口へ向かう
劇場横の通路を、舞台側に歩いて行くと
関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアが、大きく開かれていた
あの向こうが、楽屋になります今日は、あのドアは開けっ放しです
みすずがオレに説明してくれた
そうか、今日は日舞の発表会だし
50人以上も出演するから
観に来たお客さんが、楽屋を訪問するし
出演者も自分の出番でない時に、他の人の踊りを観に行ったりするから
観客席と楽屋を隔てるドアは、開け放しにしているんだな
そのドアの辺りには、いかつい男たちがたくさん待機していた
あの方たちは、みんな護衛の人たちですわ
みすずがそっと、オレの耳に囁く
今日の出演者は、みんな名家の子女たちだ
女性の警護役なら、楽屋の中まで入ることもできるけれど
男の警護役は、そうはいかない
だから、ここで待機しているんだな
みすず様、また随分不思議な連中と一緒にいらっしゃいますね
一人の50過ぎくらいのオールバックの男性が、みすずに声を掛ける
ミナホ姉さんをジロッと見ている
まあ、谷沢さんもういらしたの
ニッコリと微笑むみすず
今日は、先乗りなんですわここの警備体制の確認もしときたかったんでね
谷沢と呼ばれた男が、口をニッと歪めてみすずに答える
旦那様こちら、谷沢さんお祖父様の専任警護部隊のチーフですわ
香月閣下の専任警護役
そうか、工藤父は外回りで色んな調査や工作活動をしているから
閣下の身の回りに張り付いて警護しているのは、別の人たちなんだ
山岡部長たちの、工藤父に対する評価が低い理由が判った
香月セキュリティ・サービスの正社員たちからすれば工藤父たち警護課の人間は、香月閣下に信頼されていないようにしか見えないんだろう
専任の護衛部隊が、すでにあるんだから
谷沢さんこちら、黒森さんです
みすずはオレを黒森と紹介した
香月閣下の身辺にずっと張り付いている部隊のチーフだ
それだけでオレが黒い森の人間だということは判る
オレは谷沢チーフに一礼する
谷沢チーフは、冷たい眼でオレを見下ろしているだけだった
売春組織の人間に挨拶する気は無いらしい
みすず様変な連中とのお遊びは、そこそこになさっておいて下さい閣下がご心配なさります
まあ、何のことかしら
みすずは、笑顔のままそう答えた
お祖父様は、ご存じですよ
それなら、いいんですがね
谷沢チーフが、マルゴさんを見る
お、姉ちゃん、久しぶりだな師匠は今日はどうした
やっぱりマルゴさんの顔を知っているということは、黒い森のお屋敷に来たこともあるんだろう
恭子さんなら別件で出張しているよだから、今日はあたしだけだよ
あんな鬼みたいな女の下で働いてないでうちの会社へ来いよ売春宿の警護なんて、面白く無いだろ
谷沢チーフは、ミナホ姉さんの前で堂々と勧誘する
こっちは香月セキュリティ・サービスよりも給料が良いんでね
マルゴさんは、笑って答えた
バカ言え、こっちは厚生年金と雇用保険が付くんだぞ後々の福利厚生を考えたら、まっとうな会社の正社員になっておいた方が得なんだぜ
香月セキュリティ・サービスが、まっとうな会社だっての
売春宿よりはマシだろオレは、こう見えても香月セキュリティ・サービスの役員なんだ今ならオレの鶴の一声で、無試験で入社させてやるぞ
役員て山岡部長よりも、上の立場なんだ
残念だけれどその気は無いよ
何でぇ、つれねぇなまあ、いい気が変わったら、いつでも連絡してくれよ
谷沢チーフは、そう言った
旦那様谷沢さんがいらっしゃっていますから、あたしと瑠璃子さんは安全です
いや、香月閣下が専任の護衛部隊のチーフにしている人間だ
仕事は完璧なんだろう
お祖父様が心配なさって、先に谷沢さんを派遣して下さったんですわね
みすずの言葉に、谷沢チーフは苦笑する
そういうこってすわ山岡や工藤みたいな若造どもは頼りにならねえしね
谷沢チーフにとっては、山岡警備部長も工藤父もまだまだ半人前らしい
おい工藤の小娘大切な任務をほっぽらかして、ご主人様から離れるってのはどういう了見だ
谷沢チーフが、工藤遙花を叱責する
工藤遙花も香月セキュリティ・サービスに籍のある人間だ
谷沢チーフは、会社の上の人間に当たる
頭を下げる工藤遙花
谷沢さん悪いんだけど、この子、ちょっと借りるね
マルゴさんが、そう告げる
どういうことだい
この子がねあたしたちにケンカを売ってきたんだよ
ほお