これほどのご不興は見たことが無いらしい
私の死んだ後のことなど知ったことか生きている連中で、殺し合い、壊しあればいい
それが閣下の本音なのか
判りましたわ、わたくしっ
突然瑠璃子さんが、口を開いた
つまりお祖父様は、わたくしたちに試練をお与えになろうとしているのですねっ香月の家の苦境をわたくしたちの手で救えと
ある意味そうなんだろうけれど
この老人の行動は、もっと投げやりな感じがする
あたしは、嫌ですそんな試練なんか欲しくはありません
お祖父様のなさっていることは次の世代の苦労を増やすだけですあたしはそんな意味の無い苦労なんてしたくありませんお祖父様が壊していった人間関係や信頼関係を修復するためにあたしの大切な人生の時間を消耗したくはありません
あたし幸せになりたいですから旦那様と幸せな時間をたくさんたくさん過ごしたいんですそんな下らないことに時間を消耗するのは嫌です
みすずと閣下が睨み合う
それならお前は、香月の家から出て行って貰う
即答するみすずに瑠璃子さんは
みすずお姉様何てことを
みすずは、瑠璃子さんに振り返り
いいのよとっくに覚悟はできていたから
そう言いながらみすずの身体は震えている
オレは、みすずの手をギュッと握りしめた
みすずも、強く握り返してくれる
香月の家は香月グループは、私の物だ私がここまで育て、大きくしてきた物だ私の物である以上引っ繰り返そうが、打ち壊そうが全て私の自由のはずだ
閣下の冷たい眼がみすずを見下ろしている
しかしお前は私の意志の外に居る許しがたいぞみすず
みすずの震えが止まる
ですから香月の家からは出て行きますどうぞ、お祖父様は御自分の小さな世界の中で一人遊びをお続け下さい
みすずは平然と言葉を返した
香月の家を出てどうするどうやって生活する学校だって、続けさせんぞ
祖父の言葉にみすずは
しばらくは黒森御名穂様にお縋りします
閣下は、クククと笑った
娼館の経営者ごときに御名穂くんに圧力を掛けて、黒い森という組織そのものが立ち行かないようにさせるのは簡単だぞ私の力なら
みすずのことでミナホ姉さんや黒い森に迷惑が掛かるのは
心配になったオレの耳にに渚がそっと囁く
大丈夫だから平気な顔をしていて
男でしょあたしたちを信用して
渚が、ニコッと微笑む
うん判った
オレも腹を決める
お祖父様ともあろうお方が何も判っていらっしゃらないのですね
みすずは祖父に、そう言った
どういうことかね
黒森御名穂という方の強かさと逞しさをですわ
ミナホ姉さんの
あたしは、ここ数日黒森さん達と行動を共にして判りましたわお祖父様が、全ての力をお使いになったとしても黒森さんたちは絶対に潰されませんあんまりお暴れになられるようなら、しばらく国外へ逃げるだけですおそらく、黒森さんは海外にお祖父様には発見できない資金を何カ所もプールしているはずです
うんミナホ姉さんなら、それくらいはやっているだろう
その前に国家権力を動かして、御名穂くんたちを逮捕させるよ国外へは逃がさない
閣下が手持ちのカードを切る
お祖父様が、警察関係者を動かした時点であたしたちは行動を起こします今回の白坂家の事件を観ていらしたというのに、お判りにならないようですね黒森さんの判断力と実行力の素晴らしさを
うんミナホ姉さんなら
ネットで世論を動かす
マスコミも操作する
ゴタゴタしているうちにささっと、オレたち全員を海外逃亡させてくれるだろう
ならば、裏の力も使うよお前たちがどこへ逃げようと香月セキュリティ・サービスの人間に追わせる
閣下は次のカードを切る
お祖父様こちらには、マルゴさんもいらっしゃいますし美智もいますどんな方がいらしても、撃退致しますわ
みすずはそう言うが関さんや藤宮さんクラスの人が何人も追ってくるとしたら
それどころか、工藤父とかまで駆り出されたらこちらには勝ち目が無い
うふふふそう言えば、みすずは知らなかったのよね
渚がニコッと微笑む
香月様、お忘れですか恭子さんは、あたしたちの仲間ですよ
閣下に笑いかける渚
恭子は私が派遣した女だ君たちの味方になるとは
慌てて閣下がそう言うが
恭子さんは、あたしたちの仲間ですね、真緒
うん真緒、恭子ちゃん、大好きっ
真緒ちゃんも、恭子さんの名前を聞いて嬉しそうに叫んだ
恭子さんとは、まさか
藤宮さんがハッとして呟く
はい恭子・メッサーと言えば、お二人はお判りですね
渚の笑顔に藤宮さんと関さんは愕然とする
ブラジルの裏組織の大幹部ですよね
いえ、彼女に協力する裏組織は全世界にあるわ
海外では香月セキュリティ・サービスの力だけでは対抗できないわ
二人のトップ・エリートが、名前を聞いただけでこれだけ反応するんだから
恭子さんという人は、本当に凄い人なんだ
ま、実際には恭子さんに協力していただく必要は無いでしょうけれどね御名穂さんも海外逃亡なんてしなくても済むわよっ
渚がニコニコしてオレたちを見る
あなたもみすずもあたしの家に来なさいっ
うちのお店には、空いてる部屋があるから二人とも、そこで寝起きして学校に行きなさいお店の手伝いはしてねそれから、みすずは家事もね一通りのことは、あたしが全部仕込んであげるから
閣下は、物凄い権力を持っているわけで
それこそ黒い森を瞬殺して、ミナホ姉さんが海外逃亡を考えなくてはいけないような力を
渚の花屋さんなんて、それこそあっという間に
香月様まさか、あたしのお花屋さんを潰そうとしたり、なさらないですわよね
しないですよねっいひひひっ
渚の言葉に真緒ちゃんが被せる
あたしさっきの劇場でも、よーく判ったんですけれど昔のファンの方たちにとっても愛されているみたいですよもし、閣下があたしのお店を潰そうなんてなさったら皆さん、何ておっしゃることか
黒い森は、非合法の犯罪組織だから
閣下が圧力を掛ければ国内での活動は維持できない
それこそ、海外に逃げ出さなくてはならなくなる
今の渚は娼婦をとっくに引退した、ただのお花屋さんだ
一般人となって、小さな娘を抱えて頑張っている渚に不当な圧力を掛ければ
渚の昔の顧客たちが黙っていない
みんな閣下ほどの権力者ではないだろうが
政財界では、そこそこの力を持つ人たちだ
集団になれば閣下でも無視することはできなくなる
それに、あたしって口の軽い女ですからね香月様がみすずに酷い仕打ちをなさって、家から追い出されたって、みなさんに告げ口しちゃうかもしれませんよっ