谷沢チーフからすれば香月セキュリティ・サービスの様な大会社の社員として、規律のある行動ができる人材が一番なのだろう
残念ながらこの子の戦闘思想は、もう完成されているよ工藤流古武術の継承者だからね
そうなのか、工藤
マルゴさんの言葉にチーフが工藤父を見る
オレよりもよっぽど工藤流古武術の精神に迫ってますよこの子は
それじゃあ
はいこっから矯正するのは無理だと思いますねうちの会社に所属させてもオレのとこの警護課みたいな裏仕事しかできない人間になっちまいます
だから外に出したいのか
はいオレみたいな器の小さな人間じゃ、この子の指導はできません
恭子が、そんなに器のでかい女とも思えないがな
谷沢チーフは、考え込む
一つだけ、約束してくれ絶対にこの子には、客を取らせないと
チーフが、ミナホ姉さんを見る
約束するわ工藤美智は、娼婦の仕事はさせません
ミナホ姉さんは、はっきりと断言した
判った移籍を認めよう
谷沢チーフが、美智に言う
ただしみすずお嬢さんの許可はちゃんと取ることそれと、黒い森に愛想が尽きたら、いつでも香月セキュリティ・サービスに戻って来ることこの二つは、守って貰うぜ
美智は、そう返事した
で、何だって外回り担当のお前がここに居るんだ
谷沢チーフが、工藤父に告げる
それなんですがね
工藤父は、チーフに何やら耳打ちした
おそらくミス・コーデリアと白いヴァイオラたちの話だろう
それでそいつらはどうした
すでにここの敷地の中からは出て行ったよオレの配下の予備の連中に尾行させている
でこの件は、もう山岡には伝えたのか
それなんだけど
工藤父は、困った顔をする
あいつは固すぎるからこんな事態を知ったら、守りをガチガチにしちまうでしょう
そうは言っても山岡警備部長が、ここの現場責任者だ命令系統ってものがある
工藤父が山岡部長を飛ばして、その上の立場である自分に報告してきたことに谷沢チーフは苦言を呈する
オレは、あいつは苦手なんですよ
判ったとにかく、警備本部に行こう山岡には、オレから話してやる
お前の娘が二人とも、うちの会社の管理下から消えたってのもあるしなみすずお嬢さんと瑠璃子お嬢さんの警護に、誰か廻して貰わないとな
それこそ、谷沢さんの部下の方にお願いできませんか
それが狙いか
はい山岡のとこの連中じゃ、経験も実力も足りません
確かに山岡の組んだ何重ものガードを潜り抜けて敵に侵入されたんだ並みの相手じゃねぇんだろうな
子供のお守りと兼務しているようなレベルの警護役じゃあ対応しきれません
そうかやっぱり、子供の警護役というのは格が低いんだ
判ったそれもオレに任せろ
谷沢チーフは、近くに居た黒スーツの男に声を掛ける
菅井、ここの警護は任せるオレはちょっと警備本部まで行ってくるから
それと藤宮を警備本部まで呼んでくれ
菅井と呼ばれた男が、すぐに携帯電話を取りだした
え藤宮にお嬢様たちの警護をさせるんですか
驚く、工藤父
藤宮じゃ、不服か
逆です藤宮は、谷沢さんの部隊のトップ・エースじゃないですか
他に女の隊員で空いている人間がおらん
谷沢チーフが、苦笑する
でも、藤宮は攻守でいったら、徹底して攻な女じゃないですか
あいつはそれだけ危険に対する感度が良い今の状況なら、適任だよ
他の家の警護役の連中がビビっちまいますよ
構わん、ビビらせとけそれぐらいの緊張感があった方がいいだろう
藤宮という人は、そんなに怖い人らしい
それにオレが藤宮を出したということが、効果的なメッセージになる他の家の連中にも、山岡にもな
谷沢チーフは、会場全体に良い意味でのプレッシャーが掛けるつもりなんだ
あの警備本部に報告に行くのなら、あたしも同行しましょうか
克子姉が気を利かせてそう言うと
いや、あんたらが来ると山岡が変に誤解する可能性があるここは、オレに任せて貰おう
谷沢チーフが、そう言った
うん変に誤解されてオレたちが、ミス・コーデリアと繋がっていると思い込まれたりしたら厄介だ
ここは、山岡部長の上司である谷沢チーフに任せた方がいい
行くぞ工藤
うっす
早足で、谷沢チーフと工藤父は警備本部へ向かう
あたしたちも、一旦、ロビーに戻るわ
あなたは美智さんと、みすずさんの楽屋へ行ってらっしゃい
みすずさんに報告しないといけないでしょ
確かにそうだけど
ついでに、恵美ちゃんととマナちゃんを回収して来てよ
いつまでも、楽屋に居るのはみすずや瑠璃子さんの迷惑になるだろうし
黒子ちゃんなら、あたしが預かっていてあげるからさっ
寧さんがオレにくっ付いている雪乃を見て、そう言った
雪乃は、さっきの闘いの最中から、ずっとオレの背広の裾を握りしめたままだったのだ
ほらっ、黒子ちゃんはこっちに来るのっ
寧さんが、オレから雪乃を引き剥がす
こっちは、あたしが付いているから安心して美智さんは、そのまま楽屋に残って、谷沢チーフの部下の人が来るまで、みすずさんと瑠璃子さんの警護に入って
マルゴさんが、指示をする
美智と二人だけでみすずと瑠璃子さんの楽屋へ向かった
廊下には、稽古用の浴衣姿や、すでに舞台衣装に着替えた女の子たちがたくさんいた
それぞれがスーツ姿の大人の女性を連れている
ああ、これがさっき谷沢チーフたちの言っていた、お守り役兼護衛の人たちなんだな
確かに、楽屋の入り口でたむろしていた、いかつい男の護衛たちとは感じが違った
それなりに訓練されているのだろうが戦闘能力だけに特化している様子は無い
小さな子供たちの警護となると、穏やかな女性らしさも必要なんだろう
ご主人様、こちらです
美智が、スッと歩いて行く
美智は、前にも来たことがあるの
はいこの発表会には、毎年来ていますお嬢様たちは、いつも、同じ楽屋をお使いになっておられますから
楽屋にはそれぞれ、使用者の名前が紙にプリントされて貼られていた
ほとんどの出演者は、大部屋を共同で使っていたけれど
みすずと瑠璃子さんは、二人で個室をあてがわれていた
オレが外から声を掛けると
楽屋の中からマナが顔を出す
あっ、お兄ちゃんっ美智さんも
嬉しそうにオレを見る、マナ
今、入っても平気か
みすずたちが、着替えているといけない
オレはマナに一応、尋ねてみた
楽屋の中へ戻る、マナ
みすずさぁん、お兄ちゃんと美智さんが来てくれたよっ