確かに、その可能性はある
オレをみすずを騙している悪い男だと考えて暗殺しようとする人間が、他にもいるかもしれない
閣下に取り入るためなら、何でもする人間はたくさんいるだろう
それにここには、色んな名家の警護役が集まっている
警護役って言っても守るよりも、殺す方が得意な人だっているだろうし
暗殺者の人材には、ことかかないはずだ
あたしがこの方たちのお守りでも構いませんわよ
関さんが、妖しい眼でオレを見た
一度お約束した以上閣下の前にお連れするまでは、もうこの方に手は出しませんわ
妖艶な眼でにっこりと笑う
それにわたくし、この方には少し興味が湧いて参りましたの
そんな関さんに、みすずは
その方はあたしの大切な旦那様です無礼を働くと許しませんよ
無礼だなんてそんなことは致しませんわ
いややはり、みすず様のご命令通り、わたくしが楽屋に残ろう関さんは、お二人の警護をお願いします
藤宮さんが、関さんに言う
なあにあなた、わたくしに指図するつもりなの
どうして、この二人はとことん仲が悪いんだろう
相性の悪さを知ってて、閣下は関さんを派遣したな
そういうつもりは無いですよただ、他の家の警護役をこの部屋に近づけないためには、わたくしの悪名が役に立つと思いますので
藤宮さんの悪名
そうねあなたの方がお似合いかもね
はい関さんは、余所の家の方からのご評判だけはよろしいお方ですし
それどういう意味かしら
外面がとてもおよろしいと申し上げています
妖艶な美女と男装の麗人
二人の間の空気が、また緊迫する
さあ、シャワーに参りますよ関さん
瑠璃子さんが、強い声でそう言った
はい、参りましょうね関さん
美子さんは、穏やかに二人の間に入る
藤宮さん、覚えていなさいね
まあいずれ決着を付けないといけないのでしょうね
顔は笑っているが二人とも眼が怖い
では、旦那様行って来ますね
場の雰囲気を変えるためか
すぐ帰って来ますから待っていて下さいね
そう言って、オレにキスをした
ま、まあっ
驚く、関さん
ほほうっ
感嘆する、藤宮さん
み、みすずお姉様っ
瑠璃子さんと美子さんは、絶句している
いつものことです
美智が、落ち着いた声でそう言った
いつものこと
関さんが、美智に聞き返す
はい愛し合っておられるお二人ですから
瑠璃子さんは、耳まで真っ赤にしている
愛し合っている方たちが接吻するというのは、物語では読んだことがありましたが本当だったのですね美子
はいわたくしも初めて拝見いたしました
徹底して性的な知識を与えられてこなかった二人は呆然としている
旦那様ぁんっ
みすずが、オレに舌を差し出す
オレは、その舌を舐めしゃぶる
舌と舌を絡ませ合う
よ、美子、あれは何をなさっておられるの
さ、さあ判りません
みすずは、チュッとオレの口から唇を離して
また後でいっぱいご奉仕致しますね
うん楽しみにしているよ
みすずが、困惑している美智以外の女性陣に告げる
お待たせ致しましたさあ、行きましょう
みすずたちがシャワー室に向かうと
では、わたくしはドアの外で警護しております
藤宮さんが、そう言った
いや、そんないいですよ廊下に立って貰うなんて悪いですよここに居て下さい
廊下に立って姿を見せていないとわたくしがあなたを警護しているという示威効果はありません
確かに楽屋の中に居たら、藤宮さんが居るってことは外の人には判らない
それは、そうなんだけれど
黒森様は、どなたかにお電話なさるのではありませんか
あ、さっきのみすずとの話を聞いていたのか
わたくしには、盗み聞きをするような習慣はございませんので席を外しております
すみませんお気遣いいただいて
藤宮さんは、オレをジッと見て
本当に変わった方ですね黒森さんは
わたくしが拝見したところ裏の世界の人間らしいところが、まるでありません
裏の世界って
黒森というのが、どういうお家なのかわたくしは存じ上げております
そうだこの人は、香月セキュリティ・サービスのエリート警護人だ
黒い森のことを知らないはずがない
しかし黒森様には、あなたの様な年齢の男性はいらっしゃらないと記憶していますが
香月セキュリティ・サービスの黒い森のファイルには
オレの存在はまだ記入されていないようだ
まあ、いいでしょうあなたがどこの誰であろうとわたくしは、みすず様の命に従って、あなたをお守りするだけです
藤宮さんは、フフッと笑う
それに今日は、あなたのお陰で何度もスカッとする思いをさせていただきました
一つ目は瑠璃子様のために、立ち上がって拍手して下さったこと二つ目は、みすず様のためにお花を持って舞台に上がって下さったこと三つめは、瑠璃子様にもお花を捧げて下さったことそして、最後は
あの関さんを慌てさせたことあの方の間合いに素手で飛び込んで、抱き締めてしまわれるなんて正直、心の中で大笑いさせていただきましたわ
藤宮さんは、関さんと仲が悪いらしい
撫子先生が人間国宝の候補なんて話を書いていたら
歌舞伎の玉三郎さんが、本当に人間国宝に推薦されてしまいました
玉三郎さんはお芝居も素晴らしいですが、踊りの名手でもあります
昔、歌舞伎座で玉三郎さんの鷺娘を拝見しましたが
あの弁当を食べてお酒を飲みながらの、ほんわかとした歌舞伎座の客席が
ホントにシンとなって、みんな玉三郎さんに集中していました
本当に素晴らしいものを観せていただいたと思います
さて、香月セキュリティ・サービスのエリート・チームは仲が悪いながらも、お上品な雰囲気で行こうと思いますが
これに工藤父の配下の実戦部隊が加わりますこっちは、70年代東映映画というか、輝ける石川賢世界というかとにかく、下品チームでいきます
両チームで、ヴァイオラの一党と闘うことになります
ご期待下さい
239.楽屋の中で
では、わたくしは
そう言って藤宮さんは、席を外してくれた
楽屋の中はオレと美智だけになる
みすずがここに美智を残したということは
藤宮さんだって、いつ敵になるか判らないということなんだろう
例えば今、香月閣下の命令で谷沢チーフがやって来て
藤宮さんにオレを始末しろと命じたら
彼女の中では、閣下の命令はみすずの命令の上位にある
そうなればオレは殺される可能性が高い
だからこそ万が一に備えて、みすずは美智を置いていってくれたのだろう