なるほど、何事も優美にこなそうという思想が工藤父とは、根本的に違っている
工藤父は、何もかも蹴散らかしていく感じだもんな
確かに、工藤父では名家の人の警護は任せられない
ところで、藤宮さん
あなたはどうして、あたしの大切な方々にご挨拶なさらないの
藤宮さんは、オレやメグやマナには挨拶していない
というか完全に無視している
やっぱり、オレたちが黒い森だからか
藤宮さんは、当然、オレたちの素性を知っているんだろう
藤宮さんはあたしの警護役になられたんですよね
みすずが、強い眼で言う
それならあたしの大切な皆さんにも、ご挨拶なさるのが道理だと思います
失礼を致しました香月セキュリティ・サービスの藤宮麗華でございます
スッと、オレたちに頭を下げる
藤宮さんは、一流のプロの警護人だ
心の中では黒い森を蔑視していたとしても
みすずが主人の一人になった以上は、その命に従う
オレは偽名で挨拶する
どうせ、藤宮さんはオレの正体は知っているんだろう
だからここは黒い森の人間として、名乗ることにした
吉田恵美です
吉田マナです
二人も頭を下げた
山峰と白坂の名前も、この場では出せない
色々とお考えもあるとは思いますがどうか、みすずと瑠璃子さんをよろしくお願い致します
オレは、そう藤宮さんに言った
お任せ下さいませ
藤宮さんは、そう答えてくれた
コンコンとノックの音がする
美子さんが返事をする
加奈子です
加奈子さんか
瑠璃子さんの声に、ドアが開く
加奈子さんが、顔を出す
お待たせしましたみすずさんもうすぐ、みすずさんの前の方の舞台稽古が終わりますから、舞台袖にスタンバイして下さいっ
加奈子さんは、焦り気味に言った
開場時間が迫っているからだろう
判りました、ありがとうございます
ドアを閉める、加奈子さん
舞台監督の助手さんでなく、どうして加奈子さんが知らせに来て下さったのかしら
瑠璃子さんが、不思議そうに言う
気を遣って下さったのよあたしと瑠璃子さんが一緒に居て、その上藤宮さんまでいらしたんだから
香月家の後継者候補の娘二人に香月セキュリティ・サービスのトップ・エースの一人
普通の人なら、ちょっと畏れ多くて近寄りにくい
だから二人の友人である加奈子さんが、わざわざ呼びに来てくれたんだ
良い人だな加奈子さん
では、行って参ります旦那様
わたくしたちも、舞台袖へ参りましょうか美子
さっき、藤宮さんにできる限り一緒に固まっていろと言われたから
瑠璃子さんたちも、みすずと一緒に舞台袖へ行くことにしたらしい
うん、オレたちもロビーに戻るよ
オレは、みすずに微笑む
オレたちも一緒に舞台袖に行くわけにはいかない
みすずの踊りは稽古で無く、本番を楽しく見たいし
客席から応援していますみすずも瑠璃子さんも頑張って下さい
はい、ありがとうございます黒森様
瑠璃子さんが、そう言ってくれた
発表会が終わったら待っていて下さいね
もうすぐ、この劇場には香月閣下も
みすずの婚約者も来る
オレは対決しなくてはならない
判っているから
もう一度みすずを抱き締めた
旦那様大好きです
みんなが見ている前でみすずがオレに、そう言ってくれた
美智あたしと瑠璃子さんは、藤宮さんが付いて下さいますあなたは、旦那様たちをお守りして
美智が、主に答えた
メグ、マナ、美智とロビーに戻る
黒い森の一団は、ロビーのソファーを占拠していた
お帰り、コーヒー飲む
さっきまでと違い、ロビーには人が増えてきている
もうすぐ開場時間だ
受付では、紺碧流の人たちが準備を始めているし
発表会の出番の早い子たちは、ロビーで最後のお稽古をしていた
もちろん、その子たちの警護とお付きの人もいる
香月セキュリティ・サービスの制服姿の警備員も数を増やしていた
そんなロビーの中で
黒い森のみなさんは、明らかに異彩を放っていた
何が変なんだろう
マルゴさん、寧さんはそんなに変じゃない
克子姉はギリギリ、オッケーだ
ミナホ姉さんはちょっと、変かも
着ているものとかは、おかしくないんだけれど
明らかに、子供たちの日舞の発表会を観に来たという雰囲気が無い
そして雪乃
何じゃ、お前は
この黄色と黒の太い縞々のドレスは破壊力があり過ぎる
晴れの場にこれを着て来るという、趣味が判らない
というか意味が判らない
三つ編みの髪型と太い黒縁の眼鏡で、さらに強化してあるから
うん、遠くから見ると何かの宣伝キャラクターみたいに見える
それも地方の小さな食品会社とかのハチミツ製品の宣伝キャラというか
ハチミツ戦士、ユキノちゃんだなこりゃ
ホットケーキが食べたくなってきた
この一団が集合しているとものすごく目立つ
舞夏開場になったら、あんまりあたしに近付かないでよ
雪乃が、マナに言う
何でよ
舞夏と呼ばれたことで、マナは不機嫌そうに実姉に言う
あたしたちが、二人並んでいるとさ白坂の娘だって、気付かれるかもしれないじゃない今日の会は、あんたと友達だって観に来るんでしょ
雪乃そんなことを心配しているんだ
大丈夫だお前を、白坂雪乃と気付く人間はいない
父親の不祥事がテレビで報道されている時に
そんだけ面白い姿で、公の場に出てくる娘はいないぞ
もし、お前に気付いた人が居たとしても確実に、避けると思う
寧さーん、マジックペン持ってませんか
マナは、姉の言葉を無視して、寧さんに呼び掛ける
持ってないけれど、どうしたの
雪乃さんのおでこに、大きく白坂って書いておこうかと思って
相変わらず、雪乃には酷い
どうだった、みすずさんたちの方は
ミナホ姉さんも、オレの方を見た
みすずと瑠璃子さんは、藤宮さんにお任せしてきました
会ったの彼女と
はいちょうど、楽屋にいらっしゃいましたから
君はどんな印象を持った
凛としてて、格好いいですよね着ているものも一流品だって判りましたし靴もしっかりしていました
オレは、見てきた印象を一気に話す
立ち振る舞いも綺麗でしたし、言葉遣いも何より、すっごく強そうで、頼りになる感じでした
藤宮という人は、香月セキュリティ・サービスの中でもトップ・エースの一人だからね一流なんだよ
何か、香月セキュリティ・サービスって不思議ですよね工藤さんも、谷沢チーフも、山岡部長も、藤宮さんも全然、タイプが違っていて