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習慣的に身に付いてしまっていることでしかないんだ

だから美子さんが、一人だけで日舞を踊ると、彼女本来の魅力が一気に露わになる

美人で、スタイルも良く、素直で真面目そうな理想的な少女が、姿を見せる

踊るとは、演じることです何かを演じれば、逆にその方の本来の姿が浮き上がってきます

丁寧な性格の方は、丁寧に踊ります普段は誤魔化していても、粗雑な方には雑な踊りしかできません心の広い方は、大きく踊ります立派な体格をなさっていても、心の狭い方は、小さな踊りしかできません

踊りが人の心を示す

踊りの振り付けは、伝統的なものですから昔から変わりませんそれなのに、踊る方によって表現に優劣があるのは、心が違うからです

うん定められた動きを、音楽に合わせてしているだけなのに

個性がはっきりと見えてくる

美子さんは主の瑠璃子さんに似て、鷹揚でほんわかとした性格の人だと思っていたけれど

美子さんの踊りは、丁寧できめ細かい

手の指先や、足先まで気を抜かずに踊っているのが判る

なのに息苦しい感じはしない

大きな大輪の花の様な艶やかな、華やかさを感じる

美子さんは今まさに成熟しようとしている年頃の美少女なんだ

踊りが終わり美子さんが、観客に礼をする

マナが、溜息を吐いた

ズルイよこんなに綺麗で、大人っぽいなんて

最初の小学生の踊りとは、遙かに違うレベルの踊りを見せられた

大きな拍手とともに花束を持った人たちが、舞台前に集まって来る

若い男性も7、8人いた

美子さんはとても、おモテになられるんです

毎回、この踊りの会ではあの様に、何人もの男性が花を差し出されます

しかし美子さんは、小学生くらいの女の子の花束だけを受け取って、もう一度会場に頭を下げる

みすず様や瑠璃子様と違い美子さんには、香月様の定められた婚約者はいらっしゃいませんから

単に美子さんのことが好きな男ばかりじゃないんだ

美子さんと結婚すれば瑠璃子さんを通じて、香月家と親しくなることができる

そういうことを企んで近付いて来る者も多いんだろう

ですから美子さんは、男性からの花束は決してお受け取りになりません

こんな公の場で男からの花束を受け取れば色々と勘違いされることになる

それを避けて美子さんは、男たちの花を拒絶する

毎回そうなのに今日も、8人もの若い男が花束を抱えてやって来る

それほど

香月家の懇意になるということは、魅力的なことなんだろう

美子さんが退場して舞台照明が変化する

今度は瑠璃子さんの番だねっ

マナがオレを見て、微笑む

薄闇の中を白い衣装を着た、瑠璃子さんが現れる

舞台上の定位置に付いて顔を伏せて座す

ビィィンと三味線の音

ライトの強い光が、カッと瑠璃子さんを照らす

瑠璃子さんの衣装は、銀糸で刺繍されている

その銀の糸が光を反射して、キラキラと輝いた

スッと顔を上げる瑠璃子さん

踊りが始まる

観客席の空気が一瞬にして変わった

踊る瑠璃子さんは可憐だった

誰も辿り着くことのできない山の頂上に咲く清廉な花の様だった

人の手に触れた瞬間粉々になってしまいそうな、聖なる花

人間の住む下界とは、相容れない澄み切った清らかな魂

美子さんの踊りは彼女が、大人になりかけている一人の魅力的な少女であることを示していたけれど

瑠璃子さんは妖精だ人では無い

清らかないや、清らかすぎる魂だけが感じられた

あの子、可哀想ね

あんなに一人ぼっちなのにそれが、当たり前だと思っているみたい

雪乃の言葉に、オレはハッとする

瑠璃子さんはみんなとは違う

違う世界に生きている

同じものを見ても他の人とは、違うように見えている

ずっとお付きの美子さんが側に居てくれていても

香月家の継承者である瑠璃子さんは違う次元で生きているんだ

そこまで閣下は瑠璃子さんを、現世から隔離して育ててきた

観客たちは、舞台の上の少女を可憐で清らかな妖精の様に見ている

オレもそうだった

ただ雪乃だけが

瑠璃子さんを、あくまでも15歳の一人の人間の少女として見ていた

あの子の世界には、あの子しかいないのね

瑠璃子さんの踊りが続く

舞台の上だけが別の世界の様だった

瑠璃子さんは、本当はとても遠い場所に居て

オレたちは、衛星中継の映像を観ているようだった

そう地球と月ぐらい離れている

なのに瑠璃子さんは、自分一人しか居ない聖域で、楽しそうに踊っている

異世界から、オレたちに手を振っている

一方通行の通信を送り続けている

何て悲しい踊りなんだろう

観客たちは、そんな彼女の踊りを違和感さえも、素晴らしい表現力と勘違いして、驚嘆しながら鑑賞している

瑠璃子さんとっても寒そう

マナの呟きが、全てを表現していた

瑠璃子さんには一緒に温め合う相手がいない

寒そうなのに笑っているね

自分が孤独であることにすら、気付いていない無邪気な魂

孤独な世界しか知らないから

孤独であることが、当たり前で生きてきたから

極限の孤独の中で瑠璃子さんは、一人で笑って、一人で遊んでいる

それなのに顔をオレたちに向けて

遠い世界に棲むオレたちに笑いかけてくれていた

香月閣下が彼女に強いてきた生き方

香月家の娘としての

遠い世界からの通信が終わる

瑠璃子さんの踊りが

ワーッ

瑠璃子さんが最後の礼をした瞬間

会場全体から、大きな歓声と拍手が起きた

みんな今観たものを

ただの素晴らしい舞踊だとしか思っていない

瑠璃子さんの孤独な魂の表現であることに気付いてはいない

オレは、驚いた

踊り終わった瑠璃子さんには

誰も花束を渡しに来ない

オレは、美智に尋ねる

この様な場で、瑠璃子さんに花を贈るのは悪質なパフォーマンスだと思われますから

香月閣下の孫娘に公の場で花束を贈ろうとするとやっかまれたり、陰で文句を言われたりするのだろう

だからいつの間にか、瑠璃子さんには誰も花を贈らないというのが、非公式な取り決めになっていったんだ

こういうおかしな特別扱いで瑠璃子さんのためになるのか

一生懸命に稽古して、踊り切った瑠璃子さんに

遠くからの拍手だけでなく気持ちを、思いをちゃんと届けるべきではないのか

瑠璃子さぁぁんっ素晴らしかったですっ

オレは席を立って、大きな声で叫んだ

下品な行為なのかもしれない

馬鹿丸出しなのかもしれない

でも、他に思い付かなかった

ちょっと、止めなさいよみっともないでしょ

雪乃がオレを制しようとするが