瑠璃子と美子さんの状態が、不安定なんですあたし一人では
うわわ寧が安定したと思ったら、今度は瑠璃子か
まあ実の父親が亡くなったんだし
というか美子さんのお父さんを殺したのが、自分の父親だってことも判明してしまったんだっけ
瑠璃子の心は複雑だろう
長年姉妹の様に育った美子さんとの関係も微妙になってしまっているに違いない
判ったオレに任せろ
オレが何とかするしかないな
ああ、すぐに行くから
お待ちしております愛しています、旦那様
電話を切る
どうしたのケイ
青山で、オレは降ります瑠璃子が、落ち込んでいるらしいんです
寧も心配そうな顔をする
あ、でも、お葬式なんでしたっけオレ、こんな格好でいいのかな
オレは、昨夜ホテルに着ていったスーツにYシャツのまんまだ
克子姉が直してくれた、ミナホ姉さんのお祖父さんの
生地や仕立てが良いという話だったけれど
やっぱりお葬式用の黒服じゃないと、入れて貰えないですかね
大丈夫だよ今日は、お通夜でしょお通夜は、礼服じゃなくてもいいことになっているから
寧が、教えてくれた
急に知らせを聞いて、慌ててやって来たっていう設定だから派手派手しいスーツじゃなければ、問題無いはずだよ
うん、君の着ているスーツはクラシック・スタイルだし
運転中のマルゴさんが、ミラー越しにそう言った
クラシックって
男の人のスーツには、大きく分けて、クラシックとモードの二つの種類があるのさクラシック・スタイルも、ブリティッシュとコンチネンタルとアメリカンに別れるけれどねで、このコンチネンタルというのも、フレンチとイタリアンでは全然違うし
そういうのは、渚さんが詳しいから、教えて貰うといいよ男の子は、知っておいて損は無いから
渚お姉ちゃんは、お花の世界の人だからねえ服装とかについての知識も必要なんだよ服って、礼儀作法に通じるからね
寧も、そう教えてくれた
でも、ネクタイだけは地味な物をした方がいいよねっ
うん、そこのコンビニで買おうかお葬式用のネクタイとかって置いてあるだろ
え、あるかなあ
コンビニによっては置いてあるよ
マルゴさんが、車をコンビニの駐車場に入れる
待ってて、あたしが買ってくるから
寧が一人、車から飛び降りる
あ、オレも行きます
いいからあたしに任せてっケイは、ここで待っていてねっ
寧はそのまま、店の中に突進した
ふふふ、姉さん女房がやりたいんだよ、寧は君の世話がしたくて、仕方がないみたいだね
姉さん女房という言葉にドキッとする
マルゴさんにはオレたちの秘密は見抜かれているのか
どんな魔法を使ったんだい
マルゴさんが、オレの眼をジッと見る
寧がコンタクトを外してきたんで、びっくりしたよあれは、寧の心のガードの一つだからね
マルゴさん判っている
寧は心の壁を一つ壊すと、すぐ先に次の壁があるどこまで行っても、壁があって、他人には本当の心を中々見せてくれないそういう子だったあたしやミナホ、恭子さんにもね
この数年ずっとそうだったんだ
どんなに人当たりが良く見える時だって、他人との間に大きな壁を作っていたそんな寧が君には素直だ今の寧は、君に対しては、心の壁が完全になくなっちゃったみたいに見えるよ
オレは自分の心を、ありのままに伝えたんです
君の心
オレは、寧さんが大好きです大好きです大好きですって寧さんも、オレの気持ちを受け入れてくれて
要約するとそうしか言えない
オレたちは愛し合っている
それを確認した
人生を上手くやっていくコツは三つある一つ目は、人に親切にすること二つ目は、人に親切にすること三つ目は、人に親切にすることだ
昔、イギリスの貴族でそういうことを言った人がいるらしいよ君の場合は、愛することと親切にすることが一緒なんだね
寧のことありがとうこれからも、大切にしてあげて
もちろんですオレの大事な人ですから
大事な人愛している人
大好きな人
オレの奥さん
あったよっマルちゃんの言う通りだったぁっ
寧が、黒いネクタイを買って飛び出して来る
その表情は、とっても明るく幸せそうだった
ほらっ、ケイ
車の中に乗り込んで、オレの首にネクタイを当ててみる
うんっ、可愛いっ
可愛いのは寧の方だよ
オレと寧は、もう離れない
身体の距離は離れても
心と心は、くっついたままだ
ということで、次話は青山へ行きます
ボリス・ヴィアンの小説にうたかたの日々というのがあります
今は、日々の泡というタイトルで翻訳し直されて出版されているのですが
日々の泡の方が、原題の直訳であるとはいえ
うたかたの日々というタイトルには、惹かれるものがあります
うたかたの日々、とても詩的で比喩的なイマジネーションで書かれていますが
愛する人が、植物化していく悲しみについて書いた小説です
映画版は、低予算過ぎて今ひとつでしたが
岡崎京子先生のマンガ版もあります
父が手術してから、あまり笑わなくなりました
表情がまったく消えてしまう時もあります
呆けるということは、心が消えることなのでしょうか
悲しいですね
ちょっとうたかたの日々のことを思い出します
もう父は、私の子供時代の家族旅行のことなどは一切覚えていません
自分の子供時代の話ばかりします
いずれは私のことも忘れてしまうのかもしれません
私の祖母たちが、そうであったように
写真を撮っておきなさいどうせみんな忘れてしまうのだから
と行ったのは、写真家のアラーキーさんです
ここ数年、その言葉に従って、父の写真を撮っておいて良かったなと思います
353.弔いの地へ
青山へ向かう車の中不意に運転席のマルゴさんが言った
白坂創介への復讐の件なんだけれどね
寧は、オレにぴったり寄り添ったままオレの手を擦っている
あたしたちは、自分たちが間違っているということは、よく判っているんだその上で、君に頼みたいことがある
言って下さいオレは何でもしますよ
アニエスを犯して欲しい
君も知っていると思うけれどアニエスは、白坂創介が自分の性的な嗜好を満たすために産ませた子だ生まれてからずっと、お屋敷の地下室に閉じ込められていて白坂創介に尽くすことしか教えられていない
12歳になるまで友達もいなく、学校にも通っていない
ミナホの復讐は白坂創介から何もかも全てを奪い取って、絶望のどん底に突き落とすことだすでに、社会的な地位を一族の後ろ盾を家族を、やつから奪った