本当に、雰囲気がみんな違う
それはそれぞれの配置されている部署が違うからさ
香月セキュリティ・サービスみたいに、要人警護を専門にやっている会社だとさ
ええっとどういうことなんだろう
吉田くん、香月セキュリティ・サービスの仕事って、どうしたら完遂だと思う
ミナホ姉さんが、オレに尋ねた
例えばある人物から依頼を受けるとするわねどうも、悪いやつに狙われているみたいだから、警護して欲しい香月セキュリティ・サービスが、その要請を受けたとしてどうすれば、仕事は完了になるのかしら
依頼した人物を守りきったら
どうしたら、守りきったって確認できるの
それは悪い人の襲撃から、その人を守って、敵を撃退するとか
残念それでは、ビジネスにならないんだよ
香月セキュリティ・サービスでは、一定期間で警護の契約をする1ヶ月間とか、3ヶ月とか、半年とかずっととかねその警護期間に、警護対象者が襲撃を受けたら、香月セキュリティ・サービスの負けだよ
襲撃されるってのは、警護対象者が危険な状態になるってことだろできることなら、誰だって襲撃なんてされたくないよね
それは確かに、そうだ
だから、警護契約をしたら香月セキュリティ・サービスでは、対象者の警護と同時に、外回りの活動をする別働隊を出すその連中が、警護対象者を襲撃する予定の人間を割り出し、徹底して駆逐する
そうよ工藤さんは、そういう担当の仕事をしているわけだよ
徹底的に調べ上げて事前に、襲撃者を排除してしまう
契約期間1ヶ月なら1ヶ月以内に、警護対象者を狙っている人間たちを全て処理するってことなんだよ
工藤さんたち裏のチームが、実は仕事の中核を果たしているわけもっとも、みんながみんな、そのことを知っているわけではないよ警護を要請してくるような人だって、知らないこともある実務は、秘書に任せている人も多いしね
襲撃も何もないまま契約期間が終了して、もう大丈夫でしょうっ報告されるのが、顧客にとっては一番なのよ
裏の部隊のことは顧客からは、見えない顧客に見えているのは、身近で自分の警護をしてくれる人だけだだから、山岡部長の総合警備部は、みんな見た目が良くて、判りやすい実績を持っている人を雇っているんだよ
体格が良くて、格闘技の段位を持っているってのが最低条件だよねそれで、何かの大会で入賞したとかってのがあれば、もっといい
警護対象者に張り付いている警護の人は見た目だけってことですか
そこまでは言わないよ訓練はちゃんと厳しくやっているし能力のある人間でないと、そもそも雇われないよただ仕事内容が違うってだけ
山岡部長たち、総合警備部の人たちには工藤さんたち裏の舞台の活動は一切教えていないのよ
裏の人間が、襲撃の可能性を事前に潰しているって知ったら実際に、顧客を警護している警備員たちから緊張感がなくなっちゃうからだから、教えないんだよ
そして谷沢チーフの率いている部隊は、別格よ最高レベルの重要人物を警護するためのカウンター・テロリズムのエリート部隊だから
確かに藤宮さんは、雰囲気からして違った
谷沢さんたちは、一流の戦闘力があってなおかつ、超一流の人たちのお相手をするための気品と教養を身に付けているんだ
でも藤宮さんは確かにそうでしたけれど、谷沢さんは
結構砕けた態度の人だったけれど
あれは、あたしが黒い森の人間だから、ああいう態度をしていたってだけのことだよ谷沢チーフは、一流の人たちと裏の人たちとで、それぞれ的確な別々の対応ができる人なんだよあたしや工藤さんに対して、あんな感じに対していたのはあくまでも、あたしたちには、気軽に話し掛けた方がいいって判断しているからだよ
そうか藤宮さんは、オレを黒い森だと知っていて無視しようとした
一流の世界の人間ならそれが当然の反応なんだ
しかし、谷沢チーフは香月セキュリティ・サービスの役員として
工藤さんたちの裏の部隊にも指示をするし
オレたちみたいな組織の人間とも交渉しないといけない
だから気安い感じで話してくれていたんだ
香月閣下や、自分のチームの人間とはちゃんと一流の世界の人間として話しているよ谷沢チーフは
なるほど大変なんだ
遅刻しそうです
229.スーパーフラット
吉田くん品格ていうのが、どんなものなのか考えたことはある
品格
何が上品で、何が下品なのか一流と二流の差はどこにあるのか
そういうのは考えたことないな
オレはそんなのとは、全然関係無い世界に生きていた
上流階級に属していても、下品な人は居るわその逆もねでは、何が人の品格を決めるのかしら
ミナホ姉さんの質問は、難しい
吉田くんピカソでも、ゴッホでもいいけれど、本物の絵を見たことはある
本物
印刷されたものとか、テレビで映されているものじゃなくて実物を自分の眼で見たことは
じゃあ、今度観に行きましょう
観に行くって
一流を越えた、超一流の芸術家の作品は本物を肉眼で見れば、どんな素人にもその凄さが伝わって来るものよ
だから、まず超一流の作品の凄さを感じてそこから、一流、二流の作品と比較していくのよ
ピカソは晩年の作品を吉田くんに見せるのは、避けた方がいいんじゃないあれは、別の闘いだから
横から、マルゴさんが口を挟む
別の闘いって
ピカソは長生きしたし、ずっと巨匠だったらね走り書きの落書きみたいのも、全部画商が回収して高値で売っちゃったんだよだからって、酷い作品では無いんだけれど審美眼を身に付けるのには、あんまり良いとは思えないから
ちゃんと初期の作品から、青の時代、ばら色の時代、キュビズムと観せていくわよ
大変だ一ヶ月くらいのヨーロッパ旅行になるんじゃない
それでも、本物を実際に観る体験は大切だから
そんなに本物を観るのって、大事なことなんだ
オレの問いに、マルゴさんが
本物を観ないと、作者が実際にどういうつもりでその作品を作ったか判らないからね
あたしの経験で言うとさ美術の教科書に、ヨーロッパの王様の騎馬像が載っていてねその馬の絵が、何かちょっと変なんだ馬にしては首が太くて頭が大きすぎてね
でその教科書を見てみると、馬の首を太く描くことで、ダイナミズムを表現しているとか、書いてあるんだそれを読んだ時は、そんなものかなあって思っていたんだけれど
マルゴさんが、ニコッと笑う
ミナホに連れられて、ロンドンのナショナル・ギャラリーへ行ったらね、その絵の実物があったんだよそしたら
この人はあんなに強いのに
美術とか音楽とかの話をする時は、本当に楽しそうだな
その騎馬像は、物凄く巨大な絵でね下から、見上げて観る絵だったんだよ