Выбрать главу

みすずが興味なさげに尋ねた

そ、それは、もう何から何まで

司馬貴彦は、必死に話し続ける

あ、あなたの夫になるということは香月グループの中枢を担うということですから僕は、今まで以上に必死になって経営学の勉強を進めています大学は、首席で卒業します絶対に約束します努力します来年には、アメリカへ留学してMBAの資格を取りながら、各国の経済人とのコネクションを築きますそうしますそういう予定なんです

そんなことあたしには、全然関係の無いことですわ

みすずは、冷たく答えた

貴彦さんはお父様が、香月グループの重役でいらっしゃいますあたしとのお話が無かったとしてもご自分のご意志で香月グループに入社なさったはずですし、貴彦さんのお力ならば将来、経営部門のトップに立たれるでしょうあたしと結婚する意味なんて無いじゃないですか

司馬貴彦は

ええただの重役まででしたら、独力で行き着く自信はあります

しかし重役のその上グループのトップを目指すためには、あなたとの結婚がどうしても必要なんです

この男は

みすずに対して愛を感じていないのか

最初っから、これが政略結婚での婚約だということを認めてしまっている

香月家の一員になることで僕の人生の勝利は、120パーセント確実になります逆を言うともし、あなたと結婚できなかったとしたら、僕が人生に勝利する確率は半減すると思います

貴彦さんにとって、人生の勝利とはどんなことなんですか

そんなの決まっているじゃないですか

香月グループの企業の社長になることですか会長になることですか

閣下の様な素晴らしい経済人になることですっ

司馬貴彦が断言する

閣下みたいな日本の、いや世界経済をも動かすような力強い経済人になりたいんですよっ僕はっ

あなたがどんな夢を持とうとあなたの自由ですしかし、あなたのその夢ではあたしは幸せになれません

だから僕は、こんなに努力しているじゃないですかっ

司馬貴彦がドンと机を叩く

僕だって簡単にあなたに受け入れられるとは思っていませんどうせ、僕は

ギロッと一瞬、オレを睨む

僕みたいな男が、あなたみたいなお嬢様に好かれるはずがないんですからっだから、僕は努力するしか無いんですいいえ、僕は努力することしか自信がありませんから生まれてからずっと、僕は努力努力努力の努力漬けで生きてきたんですあなたに受け入れていただけるような男になるためにだって、真剣に努力しているんですよっ

努力って、どんな努力なんです

みすずが尋ねる

うんオレも知りたい

例えば僕この間の夜、あなたとフレンチ・レストランでディナーを楽しみましたよねっ

え二人きりで

そうですねあたしと両親と、あなたのご家族とでお食事しましたわね

みすずが訂正する

何だ家族揃っての会食か

その時あなたが、僕が温野菜のニンジンを残したのを残念そうな眼で御覧になったから

あたしそんな眼はしていません

いいえっ、していらっしゃいましたっしていらしたんですっもお、ものすごーく、可哀想な人を見るような眼で、僕のことを見たんですっ

それ被害妄想じゃないか

だから、僕今、ニンジンを食べられるようになるためのプログラムを、医師と心理療法士に依頼して立案させていますっ

これから、2年間の長期プログラムを経て僕は、ニンジンが食べられるようになりますっ絶対に、なってみせますっもう、あなたにあんな眼で見られることは二度とありませんっ無いですからね2年後には

多分、その時よりも酷い目で

みすずは今、司馬貴彦を見ているような気がするけど

そ、それから僕を、あなたのことを真剣に勉強していますっ

あたしを勉強

はいっ、僕は勉強するのは大好きですからっ

意味が判りません

つまり、僕はっあなたが、何がお好きなのか食べ物の嗜好や、音楽の好み、あなたに関する情報を何から何まで調べさせていますっ

司馬貴彦は、分厚いレポートを取り出した

机の上に、ドンと置く

ここにこうやっていつも持ち歩いて、時間のある時に見ていますっ一つ一つ、暗記していますっ例えば今日、暗記したページだとあなたは、南青山のラディゲ本店のチョコレートがお好みですねっ

司馬貴彦はニッと微笑んで、そう言った

はい確かに、そうですけれど

みすずが答えると

ほーら、やっぱりそうだそれは、このレポート32ページの上の段に乗っています僕の調査させた興信所は、優秀なんですっ僕は、あなたのこといっぱい調べさせましたしホントに何でも知っていますからねっ

勝利の笑みを浮かべる司馬貴彦

それで貴彦さん、ラディゲのチョコレート、食べてみたんですか

みすずの問いに司馬貴彦は

いいえっ甘い物を食べると、虫歯になるって母に言われていますからっ

素晴らしい、笑顔なんだけれど

あたしの好きなラディゲのチョコレートを食べたことが無いのにあたしの好きなものが何でも判るっておっしゃるんですか

司馬貴彦はレポートの束を指先で叩いて

だってあなたの好物は、ここにこうやってリストアップされているんですからこれを暗記することは、イコール、あなたの好みを熟知するということでしょうほら、僕、こんなにあなたのために努力しているんですっ

貴彦さんあたしが、メンデルスゾーンのピアノが好きなことはご存じですね

当然です確か、このレポートの24ページの右上の欄に、その情報が載っているはずです

ですがあたしは、絶対にあなたとピアノのコンサートに行きたいとは思いません

みすずの言葉に司馬貴彦は

問題ありません僕はコンサートに行っているような時間はありませんしそもそもピアノに興味がありませんから

どうなんだろそれ

そして司馬貴彦は、オレを見る

そこの君

そうだよ、君だ今の話を聞いて、判ったろう僕は、こんなに努力して、この人のことを理解しているんだよところで君は、何を知っているっていうんだこの人の僕は、知識では絶対に負けないからねそれだけの努力を重ねてきているんだからっ

そうだよく考えてみると

みすずのことを知らない

どんな物が、好きかなんて

ごめんみすず

オレは、みすずに謝った

オレみすずのこと、知らないままだよな

司馬貴彦が、フンッと鼻で笑う

ほら、どうだっ僕の方が、努力しているんだよっ

そうだオレ

みすずのために、何か努力したことなんてあるんだろうか

みすずオレ

オレの手をみすずの温かい手がギュッと握る

そしてニコッと笑った

旦那様はいつも、あたしのために一生懸命して下さっています

自信を持って下さいそれに