瑠璃子の父が変死だということは、みんな判っている
だからあえて、トップが参列しているところもあるし
部下に代行させているところもある
その辺はケース・バイ・ケースか
それでもまあ、みんなお香典だけは、ちゃんと届けに来るんだろうけど
香月家に不義理をしたらこの国では、生きていけないからね
そんな家の大切な箱入り娘をオレは、折檻した
裸の尻を叩き、精液を浴びせた
あ、来たよあの子たち
壇上の親族席に向かってみすずたちが現れる
ああ、壇上に座れるのは本家の人だけなんだねっ
寧の言うとおり香月家の人間でも、仁たち分家は、段の下の一番前に座らされている
そして棺を安置した祭壇の左右に、それぞれ親族席はあるのだが
向かって左側にジッちゃんと、美子さんと、女性が1人座っている
右側にみすずと瑠璃子それから、品の良さそうな夫婦が一組
美智は、少し離れたドアのところに立っている
美子さんの隣の人が、瑠璃子さんのお母さんだよ
じゃあ、みすずたちと一緒に居るのが、みすずのご両親だねっ
何か、変だぞ
瑠璃子と、美子さんの座る位置が逆なんじゃないか
瑠璃子のお父さんのお葬式なんだから
瑠璃子は、ジッちゃんと自分のお母さんと並んで座るべきなんじゃないのか
そして、美子さんはみすずの隣に居るべきなんじゃないか従姉なんだから
香月のお祖父ちゃん、本当に徹底しているねぇこれは、キクわ
見ている方は、何か変だなあって思っても文句の付けようがないことじゃんかでも、これ当事者は辛いよ
本当に、後継者候補から外された香月家を追い出されたということを、今、瑠璃子は実感しているだろう
お尻、痛いんだろうねさすっているよっ
瑠璃子は、オレと美智に腫れ上がるほどお尻を叩かれしかも、ノーパンだ
壇上の席に座っているのは、辛いのだろう
顔は真っ青で今にも泣きそうな顔をしている
あみすずが、瑠璃子の耳に何か囁く
すると、瑠璃子はしずしずと泣き出す
ヨッちゃんみすずが、何て言ったか判った
うんだいたい
みすずは、おそらくこう言ったんだろう
瑠璃子これが、あなたが香月家の娘として公の場に立つ最後の機会ですからねこの壇上からの眺めを、しっかり見ておきなさい
瑠璃子はこの大観衆が、自分をまだ香月家の娘だと信じていることに泣いたんだ
本当のことを、誰にも言えない悲しみに
まあ、お可愛そう瑠璃子様、泣いていらっしゃるわっ
どこかの上品そうなオバサンが、大きな声で言った
本当、可哀想ねぇ
別のオバサンも
昨夜のお通夜の時は、お父様が亡くなったばかりで呆然となさっていたのかただ暗い顔でうつむいていただけだったけれど
ええ、ちょっとご心配でしたわよね
落ち込んでいらっしゃるというより無表情でいらっしゃいましたものね
ああやっぱり、昨夜の瑠璃子はそうだったんだ
父の死は当然だと判断し自分のことだけに悩んでいたから
でも今日は
ええ、瑠璃子様やっぱり、悲しくて泣いていらっしゃるのね
そりゃそうよ、15の子が父親をなくしたのよ
可哀想ね
ほんと可哀想に
でもわたくし、瑠璃子様があんなに素直に感情を表現なさっている姿を見るのは初めてですわ
そう言えば、そうですわね
他の参列者の意見も、おおかた同じ様だった
みんな瑠璃子の涙を
父を失った悲しみからくるものだと勘違いしてくれている
香月のお祖父ちゃんの作戦うまくいっているねっ
寧がオレの耳に、囁く
だから、ヨッちゃんも瑠璃子に容赦しなかったんでしょ
瑠璃子が、人の情を知るためには肉体の痛みと、心の痛みの両方をまず知らないといけないと思っただけだ
まあ、こうなるだろうってことは想像できていたけれど
今日の告別式も、昨夜のお通夜と同じく瑠璃子が父親の死を悼まずに、自分のことだけで落ち込んでいたとしたら
その異様さはこの参列者の全員に目撃されたろう
おそらく、瑠璃子の情の無さに気付く人もいたはずだ
ジッちゃんは、それをマズイと感じた
だから、昨夜帰宅後に、瑠璃子を呼んで、尋問したんだ
それで今のままの瑠璃子では、危険だと判断した
みすずも、判っているみたいねまた、瑠璃子に何か囁いているわ
瑠璃子は自分が香月家から追われることの実感に、悲しみを感じているだけだ
尻の痛みが下着を奪われた屈辱が、その悲しみを増幅している
お腹に文字を書かれた憎しみとそんなことをした男の舌で絶頂に達してしまった羞恥心
さらに、これからずっとその男の奴隷として生きていかなければならない現実
身体の痛みと心の痛みが、融合して瑠璃子を責める
しかも、この大観衆を前にして誰にも助けを呼べない
ジッちゃんも、美子さんも、お母さんも棺の向こう側にいる
みすずが瑠璃子を言葉で責めるし何かすれば、美智に叩かれることも判っている
瑠璃子は八方ふさがりだ
もう泣くしかない
お可哀想に瑠璃子様
その涙が観衆には、違ったメッセージを送る
ずっと、高いところにいらっしゃるお嬢様だと思っていたけれど
ええ、あたしたちとは別の世界に住んでいらっしゃる方だと思っていましたわ
瑠璃子様も普通の女の子でいらしたのね
みんなでお守りしていかないとね
ええ、あたしたちのお姫様ですもの
香月家を追放された今になって
瑠璃子は、香月家の本当の姫君として人々に受け入れられていく
ねえさっき、関さんから渡されたものをちょうだい
今なら、チェックしていても変じゃないから
マルゴさんは、コンピューターの端末機を取り出す
式が始まるギリギリの時間に携帯を見たり、コンピューターを開いている人、結構居るでしょ
確かに、廻りにはそういう人が多い
オレは、ポケットから取りだした小さなものをマルゴさんに渡した
それをマルゴさんは、コンピューター端末に接続する
日本じゃあ、火葬にする場所は自治体の認可が居るからね場所は限られている例え、香月家の人間だとしても一般人と同じ火葬場を使うしかないんだ
マルゴさんが、小さな声でオレに言う
昨夜のうちに、関さんから火葬場の場所は、教えて貰った精進落としの会場もねどうしたって、火葬場の近くになるし団体で行くわけだから、部屋も料理も、前もって予約しておかないといけないということで、それも昨夜のうちに判っていたんだ
だから、知っていたんだ
問題は今日の警備態勢だよこればっかりは、ギリギリにならないと判らないからね人数配置とか現場責任者が誰かってことはね