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香月閣下の二人の孫娘二人だけの香月家の後継者

閣下の長男の娘瑠璃子さん

閣下の次男の娘みすず

香月家には他に直系の子孫はいない

閣下によって、後継者争いをしているように見せ掛けられている娘二人が仲良く微笑み合う

みすずの恋人であるオレを瑠璃子さんが認めているということを、世間に示した

劇場内に動揺の波紋が拡がる

パチパチパチ

新たな拍手が起こる

閣下だった

閣下が、オレたちに向かって拍手する

その顔は無表情のままだ

おそらくオレとみすずの暴挙に腹を立てているのだろう

しかしここで拍手をして

自らの度量の深さを示さねばならないと、閣下は考えたのだろう

閣下の周囲のエリート青年たちも、拍手に加わる

さすがに司馬貴彦は、拍手に加わっていない

みんな苦虫を噛み潰したような顔をしている

彼らにとっては、オレはとんでもない無法者なんだろう

そんな男がみすずと瑠璃子さんに手を出している

本来なら、オレみたいな身分の人間には、絶対に許されない行為だ

しかしとにかく、この場を取り繕うため

閣下や香月家の面子を潰さないために嫌嫌ながら、拍手をしてみせる

その拍手に、会場の何割かの人間が続いた

香月家に対する追従として心の無い拍手が起こる

後の何割かは、呆然としたままで

残りの人たちは、今後の事態を考えて何も見ていない振りをしている

これが大人の上流階級の人たちの世界か

そんな中で寧さんやメグたちだけが、心からオレたちを応援する拍手を打ち鳴らし続けてくれた

お兄様は、本当に勇気のある方なのですね

瑠璃子さんが、2輪の薔薇を見ながら、そう言った

違うわ瑠璃子さん勇気だけではないのよ

これは愛よ

自分の花束を見てみすずは、そう言った

瑠璃子さんはという顔をしている

そろそろお戻り下さいこのままでは、舞台の進行に差し障ります

美子さんが、オレたちに言った

そうだまだ、愛美さんと家元先生の踊りが残っているんだっけ

オレは、慌てて舞台から降りようとした

がみすずが、オレの手を握ったまま、離さない

旦那様そっちはダメです

このまま客席に帰ったら、マズイか

メグたちまで、他の観客たちから注目されることになるし

ミナホ姉さんたちとも合流できなくなる

一緒に、舞台袖へ

みすずに手を引かれてオレは舞台袖へ

瑠璃子さんと美子さんも

オレたちが退場したことで、黒衣さんたちが慌てて次の踊りの準備をする

次の踊り手家元先生の孫娘である愛美さんは、すでにスタンバイしていた

ごめんなさい、愛美さん場の雰囲気を乱してしまって

みすずが、愛美さんに謝罪する

大丈夫です気になさらないで下さい

これから出番だと言うのに愛美さんは、和らいだ表情でオレたちに微笑んでくれた

それより感動しました好きな人が来て下さってその胸に自分から飛び込むことができるなんて羨ましいですみすずさん、お幸せになって下さいね

愛美さん

愛美も自分では結婚相手を決めることのできない身の上ですから

そうかこの人も

紺碧流のために自分の意志とは関係無く、結婚することを強いられているのか

それを自分の運命だって思い込んではいけませんわ

あたしもずっと、そうだと思っていました自分はお祖父様の敷いたレールの乗って望まれるまま、求められるままに生きるしかないってでも、そんなのは間違いでした

みすずの本気が愛美さんに伝わる

すぐ横で、二人の会話を聞いている瑠璃子さんにも

それではあたしが幸せになれません

みすずの幸せ

家が安泰でもあたしがあたしたちが、幸せにならなくては何の意味もありませんあたしたちはみんな、幸せになるために生まれてきたんですから

だから愛と勇気ですその二つだけあれば、どんなことになっても、幸せに生きて行かれます

愛美さんの身体が震えている

そうですね、みすずさん運命だから仕方無いなんて、勝手に決めつけてはいけないんですね

愛美さんが、ニコッと微笑む

幸せになるための愛と勇気愛美、教えていただきましたありがとうございます

スッキリとした表情の愛美さんに対して瑠璃子さんの顔は晴れない

愛美さんお願いします

黒衣さんが、愛美さんに声を掛ける

はい今、参りますっ

愛美さんが、みすずと瑠璃子さんに振り向く

行って参ります愛美、精一杯踊ります愛と勇気を持って

そして愛美さんは、舞台に向かう

舞台袖から観る愛美さんの踊り

それは何から何まで、すば抜けていた

踊り始めた瞬間から観客の心を掴む

30秒後には誰もが愛美さんの踊りに集中していた

もうオレとみすずのことなんて、誰も考えていない

いや考えられない

将来の家元候補の踊りは今までの日舞教室のお弟子さんたちの踊りとは、根本的にレベルが違う

さっきまでオレは踊りを見れば、その人の本性が見えてくると思っていた

日本舞踊の踊りには、全てストーリーがある

踊り手はそのストーリーの中の登場人物を演じている

自分ではない人間を演じて踊っているはずなのに

どうしてだが、現在の踊り手自身が透けて見えた

美子さんの踊りには現在の美子さんが

瑠璃子さんの踊りには現在の瑠璃子さんが

みすずの踊りには現在のみすずの肉体と心が

露わになって、見えてきた

演じれば演じるほど一枚、一枚、衣服を脱いでいくように

踊り手自身の心と身体が、裸になっていく

みすずの踊りに至ってはオレには、全裸のみすずが見えていた

だから表現するということは、身も心もヌードになることだとオレは思っていた

でも愛美さんの踊りを観ると

オレのその考えは、間違いだった

あたしたちの踊りは所詮、素人のお稽古事にすぎません

みすずがそっと呟いた

愛美さんは一流の日本舞踊家になられる人だから

舞台の上の愛美さんは

一度、完全にヌードになって

愛美さんの本性を、完全に露わにした上で

さらに、踊りで表現するべきストーリー上の人物を着込んでいた

人はみんな本性の上に見せ掛けの服を着ています

裸の自分の上に社会的にそうしなければいけないという見せ掛けの服や、みんなに良く思われたいからって心を隠すための服を着ますそうやって服を着込んで本当の裸の自分を隠しているのが、あたしたちの日常の姿です

何かを表現しようとする時その偽りの服が邪魔になりますついついずるをして、日常生活で着込んでいる服の上に、表現のために演じなくてはいけない人物の服を着ようとするでも、それでは着ぶくれするだけで自由な表現はできません