本日の警備責任者の山岡部長は始末書に減給処分だねっ
寧さんがオレたちの席の方に移って来て、そう言った
ミス・コーデリアと白いヴァイオラが、場内に潜入したという知らせを聞いて警備体制を、そちらに大きく振ったのでしょう
つまりヴァイオラ対策に気を取られて
白坂家関連の人間が入場したことに、気付かなかった
多分さ、外国人や、大使館アメリカ商務省のルートに重点を置いたんじゃないのかなまあ、白坂家の一族の人間も、一応チェックしていたんだろうけれど
金子信男は、見逃しちゃったんだ
新聞社の取締役の下の方の人までは、チェックしきれなかったんじゃないかなどうせ、今日の会に白坂家関連の人は来ないだろうって思い込んでいたんだろうし
まあ金子信男は、ノー・チェックだったんだろう
大変な失態です
美智は冷たく、そう言った
まあ、そう言わないでガチガチに警備員を固めているつもりでも、こういうことは起こるんだよ
うん緊張状態を続けている時の方が、ミスは多い
まさかと思うところからちょっとした不注意で、とんでもない事態になる
むしろ、こんなミスは今のうちにやっておいてくれた方が助かるよ本番は夜だからね
この劇場に居る間はヴァイオラの襲撃は無いってことですか
ミス・コーデリアが、そう約束してくれたでしょっ
信用できるんですかあの人
信用できるわけないじゃんあのシザーリオ・ヴァイオラの元締めだよ
なら
ヨッちゃん大丈夫だって今はまだ、あの人たちもあたしたちも仕込みの時間だから
仕込みの時間
周りの人によく注意して一般のお客さんもそうだし、香月セキュリティ・サービスの制服を着た人たちにもね多分白坂本家のスパイとか、ヴァイオラの配下の人間はもう潜入しているから
でも今はまだ蜂起の時間じゃ無い状況が煮詰まって、爆発するまでには時間が掛かるってこと
寧さんたちはすでに次の事態を想定して、行動している
周りを見て、変だなって思う人が居たらすぐにマルちゃんに報告してそれから一人では決して出歩かないおトイレも、みんなで行ってねミッちゃん、頼むよ
寧さんの言葉に、美智が頷く
以上先生とマルちゃんからの伝言でしたっ
ミナホ姉さんとマルゴさんが、そういう指示を出して来たということは
二人はすでに潜入している敵を確認しているんだ
この会場にすでに敵は居る
変な人ってあの人とあの人のことでしょ
雪乃が平然と、観客席後方の出口近くに居た男を指差した
雪乃、お前
だって大叔父様のお家のパーティで見たことがあるもの
その瞬間雪乃が指差した二人に、香月セキュリティ・サービスの警備員が向かって行く
あっという間に二人の男が、連れて行かれる
誰かがオレたちの様子を見ている
ここに居る黄色と黒のワンピースを着た女が、白坂雪乃だと知っている人間が、オレたちの様子を監視している
ご主人様、上です
美智の言葉にオレは2階席を見上げた
香月閣下の後ろの席で専任警護チームの谷沢チーフが、オレたちを見ていた
オレを見てニッと笑っている
さすが谷沢チーフ
オレたちを泳がせて敵を釣り上げていくつもりなんだ
雪乃変な人を見つけても、もう指すな
え、どうしてよ
そんなことを続けていると潜入している敵がお前に注目するぞ白坂雪乃がここに居るって、バレてもいいのか
わ、判ったわよ
不承不承、納得してくれた
さて発表会のスケジュールは、中学生の二人組や三人組の踊りまで終わった
ここで今日の主催者である、紺碧流家元のご挨拶の時間になる
何で半分終わったところで、ご挨拶なんだろうそういうのって、一番始めにやるものなんじゃないのか
オレがそう言うと美智が
会の始めですとお客様が、まだ揃っていらっしゃいませんから
最初の小学生の踊りから御覧になる方ばかりではありませんし遅れていらっしゃる方もいます皆様、ご自分のお知り合いの踊りの時間に合わせて、ご来場なさりますから
なるほど普通の芝居とかとは、勝手が違うんだ
このご挨拶の後はお一人で踊られる方ばかりです家元様のお教室の中でも、腕前を認められた方ばかりになりますので
そう言えばいつのまにか、観客席が満席になっている
もちろん皆様、名家のお嬢様たちですから
ここから先は、名家の年頃のお嬢さんたちの品評会にもなっているんだ
香月閣下の後ろに並んで居るエリート青年たちにとっては、未来の嫁候補を探す時間でもある
今までの小中学生の発表とは、見る側の気合いが違ってくる
今年もまた、わたくしどもの教室の発表会を行うことができましたこれも皆様のご支援おかげでございますありがとうございます
日本舞踊紺碧流の家元紺碧撫子先生は、小柄なお婆さんだった
細身で背筋がスッと伸びている
とっても上品で、優しそうな人だった
紺碧流も来年で、流派設立より百年目を迎えますここまで流派が発展したことに、初代も大変喜んでいらっしゃると思いますわたくしどもも、これからも日々の研鑽を重ねさらに二百年、三百年と日本舞踊の伝統を次の世代に受け継いで行きたいと思っております
家元先生のご挨拶は、数分で終わった
大きな拍手の後に後半の発表会が始まる
最初の出演者は
加奈子さん、綺麗
うん格好いい
マナも絶句している
さっきロビーで少しお話した加奈子さん
その踊りはとっても大人っぽくて、艶やかだった
確かに前半の出演者とは、腕前が段違いだ
しかし本当に色っぽいな、加奈子さん
幾つなんだろう
ロビーや楽屋で見た時は、高校生ぐらいに見えたんだけれど
みすずに敬語で喋っていたから、もしかしたらオレと同い年くらいかもしれない
加奈子さんの踊りが終わる
万雷の拍手が場内に鳴り響いた
おっ前半と同じく、花束を持った人が舞台に向かう
加奈子さんのお父さんの映画俳優の洞口文弥
娘の発表会を観に来ていたんだ
うんやっぱり、本物の映画俳優は華やかだな
足が長いし背も180センチを軽く越えている
舞台下から花束を手渡されると加奈子さんは、お父さんの頬にチュッとキスをした
それで、また会場内に拍手が起きる
いいよねこういう時に、お父さんが来てくれるなんて
マナの父親は今、オーストラリアで地獄巡りをさせられている
マナが何かする時はオレが必ず観に行くから花束も持って行くよ
お兄ちゃん、本当
ああ約束する
マナにはもう、オレしかいない
オレがマナの家族の全てをやってやらないと