確かにここにマルゴさんが顔を出すのは、後々問題になるだろう
ええだから、雪乃さんの受け渡しは、マルゴじゃなくって、別の人にお願いしたわ
別の人
こういう場所にうってつけの人がいるじゃない
ほら来たみたいよ
オレたちは、画面を凝視する
あっ向こうから、何やら車が来たようですっな、何でしょうか何か、音楽を大音量で流しながらこちらへ向かってきています
スピーカーから、聞こえてくるその音楽は
ワーグナーのワルキューレの騎行
そして、その大音量を発している車にオレは、見覚えがあった
ワンボックスカーの横に、大きく工藤探偵事務所と書いている
ここで工藤父か
まあ、適役かもしれないけれど
人だかりを押しのけて工藤父の車が、雪乃の家の前で止まる
運転席のドアが開く
はいはいはいれでぃーす&じぇんとるまん+おとっつぁん、おっかさん、みなさん、こんな朝っぱらからよーくお集まりで
テレビカメラとフラッシュの光を浴びながら工藤父が、そんなことを言う
はーい、市川さんっいっちかわさんっご要望にお応えして、暴力組織のオッチャンたちから、お孫さんを救出してきましたよはーい
工藤父に、テレビレポーターが突っ込む
あの雪乃さんは、雪乃さんは無事なんですかっ
おいおい、人にものを聞くときは、まず自分の名前を名乗れって言われたことぁないのか母ちゃんに何を習ってきたんだ
わたしの母のことは、関係ないじゃないですかっ
そのとおーりっ
工藤父は、レポーターたちを無視して市川さんの高級車へと歩いて行く
車を警護していた、香月セキュリティ・サービスの制服組が、一斉にサッと道を開ける
ホテルでの事件以降警備員たちの再教育が行われたらしい
市川老人のいる運転席の窓をコンコンと工藤父は叩く
スーッと、少しだけ開かれる窓
な何なんだね、君は
市川老人の怯えた声が、マイクに拾われる
なあに閣下のイヌの1人ですよ
それで話は、通じたらしい
どうすればいい
別にあなたと娘さんと2人揃って、車から降りて、お孫さんをお出迎えしてあげて下さい
お孫さん相当、ツライ目に遭われたみたいですから
マスコミに撮られたくない車を横付けしてくれ、そのまま孫を引き取る
市川氏は、自分も雪乃も極力、カメラには撮りたくないようだ
そうはいかねえっすお孫さんには、オレっちの車から、ここまで歩いて来てもらいます
10メートルは離れているじゃないかっ
なあに、ほんの10メートルですよ
工藤父はニッと、笑った
もう2度と会えないかもしれないと思っていた時よりはよっぽど、近いでしょ
判った瑤子、車から降りよう
しかしお父様
今は、雪乃を確実に取り戻す雪乃が帰って来たら、舞夏の行方だって判るだろうしでも
雪乃のためだ
老人は雪乃の母親を見つめる
僕はもう、会社を辞めたんだ守るべきものは無いからな
わたしは、まだ
諦めろ華やかな場には、もう立てん僕たちはな
雪乃の母が、嘆息する
ではオレは、雪乃ちゃんを引っ張り出して来ますわっ
工藤父は、再び自分の車の方に向かいながら
はーい、お集まりいただきましたマスコミ業界の皆さん、これから、白坂雪乃さんを解放しまーすっあっ、そうそう、一応、言っておきますがオレっちは、あそこに車の横にデトデダーンと書いてある通り、探偵です私立探偵しがない町の探偵さんですわっ雪乃さんを、誘拐した暴力団組織とは、なーんの関係も無いですから、そのつもりで
じゃあ、何でお前がさらわれた娘を連れて来たんだよっ
記者の1人が、叫ぶ
おい、ちょっと待て、こらぁ今、お前って言ったのは、お前かあっ、お前のこの口か、こらぁ
な、何だ暴力かおい
オレっちはなあ、お前なんかにお前呼ばわりされる様な、安っぽい人間じゃねぇんだよっ
お前こそ、オレのことをお前って言ってるじゃないかっ
うるせえっオレがお前で、お前がお前だっ
記者のクビを、ギュッと締め上げて
オレはとある方の命を受け、白坂雪乃嬢を暴力団組織さんから助け出してきただけだそれが、どうしした、文句があるかっ
工藤父は、記者をそのまま人の群れの中にどーんと突き飛ばす
なんつったって、オレっちは私立探偵・工藤優作車は、これ電話番号とメール・アドレスはこれだっ
トントントンっと、ワンボックス・バンの車体を叩く工藤父
浮気調査から、誘拐されたお嬢さんの救出までお仕事、待っているよーんっ
カメラに向かって、ポーズする工藤父
うん、何かよく判らないけれど
とにかく、工藤父のペースで進んでいる
さあって、まさらわれていたお姫様を、お連れ致しましょう
ガラガラガラとバンの後部のスライドドアを開ける
と雪乃が、乗っている
雪乃は毛布を被って、全身を隠していた
眼にはアイ・マスク
耳には、大きなヘッド・フォンをしている
おおっとお姫様のこの格好については、気にすんじゃねぇぞこの娘さんを誘拐していた暴力団組織との約束でねえどこに監禁されていたか判らないように、眼と耳を塞いだままにしておくっていうことになっていたんだ仕方ないだろうオレっちも、悪の組織とギリギリの交渉をしてきたんだから
目隠しされ耳には、きっと大音量の音楽が鳴り響いているのだろう
雪乃は、肩でリズムを取っている
彼女は今、ここに集まっている報道陣や野次馬たちの存在を気付いていない
工藤父が、雪乃の腕を掴む
ほらっ、下りろお祖父ちゃんとママが待ってるぞ
しかし、眼と耳を塞がれたままの雪乃は
ちょっと、何よっさわんないでよっヘンタイっ
それが日本全国に中継された、最初の雪乃の言葉だった
まさかあんたまで、あたしのことをレイプする気じゃないでしょうねっ
雪乃の一言に
集まっていた報道陣がシーンとなる
いいから、出ろよっ
工藤父は、無理矢理、雪乃をバンから引きずり下ろした
ちょっと、やめてよっ、触らないでよっもう、犯されるのは嫌なのよっあたしっ
工藤父は雪乃の耳のヘッドホンを外す
ヘッドホンから漏れてくるのはやっぱり、ワルキューレだった
着いたぞ市川さんも、そこにいる
工藤父は、今までと違う低い声で雪乃に言った
ホントでしょうねっ嘘だったら、許さないわよっ
嘘だったら、どうするんだ
あんたのチンコ噛みちぎってやるから
雪乃の声が、電波に乗り全国へ配信される
ねえこのマスクも外していいの
ちょっと待て市川さんに合図するから
工藤父が、市川老人の車に手を振る
市川さーんっ出て来て下さぁーいっ