判りましたマナ、行きましょっ
オレは美智を見て
こっちはマルゴさんが居るから美智は、メグとマナを警護して
メグ・マナ・美智の三人が劇場の中へ駆けていく
吉田くん、さっきの優先順位の件だけどさ
恵美ちゃん、マナちゃんは先に救命艇に乗せて雪乃さんは最後それは判ったんだけどさ
マルゴさんがニヤッと笑って、雪乃を見る
雪乃は、何よっという顔をして、マルゴさんの視線を外した
吉田くん自身はその時にどこに居るの
最後に雪乃さんを救命艇に乗せる時吉田くん自身は、もう救命艇に乗っているそれとも、沈没する船の上にまだ居る
沈没する船の上です
マルゴさんが、笑って雪乃に言った
そういうことだから雪乃さんは、吉田くんには少しも見捨てられていないからね
雪乃があっと驚いた顔でオレを見た
あたしなら、とっとと救命艇に乗り込んでそれで隙間があったら、雪乃ちゃんも乗せてあげるって感じだねっ
あたしは絶対に救命艇には乗せてあげません雪乃様が沈没していく姿を、救命艇の上から見ているわそうね、浮き輪ぐらいは持たせて上げる
渚が言った
あたしはちゃんと、雪乃さんが逃げ出さない様に沈没船の船底に雪乃さんを鎖で縛り付けてから、救命艇に乗るわよ絶対確実じゃないことって、嫌いなのよ
ミナホは、どう
マルゴさんの問いに、ミナホ姉さんは
あたしなら、船が沈没していなくても雪乃さんを海に突き落とすわよそうねサメがうじゃうじゃいる海域を狙ってね
もう、仮定そのものが違っている
みんな雪乃には手厳しい
いいわよっ鎖で縛られたら、鎖抜けするわよ海に突き落とされたら必死で泳ぐわよサメに襲われたら、サメよりも速くね絶対に生き残るからっあたし、絶対に殺されないからねっあんたたちにはっ
この不貞不貞しい生命力は本当に素晴らしいと思う
そんなことを考える前に、吉田くんのことを大切にしてあげればいいのに
マルゴさんが、クスッと笑ってそう言った
え何でよ
雪乃には意味が判らないらしい
判らなければ、それでいいよそれが雪乃さんらしさなんだろうから
そして、オレの肩をポンと叩いた
吉田くんも大変だねっ
さて、行きましょうか
ミナホ姉さんの言葉に、全員でロビーのソファから離れる
ここだよっ、お兄ちゃんっ
マナが手を振る
一階席の前から10列目くらいの右の方の一角を、マナたちは押さえていた
もうかなり観客は来場しているのに、客席はそんなに埋まっていない
オレがキョロキョロしていると
今日みたいな発表会だと初めから終わりまで、全部観る人はそんなにいないのよ
ミナホ姉さんが、説明してくれた
そうね、自分の知っている出演者の踊りしか観ない人も多いしね
それよりロビーで、色々な名家の人たち同士で挨拶し合ったり、交流したりすることの方が大切なのよ
なるほど色々な名士の人たちが来ているんだ
娘や孫の発表を観に来たついでに色々な人たちとの交歓をするというのも意味があるんだろう
さすがに、最後の家元先生の踊りの時は超満員になるわよ
渚が、そう言った
紺碧撫子先生は、人間国宝の候補になっていらっしゃる方だから
日本舞踊で、国宝っていうのはよく判らないけれど
きっと、スゴイんだろうな
そういうことだからあたしは、ずっと劇場の中にいるわ
渚のおかげで、お屋敷の昔からのお客の皆様には、ご挨拶できたし後は、あの方たちが、あたしたちの言葉を広めて下さるわ
うんあたしたちは、これ以上動かない方がいいだろうね
マルゴさんも、そう分析する
用がある方は、向こうから話し掛けて来て下さるでしょうしね一々、色んな人に話し掛けるんじゃなくって、ここにドスンと座ってあれが黒森御名穂だって指差される方が楽でいいわよ
ミナホ姉さんは見世物になる覚悟をしているらしい
いずれにせよこの状況で黒い森のトップがこの会に現れたってことは、あたしたちと白坂創介が完全に切れているっていうことを示してくれるからね
白坂創介と関係しているならこんな公の場に姿を現せるはずがない
それに香月様のご許可がなければ、あたしたちがこの劇場内にいられるはずがないんだよそのことは、みんな判っているから
うん劇場の警備は、香月セキュリティ・サービスが行っている
オレたちが、白坂創介の身内ならとっくの昔に叩き出されているはずだ
ということであたしたちは、ここで見世物になっているから、あなたたちは少し離れて座りなさい
ミナホ姉さんと、克子姉、渚、真緒ちゃんが並んで座る
マルゴさんと寧さんは、警護とお付きの振りをして、その後ろへ
そう言えばロビーのソファでも
ミナホ姉さんたちは、わざとオレたち年少組とは離れて座っていた
用のある時だけ、近付いてきて
そんなあたしたちも、一緒に座ります
そういうメグにミナホ姉さんは
ダメよあなたがあたしたちと一緒に座ったら、娼館の新しい女だと勘違いする人が出るかもしれないでしょ
メグ、こっちに座ろう
通路を挟んだ少し離れた席にオレは座る
その時劇場の外から、歓声が上がった
劇場入り口の方が騒がしいけれど
香月閣下のご来場だよ
三連休なれど体力を回復するだけで精一杯
というか暑すぎますはぁ
現状の人間関係を整理しました
雪乃は黒い森には受け入れられていませんし、本人も受け入れられる気はありません
雪乃はホント雪乃自身がお姫様で、我が儘放題できる集団でないとダメでしょうね
今までのストーリーを**編という形で区切りました
日付だけよりも判りやすいと思います
こうやって見るとちゃんと雪乃がメイン・ヒロインなんですけれどね
一番出番が多いですし
最新の登場人物リストも今、やっていますが終わりません
233.開演
やがて香月閣下は2階席に向かったらしい
2階席の奥の入り口辺りが、ざわついている
何で、2階席なんです
その方が警護しやすいからですそれに、高貴なる身分の方は昔から高い場所って決まっています
美智が、オレに教えてくれた
すでにオレたちは、ミナホ姉さんら年長組の人たちとは離れて座っている
オレの右の席にマナ、左にメグが座っている
オレの後ろの座席に、美智が雪乃を見張りながら座っていた
だから、美智は背中からオレの耳に囁くようにして話してくれる
高貴な方は舞台を観ると同時に、ご自分も他のお客様たちに見られるということを理解なすっていますから
そしてオレたちの視界に香月閣下の姿が見える
閣下は、薄いライトグレーのスーツを着ていた