麗華にとって剣の道は、神聖すぎるんだ
自分の人生の中で他の物事とは、別格になっている大きな柱だから
好き嫌いの感情は無い
それじゃあ、もう一つお姉さん、誰か男の子のこと、好きになったことはある
平然と、麗華は答えた
恋愛とか男の子と付き合うとか、してみたいって思ったことは
それも無いですね男の人たちは、皆さん、わたくしのことは好きではないでしょうから
サバザバとした顔で、麗華は言う
みなさん、わたくしの剣の力護衛人としての能力を評価して下さっているのであって、女としてのわたくしには魅力は無いことは、判っていますから肝に銘じています
どうしてそう思うのっ
悲しげな顔で、寧は尋ねた
だって、あたし女なのに、こんなに背が高いですし筋肉質です小学校の高学年から、ぐんぐん背が伸びました中学の頃に、剣道の大会に行くと男の子たちが、あたしを見てデカッとか言うんですよ男がスカート穿いてるぜって言われたこともあります
オレたちは、麗華のコンプレックスの起点に到着した
それで男っぽい格好をする様になったのっ
寧が核心に切り込む
特に、それが原因ということではありません部の子たちも、わたくしにそういうイメージを求めていましたし
剣道部の人が麗華お姉さんに男の子っぽくしろって言ったの
驚く、寧
麗華は、フッと微笑んで首を振る
わたくしは大会では、部の皆さんを引っ張っていかなければならない存在でした1年の時から、団体戦の代表に選んでいただきましたし先鋒として、ポイントゲッターとして働かなくてはいけませんそうなると外見も、相手を威圧する様なものに変えた方が効果的ですわたくしの長身の背丈と体格を生かさないと
2年生の後半からは、主将に任じていただきましたしそれなら、部の皆さんから信頼していただかなければなりませんし皆さんが、わたくしに対して抱いていらっしゃった、強さと凛々しさを具現化しようとしたら何となく、一つの方向性が見えてきて
この人は孤立している自分を、周囲の人たちに受け入れてもらうために、必死だったんだ
それで男性的なイメージを醸し出そうと、色々、やってみたんです髪も運動部の男の子みたいに、丸刈りにしてみたこともありますよ全国大会の準決勝で負けた時後に周りの子は、根性入ってるって言って下さいましたけれど
本当はそうじゃない
麗華は何としても、自分の剣士としてのイメージを確立したかったんだ
敵に対しては姿形から、威圧するために
部活の子たちには頼れる、強い主将と思ってもらうために
でも丸刈りの頭は、不評でしたあのその頃には、学校にわたくしのファンクラブができていまして
麗華のファン・クラブ
女子校ですからボーイッシュなセンパイがいると、そういうのがすぐ作られるんですあたしの場合は剣道部の子が半分と、後は文化部の子でしたそれでその文化部の子が、センパイ、こういう髪型にして下さいってタカラヅカの男役の方の写真集を持って来てくれまして
最初はそういうのでしたねそれから少女漫画の執事さんですか執事さんが活躍するような作品を、いっぱい見せてくれて
藤宮センパイ、こういうイメージになって下さいって、言われたのね
渚がハッと、呆れる
そういうことです
タカラヅカ→執事ときて
じゃあもしかして、英国紳士もっ
寧が尋ねると
いや、それはまた色々あったんです執事さんまではわたくしも、何となくあの子らの気持ちが判ったんですけれどその後、あの子たちはあたしに、新撰組とか戦国武将とかの本を持って来まして
あそっちへ行ったか
でも、わたくしは剣士を目指しておりましたが、別に時代劇がやりたいわけではないんですそれにそういう過去の武士に関する書物は、小学生時代に祖父の蔵書でほとんど読み尽くしていたはずなんですが
麗華は暗い顔をする
あの子たちが持って来たのとは中身が違うんですあの子たちの本は歴史的にちょっと変というか戦国武将が女性だったり、新撰組が吸血鬼だったりするんです
それで、まあその路線には、付き合えないなとそう感じていた時にファンクラブの子の一人が、イギリスのビクトリア朝の画集を持って来まして
やっと英国紳士が出て来たねっ
いえそれは、メイドさんの本でした19世紀末のイギリスのメイドさんの衣装や、生活についての本だったんですけれど、メイドさんがお客様にお茶のサービスしているイラストが載っていてああ、こういう世界の方がいいなって
それで、英国紳士路線に
渚が唖然とする
はい変な武将や、新撰組よりは良いですから
まあそうだろうけれど
それであたしのファンクラブの子たちは、試合の応援に来る時は、みんなメイドさんの格好で来てくれるようになったんです
まさか麗華お姉さんはっ
わたくしは学校の制服です高校時代には、まだ男装はしていません
ああ良かったっ
寧はそう言うが
全然良く無いぞ
応援の子たちがメイド服ってことになったから
麗華は心の中で、メイドに傅かれる英国紳士になってしまったんじゃないのか
みんなわたくしのことをご主人様と呼んでくれましたしわたくしはボクの可愛いメイドくんたちと、呼んでいました
それで、わたくしどんどん、世紀末イギリスの文化や風俗について調べるようになりましてハマっちゃったんです紳士の世界にだから、キッカケは、ファンクラブの子なんですけれどヴィクトリア朝時代のことは、本当に好きなんです19世紀末の風俗と文化を調べるのはわたくしのライフワークだと思っていますから
剣道ばかりやってきて
趣味が何も無かったからなあ
そして高校を卒業して、香月セキュリティ・サービスからいただいた最初の契約金で、本物の英国式の紳士服を仕立てたんですわたくし
谷沢さんは、驚いたろうな
高校剣道ナンバーワンの子をスカウトしたら
入社した途端に、英国紳士になっちゃったんだから
うんこれで、麗華お姉さんが、どうして英国紳士好きになったのかはよく判ったんだけれど
でも、お姉さんメイド服の方も着てみたいとは思わなかったの
だって、似合わないですから
いや、似合わないかどうかは着てみないと判らないじゃないか
わたくしこんな体型なんですよ似合うはずがございません
麗華は、そう言い切る
ごめん、ちょっと矛先を変えるねっ麗華お姉さんメイド服を着ている女の子のことは、可愛いと思う
ええ可愛いと思いますわ
そこが多分ポイントなんだと思う麗華お姉さんはつまり、タカラヅカの男役にも、執事さんにも、戦国武将にも、新撰組にも反応しないでメイドさんに反応したってことでしょ