白坂創介は渚に、父親不明の娘を産ませた
その時に渚を犯した男たちを調べても意味が無い
白坂の猟奇的な企画に乗って、渚を犯した男なんてロクな人間なはずはない
判った渚くんも克子くんも、何かあったら私に相談してくれたまえ決して、悪いようにはしない
いや、タツナミさんだけに良い顔はさせませんよ僕もできる限りの助力はする
私だって協力するよできることなら、何でもする
私もです妻にバレない限りは
紳士たちの中に笑いが起きた
確かに家の者に知られるのはマズい
だが、まっとうなことだったら幾らでも援助は惜しまないよ
黒森さん、あんたの方もだよ
ああ私たちは、あの屋敷には相当世話になったからね
オレは渚の凄さを改めて知る
渚はかつての自分の顧客の中でも、まともな感覚の人たちを選んだんだ
今後の自分と黒い森に助力してくれる人間を
オレたちは、また強い味方を得た
土曜日です
231.晴れ着の価値
お兄ちゃん、ちょっと
寧さんと盗聴マイクの音声を聞いていたオレの肩を、マナがちょんちょんと突っつく
んどうしたんだ
メグお姉ちゃんの様子が変なの
慌ててメグを見ると、何か落ち込んでいる
ソファに座って、頭を抱えて小さく丸まっていた
寧さんごめん
オレは寧さんにイヤホンを返してメグの元へ
メグの前にしゃがんで、視線を合わした
手を握ると酷く、冷たい
メグは、緊張している
ごめんねちょっと、怖くなっちゃって
暗い顔でそれでも無理に微笑もうとしながら、メグがオレを見る
シザーリオ・ヴァイオラのことか
白いヴァイオラたちが劇場内に潜入して来たことが、恐ろしくなったんだろうか
そうじゃないわ今の状況が
メグはロビーを見渡す
正面の入り口から次々と来場してくる今夜の観客たち
今、ミナホ姉さんたちが話をしているような老人ばかりでは無い
もちろん出演者の友達である、若い女の子たちも多い
そのお母さんやお祖母さんたちも
あたしここに居て、いいのかしら
ロビーに居る人たちの大部分は、お金持ちのセレブの家族だ
残りは、その警護役やお付きの人
紺碧流の事務局員と香月セキュリティ・サービスの警備員
そしてオレたち
よくよく考えてみれば貧しい生活をしてきた子供は、オレとメグしかいないんじゃないだろうか
雪乃とマナは、白坂家の一族だし
何か急に、怖くなってきちゃったの
メグの言葉にオレも改めて、会場を見渡す
うんオレもメチャクチャ、場違いな人間だ
こんなお金持ちばかりの世界に居るのはおかしい
ここはオレとは無縁なはずの世界だ
そう気付くと急にゾゾゾと怖くなってきた
あたし、せっかくヨシくんに可愛いドレスを買って貰ったけれど他の子みたいに綺麗に着こなせてないよね
メグが、泣きそうな眼でオレを見る
メグは、白坂家の集まりでも、ずっと晴れ着を着せて貰えなかった
いつも、一人だけ学校の制服姿で部屋の隅に追いやられていた
山峰の家の娘として、差別されていた
メグには晴れ着に対する根深いコンプレックスがある
あたし可愛くないからドレスなんて着ても似合わないし
お前って、やつは
いい加減にしろ、メグオレと二人で選んで買ったドレスだろ
オレは少し強い口調で、メグに言った
オレも少し緊張していた
似合ってるよ似合ってるに、決まってるだろ
オレは、メグをギュッと抱き締める
ヨシくん恥ずかしいよ
恥ずかしくない愛し合っているんだから、オレたち
オレの腕の中でメグの身体の固さが取れていく
少女の肉体が、柔らかく解れていく
まるでオレの体温で溶けていくように
メグも、オレを抱き締める
少しは、落ち着いたか
オレは身体を離す
真っ直ぐに、メグを見る
オレはメグが可愛いと思う綺麗だと思うだから、いいんだよこれでメグは、ここに居てもいいんだ
大丈夫だよメグに文句を言うやつは、みんなオレがブン殴ってやるから今、この開場の中に居る誰にだって、オレは胸を張って言ってやるよオレのメグは可愛いって
メグの瞳が潤む
そのドレスミナホ姉さんが、オレに買わせた理由がよく判るよそれは、オレが身体を張って働いたことに対してミナホ姉さんがくれた報酬で買ったんだオレの支払える金額のドレスを買ったんだ
今、ここに居る女の子は、もっと高級なドレスを着ているのかもしれないけれどそんなのは関係ない
もしももっと高級品のドレスをメグが今、着ていたら多分、ミナホ姉さんは、メグのために高級ドレスを用意することなんて簡単にできたと思うんだ
なのにわざわざ、オレとメグにドレスを買いに行かせた
所持金の金額を定めて
だけど今、この場でそんな借り物の高級ドレスを着ていたとしたら、メグはどう思う
多分、もっと恥ずかしい思いをしていたと思うわドレスの値段に自分が合っていないことが耐えられなかったと思うの
今着ているドレスについては、どう思う
オレの問いにメグは自分のドレスを触る
これだって本当はあたしみたいな女の子には高級すぎる服だって思うよ本当はでも、これはヨシくんが買ってくれたドレスなんだよね
そうだよ二人で選んだドレスだ値段だって知っているだろ
うん判っているこのドレスは今のあたしには、一番相応しい晴れ着なんだってこと
そうだよだから、胸を張って堂々としていてくれよメグ
オレはメグの手を握りしめる
オレのためにメグ自身のためにメグを思って、色々と考えてくれたミナホ姉さんのために
メグがオレの手の甲に口づけする
ありがとうヨシくん
オレは自分の背広を見る
オレだってこの服は、借り物だよ借り物で良かったオレの物じゃなくってこれはミナホ姉さんのお祖父さんの背広だしそれを、克子姉が愛情込めてオレのサイズに直してくれたんだそういう服で本当に良かった
オレも新品の高級品は、与えられなかった
いや、高級な背広を買ってあげると言われたらオレは多分、拒絶していたろう
ミナホ姉さんと克子姉はすでに亡くなっている、黒森公之助さんの背広を借りるというプランを選択してくれたんだ
故人の物を借りるというのならオレが受け入れると思って
しかも、オレに内緒で克子姉はサイズ直しまでしてくれた
そこまでしてくれなかったらオレは今日、いつもの学生服のままこの劇場へ来ていただろう
今のオレには借り物を着ることしかできないものそれが、オレの現実だよだからその現実をオレは受け入れる受け入れた上で、この上流な人たちの中で堂々と生きてやるよ