メグは、安物のドレス
オレは、借り物の背広
それが、オレたちの現実
認めようこの現実を
そして自分のみっともなさを自覚した上で、高級な人たちの世界に立ち向かおう
恥ずかしくなんかないさ今の自分に相応しい服を着ているだけなんだから
あたしは貧しい家で育ったわ晴れ着なんて着るのは、これが初めてこれは、ヨシくんが買ってくれたあたしのドレス今のあたしに、相応しいドレスはこれしかないわ
メグが愛しげにドレスの布地に指を滑らせていく
あたしは、ここに居ていいのねううんどんなに恥ずかしくても、胸を張ってここに居るわこれが今の自分に相応しい一番の晴れ着なんだから
そうだよメグ
オレはミナホ姉さんの深い考えに感謝する
克子姉の愛情に感謝する
これでいいんだ
マナが、ニコッと笑って顔を出す
メグお姉ちゃんだけ、お兄ちゃんからドレスを買って貰っていいなあ指輪もでしょ
メグの指にオレたちの婚約指輪が輝いていた
マナにも買ってやるよドレスも指輪も
オレは、約束する
え本当
っていうかオレが頑張って稼がないとお前の生活費は、オレが出すんだから
ドレスとか指輪とかってレベルの話ではない
靴下とか下着まで今後は、オレが買うしか無いんだ
マナも、改めて思い出したようだ
白坂の家にはもう帰れない今の学校にも、もう通えない
マナはオレと暮らすしかないんだ
そういう現実が、一気にマナの頭に再浮上する
ヨシくん、あたしは自分の分は自分でバイトするからマナのことだけ考えてあげてね
オレはメグにだって、精一杯部活をやって欲しい
マナだってアルバイトするよ
マナは、しょんぼりしている
中学生には、バイトは無理だろとりあえず、克子姉のお手伝いはしろよ
オレは、両腕を拡げて二人を抱く
そんなに心配するなよ細かいことは今の騒ぎが全部収まってから考えようミナホ姉さんにも、相談しないといけないことだし
そうだねヨシくん
判ったお兄ちゃん
二人は、そう返事してくれた
だから今は、不安なことは全部忘れて、みすずの応援をしてやってくれみすずは姉妹会のお姉さんだろ
うんマナ、一生懸命応援する
オレたちの背後で、女の子の声がした
そんな、まさか
どうしたの、菅原さん
いえあそこのソファの人、白坂舞夏さんじゃないわよね
その声にマナは
顔色を変える
知り合いか
オレが小声で尋ねると
同じクラスの子菅原さんと滝さん
マナもそこそこのお嬢様女子校に通っている
同級生とこの会場で出くわす可能性は高い
そういう状況は、想定はしていたけれど
実際に、そうなるとどう対応したら良いのか判らない
まっさかぁ舞夏さんが、来るわけないじゃない
そうよねえお父様があんなことになられて、こんな公の席に出て来られるはずがないわよね
それが、世間の認識だろう
何しろ、マスコミは昨夜から白坂創介の醜聞事件一色なのだから
白坂家というセレブな家系の人間による犯罪
芸能界を巻き込んだ、セックス・スキャンダル
さらには、少女誘拐・強姦・殺人
センセーショナルな話題には、事欠かない
マナは、その極悪犯人・白坂創介の実の娘なんだ
白坂家の方々は、今日は皆さんいらっしゃらないそうよ
えーっ、貴子さんも
そうよ同じ白坂って家系だけで、恥ずかしいじゃない
まあ、それはそうでしょうけれど
守次様が、あんな記者会見をして白坂創介さんを庇うような発言をしなければって、貴子さん、電話の向こうで泣いていらっしゃったわ
あの方今日の発表会、楽しみにしていたものね
その話し声にマナは
貴子ちゃんごめん
親戚なのか
従姉妹日舞をやっているのよ流派が違うんだけれど今日、観に来るつもりだったんだ
マナは落ち込む
それにしても似ていないあそこの子
うん、似ているって言えば似ているけれどでも
白坂舞夏さんなら、あんな品の無い格好はなさらないと思うのよ
今日のマナは自前のドレスを、克子姉のアレンジで肌を露出気味にして着ている
メイクも髪型も、割と派手目だ
決して下品だとは思わないけれど
克子姉はセクシー路線が好きだから
そうねえ、お父様が事件を起こされている時にあんな馬鹿みたいな格好は、なさらいわよね
別人よお隣にいらっしゃる人も、随分と安っぽいドレスを着ていらっしゃるし白坂家の人間なら、もっと高級なお洋服を着ていらっしゃるわよ
おいおい今度は、メグのドレスまで批評し始めた
しかし、このお金持ちのお嬢さん二人は声が大きいなあ
どこの家の方かしら
何か庶民が無理してやって来ましたって感じよね
日舞をやっている一般庶民の子なんじゃないの
そうねたまたま招待券を手に入れて、間違って来ちゃった方々なんでしょうね
今日の発表会は、そういう会じゃないのにね
マナのクラスメイト二人の言葉は、どんどんエスカレートしていく
マナは、グッと膝を掴んで青い顔で震えている
マナ、しっかりなさいっ
年下の少女たちの無遠慮な言葉にカッとしたのか、メグが大きな声を出す
あなただって、黒森の娘でしょうさあ、マナ、お兄様にお謝りなさい
何で、マナがオレに謝らないといけないのか判らないが
とにかく、メグがそういう芝居をオレたちに求める
ごめんなさいっお兄ちゃんマナは、悪い子でしたっ
マナが大きな声で、オレに謝る
う、うん判ればいいんだよ判れば
適当なことしか言えないオレ
メグお姉ちゃんも、ごめんなさいっ
いいことあなたも、伝統ある黒森の家の一員でしょうどんな時でも、黒森の家の娘として凛とした態度でいなさいっいいわねっ、マナ
オレたちの小芝居を見て少女たちは
やっぱり、違うみたいね
白坂舞夏さんじゃないわね
そうよ、黒森とか言っているし
そう言えば舞夏さんて、お姉さんだけでお兄さんは居なかったわよね
お姉さんだって、あの人とは違う人よあたし、前に会ったことあるから
え、いつ
何かのパーティの時よメトロ・ホテルだったわ
じゃあ、本当に別人なのね
納得したのか、少女たちはオレたちから離れて行った
お兄ちゃんお姉ちゃん
マナが、オレたちにしがみつく
しばらくは、3人で固まっていよう3人一緒なら、バレないだろうから
変に思って近付いて来る人がいれば、また3人で寸劇すればいいんだ
あたし間違っていたわ
落ち込んでいる暇なんて無いのねいつでも感覚を研ぎ澄ませて、闘う準備をしていないとここでは、打ちのめされちゃうわ