それはよく判ります
瑠璃子さんが、頷く
閣下の孫娘である二人は、同じ悩みを抱えて生きてきたのだろう
あたしは皆さんに祭り上げられるのも、疎まれるのも嫌でしたからとにかく、どなたにもニコニコと微笑んで、優しく穏やかに接することに務めてきましたそれでいて特に親しい関係の人間を作らないようにあたしと親しくし過ぎた方は、他の方に妬まれて、苦労なさいますから
はいわたくしも、お姉様と同じですなるべく機嫌良く、いつも笑っていてそれでいて、どなたとも親しくならないようにして参りました
しかし瑠璃子さんには、美子さんがいらっしゃいました
ええわたくし、美子の存在に、本当に助けられて参りました
瑠璃子さんは、3歳年上のお付きの少女にねぎらいの言葉を投げ掛けた
もったいないお言葉ですわたくしなぞ
いいえ美子が居てくれたからこそ、わたくしは今日まで元気にやってこれたのだと思います
見つめ合う主従
羨ましいですわあたしには、美子さんの様なお付きはいただけませんでしたから
みすずが二人を見る
正直高等部に進んだ頃から、あたしは息苦しくなってしまって心がすっかりくたびれていましたずっと一人ぼっちで誰にも気を許せない生活に
瑠璃子さんも美子さんも真剣な顔で、みすずの話を聞いている
同じ立場にいる二人だからみすずの話は、人事で無い
あ関さんと美智も、興味深そうに聞いている
そうしたらあたしの心の苦しみを判って下さったのでしょうねお祖父様がある方をご紹介して下さってあたし週に何時間かは、その方のところで心を解放することができました
渚のお店でのアルバイトと
渚とのレズプレイか
アルバイトといっても、渚はみすずには店の奥に居させて、接客させなかったらしいし
それでも、香月の家や名門お嬢様校の生活とは関係の無い仕事をするのは良い、気分転換になったろう
それはセラピーとか、そういうことをなさっている先生ですか
美子さんが、みすずに尋ねた
そうですねそんな様な感じですわ
まあ、花屋で綺麗な花に囲まれるのは、確かに心が和むだろう
その後のレズ・プレイはどうかと思うけれど
その方があたしに、旦那様を紹介して下さいました
旦那様はあたしが香月の家の人間だということを全く知らずに、あたしを受け入れて下さいましたいいえ、香月の血筋だと知った後でも、旦那様は何一つ変わらずに、あたしを愛して下さいます家の格とか血縁とかこの方は、一切、拘りが無いんですよ
それでは本当に、みすずお姉様だけを愛しておられるのですね
はい例え、あたしが香月の家を追放になったとしても、旦那様は変わらずあたしを愛し続けて下さいます
みすずがどうなろうとオレは、一生、みすずに対して責任を持ちます幸せにします
どうしてですの、みすず様それでは、閣下のご意志に反することになりますわその様なことをするなんて自殺行為ですわ
関さんが思わず、口を開いた
自殺行為なんかじゃありませんオレは何が何でも生き延びますオレには、幸せにしなくちゃいけない家族がたくさんいますから
そうだオレには
みすずもオレの家族ですもう、家族なんですだから、守ります絶対に幸せにします
君は馬鹿なの現実は、そんなに甘くはないですわ
関さんは、そう言うけれど
現実が厳しいのは、判っていますでも、もう家族になってしまったんですもう引き返せませんオレたちは、前に進むしか無いんです
はいみすずは旦那様の家族ですっ
みすずが、嬉しそうにオレを見る
美智お前も家族だからな
美智が、眼を潤ませる
はいご主人様みすず様
瑠璃子さんが
お姉様お姉様たちのおっしゃる家族ってどんな関係ですの
瑠璃子さんは香月の家、一族、血族は知っている
しかし家族は知らない
オレたちの言っている様な類いの家族は
どんなに大変な時でも、メンド臭がることなく、全力で助けてあげたい幸せにしたいそういう風に思い合う相手の関係です
それがオレにとっての家族の定義だ
はい、ですから旦那様はいつも、あたしや美智や他の家族の幸せを考えて下さってますあたしも旦那様や美智や、他の家族の幸せを考えていますお互いに依存し合っているのではありません協力して相手のことを慮っているだけですその関係が、幸せなんですあたし、旦那様の家族にしていただいたことを神様に感謝しています
香月家よりもその方の家族の方がよろしいのですか
美子さんが、びっくりした顔で尋ねる
はいただただ、幸せですから旦那様の家族であることは
みすずの言葉はオレには重い
頑張らなきゃオレ
みすずを、もっともっと幸せにしてやらないと
わたくしにはよく判りません
瑠璃子さんが、寂しそうに言った
あら瑠璃子さんだって、美子さんと二人きりで過ごされている時は快適でしょう
はい美子と二人でしたら、気が楽ですから
それと同じですただ違うのはあたしたちは主従関係ではなく、対等だということと家族はたくさんいるということだけです
何が、たくさんおられるのです
姉妹です
今のあたしには敬愛する姉と、可愛がってあげたい妹がたくさんいますみんな、旦那様を通してあたしの家族になって下さった方々ですあたしたち家族は、運命共同体です個人の幸せが、家族の幸せに繋がることを、全員が理解していますからいつも信頼し合って、協力し合っています
それが黒い森
オレたちの家族に、血縁関係はありません生まれも育ちも違う人間が自らの意志で、家族になったんです互いを受け入れ合っている家族なんです
オレの言葉に、関さんは
そういう秘密結社なんですか
みすずは、笑う
そんな大それた物ではありませんよ弱い人間たちがそれでも強い人間に屈することなく、運命と闘い続けようとしている人間たちが肩を寄せ合ったら、たまたま家族としてまとまったというだけのことです
はいみすずの言う通りだと思います
あたしにはよく判りません香月の血筋よりも大切な人間関係なんて
でも、瑠璃子さんだってあたしの旦那様が信頼できる方だということは、ご理解下さいますよね
それは判ります今までの黒森様の言動を見ていればきちんと御自分の考えを持っていらっしゃるしとても勇気のある方だということは
今はそれだけ判って下されば結構ですわ
みすずは、満足そうに言った
みすずの着替えが終わる
さあそろそろ、参りましょうか
瑠璃子さんと美子さんは、考え込んでいる