651.オッペケペー
メグちゃんや雪乃っちのことだと、客観的になれるんだね
寧がマナに言った
つまり雪乃っちに対するわだかまりは無くなっているけれどマナちゃんは、マナちゃん自身のアイデンティティに苦しんでいるんだ
寧の指摘に、マナはギョッとする
うん、まあしょうがないか人って、他人に自分がどう認知されているかを受け入れることで心の平穏を得るものだもんね
あたしもさ普段は、奈島寧《ナトウ・ネイ》っていう人格キャラクターを演じているレイちゃんも、シザーリオ・ヴァイオラの事件の詳細は、もう知ってるからあたしが本当は奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》だってことは知っているよね
奈島寧は、ヴァイオラの追跡から逃げるために使い始めた名前だった
漢字の読みを変えて、子を取れば英語の資料では、完全に別人になる
日系ブラジル人の恭子さんが、寧子《ヤスコ》が読めなくて、ネイと音読みしたことから始まったことだけど
しかし寧が高校へ入学し、白坂創介の息の掛かった教師に襲われ
マルゴさんと、武道場を放火してハレンチ教師を撃退した時から
寧は奈島寧《ナトウ・ネイ》という別人格を演じるようになった
本当のあたしは、今のこの寧ちゃんとは、ほんのちょっと違う人格なんだよね
奈島寧《ナトウ・ネイ》は明るくて、朗らかで、鷹揚ででも、敵には容赦しない心の強い少女だ
でも本当の奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》は、内気で大人しい
彼女は、辛いゲンジツを跳ね返すためには強い少女に変身するしかなかったのだ
でもあたしが、寧ちゃんでいられるのはさ、あたし1人の力じゃないんだよあたしの周りの人たち特に、あたしの過去を知らないこの学校の中の人たちはさ、みんなあたしが奈島寧という人間だと信じてくれているでしょだから、あたしは校内では、気持ち良く寧ちゃんでいられる
そこまで言ってふと考え直す、寧
ああ、そうじゃないな違うかみんなが、そう信じてくれているとあたしが信じているんだつまり、あたしの内側での認識だけの問題ここではみんなが、あたしを寧ちゃんだと信じてくれているはずだから、あたしは迷うことなく奈島寧になり切れてるんだよね
ごめん、オレには良く判らない
まあ、そうだねヨッちゃんは、どこへ行ってもヨッちゃんのままだもんねそれが、ヨッちゃんの凄さなんだけど
わたくしはよく判ります
わたくしも、今はテレビの中での藤宮麗華もやっていますから
恭子さんやアーニャという国際犯罪者集団と闘う、バトルヒーローを演じている
ですから、さっきのテニス部の子たちの前でのようにあの子たちの持って下さっているイメージを壊さないように、注意して行動しています
普段はオチャメなところも多いレイちゃんが格好いい男装の麗人を演じきっていた
まあ、あたしたちの場合は家に帰れば服を脱いで、ヨッちゃんの前に立てば、素の自分に戻れるからこそ外では幾らでも演技できるんだけどね
ああ、そう言えば今、ここにいる寧とレイちゃんは
オレと2人きりで、他の女を交えないセックスを好む
まあ、毎回では無いけれど
二人っきりになると寧とは、ケイちゃんVSお姉ちゃんのイチャイチャセックスになるし
レイちゃんは、オレにお兄ちゃまと甘えまくるセックスになる
その濃密な時間、濃密なセックスで外での演技の人格と本来の性格が、バランスを保つのだと思う
ああ、マナには今外が無いものな
オレは、マナを見て言う
5月以降、マナは基本的にはお屋敷の中から出ない
マナを受け入れてくれる学校が、まだ決まらないから
だからマナには内の生活しかない
そうじゃないよ、ヨッちゃんマナちゃんにもあるんだよ外が
白坂舞夏ちゃん時代の過去がね
寧は、優しい笑顔でマナを見る
今のマナちゃんはもう白坂舞夏ちゃんじゃないよねこの4ヶ月の生活でマナちゃんは、マナちゃんとして生きていく道を手に入れたっていうかもう二度と、白坂舞夏には戻れないううん戻ることは許されない
マナは実父の処刑に荷担したのだから
でも、もし今マナちゃんが昔のううん白坂舞夏ちゃんの知り合いと出会ったら、どうなるかな白坂舞夏ちゃんの親戚や、幼馴染みや、前の学校の友達そういう人たちに、例えば道でバッタリ出会ってしまったら
寧はわざとマナの実母と祖父の名を出さないでくれた
舞夏を見捨て、マナ自身も投げ捨てたあの人たち家族の名前を出されるのは、きっと辛いだろうから
みんなまだ、あたしのことを舞夏さんだと思ってますよねやっぱり
マナが、悲しそうに微笑む
そして、あたしはきっとあの人たちに会ったら、舞夏さんのフリをすると思います人違いですあたしは吉田マナですあなたの知っている白坂舞夏さんとは別人ですとは言えないよ
それがマナのアイデンティティの問題
寧やレイちゃんは世間は自分のことを、こう思っているという確信があるから、平然と外で別人格を演じられるけれど
マナの場合は外に出れば、過去の自分、自分が捨てた白坂舞夏のままだと思っている人がたくさんいる
だからあたし、怖いの舞夏さんの昔の知り合いに会ってしまったらあたし、もしかして舞夏さんになり切ったまま変われなくなってしまうんじゃないかって吉田マナに、戻れなくなっちゃったら、どうしようって
だからマナはお屋敷の外に出ることを、怖がっているのか
そもそも吉田マナという人格自体5月連休の時に、白坂舞夏という少女がオレに無理矢理レイプされ処女を失い、父が社会的に抹殺され、祖父と実母に見捨てられ、あげくにミナホ姉さんに殺されるか、オレの性奴隷になるかの選択をさせられそういう苦況を乗り越えるために、急遽作り出したものだ
外へ出ればこれまで生まれてきてから14年間慣れ親しんだ白坂舞夏の人格が蘇るかもしれない
特に舞夏時代の知り合いと出会ってしまったら
雪乃さんはもうあたしが舞夏さんじゃないってこと、判ってくれているから
だから雪乃とは、打ち解けられる
でも、それは同時にもはや姉妹ではないという、決別宣言にも繋がる
だから、マナちゃんは早く、新しい学校へ通うべきなんだよそこで、マナちゃんのことをマナちゃんだって信じてくれている友達をいっぱい作るべきなんだよそうしたら今の怖さは消えるから
でもどこで誰に会うか判らないじゃないですか
そうだ世間は狭い
しかも、マナをセキュリティ意識の高い学校へ入れようとすれば名家の繋がりで、白坂家のことを知っている人に出会う可能性が増す
かといって、その辺の公立中学へ通わせるわけにもいかないし
白坂創介についての情報は、インターネット上にまだたくさん残っている