えオレと克子姉の話
仕事についての話だプロは失敗してはいけないという
ああもしかして、パンのことか
オレが、勝手に焼き方を変更して克子姉に叱られた
あの会話をミナホ姉さんが盗聴していて、ジッちゃんに話した
ああお客さんにはいつも、同じ品質で同じものを提供しないといけないから失敗したものを売るのは、お客さんの信頼を損ねるだろだからオレは、失敗するわけにはいかないんだ
うむ業務としての商品管理という意味においては、その通りだ私たちは、どんなものであろうとダメな物を販売してはいけないそれは、そうなんだが
すでにオレたちは階段を下りきって、中庭に下りている
だが、職業として仕事をするということと業務として失敗をしてはいけないということについては、これはなかなか難しい問題でな
降りて来たオレとジッちゃんに各名家のお嬢様たちも警護役の少女たちも、注目している
中には席を立ってジッちゃんに挨拶しに来ようととている子もいる
職業と仕事ということについて私は最近よく考えるのだよ
ジッちゃんは、そんな少女たちを全て無視して空いているガーデンテーブルの椅子に座った
まあ、黒森くんも座り給え
オレも少女たちの視線を浴びたまま、椅子に座る
みすずは、ジッちゃんの横に立ったままだ
ススッとごく自然に、瑠璃子だけが笑顔でやって来る
お祖父様と黒森様は大事なお話の途中ですから
はいでは、いつものように
瑠璃子は笑顔で、答えた
ええ、いつものようにお願いするわ瑠璃子
公の場だから瑠璃子はみすずをお姉様と呼んだ
中庭の少女たちは、オレたちに注目したままだ
みんな黙ってこっちを伺っている
さて黒森くん君はこの世には絶対に失敗してはいけない仕事というものが、あると思うかね
それはあると思うよ
例えば、シザーリオ・ヴァイオラとの闘いみたいな
失敗したら、みんなが死んでしまうみたいな負けられないこともある
その通りだそういう類いのことは確かにある特に、人の生死を直接扱う職業医師や、救急隊員、消防士、警察官、それと軍人などの場合に
だが、ここではそういった特殊な職業に関しては脇に置いておく一般論として、普通の職業について考えてみよう
ジッちゃんは、オレの眼だけを見て話し始める
例えば職業としてやっている仕事においては、これは絶対に失敗できない、これを失敗したら、クビにされてしまうというようなものは、どれだけあるのだろうか
まあ無いわけではない会社の運命を決めるような、大きなプロジェクトというのはあるからなだがそれは本当に失敗してはいけないものなのか失敗したら、クビになってしまうものなのか
結論を先に言うとどんな仕事だろうと、それが職業として成立しているものならばある程度までの失敗は許されるまあ、降格されたり、出世が止まることはあるかもしれないがなかなかクビになるところまではいかないよましてや、死んでお詫びしないといけないようなコトには、そうは陥らない
失敗が許される
簡単にクビにはならない
企業の正社員だったら、まあそうだよほどの大きな損失を出さない限り失敗した社員がクビになることはない
えっと、よほどの大きな損失てどれくらいのこと
それは会社の屋台骨に関わるかどうかにような深刻な場合のみだ普通の会社ならな大きな会社なら、数億の損失を出したってクビにならないケースもある逆に、小さな会社なら、100万円単位でも経営が傾く失敗した本人が、腹を切って辞めなくてはならなくなることもあるまた金額の問題ではない場合もある会社と会社、人と人の信頼を壊した場合などは、懲戒解雇しなくてはいけないこともある
だが、よほどのことでない限り企業は正社員を解雇しない労働組合もうるさいし、法も労働者を守るしな
何よりその程度のミスやトラブルは、日常的に起きているからだ社員のミスやトラブルで誰かの何らかの失敗で会社に不利益が出るそういうことは、よくある実に良くあるそんなことで社員を一々クビにしていたらそれこそ働いてくれる人材がいなくなってしまう
ミスして、頭を下げてそういう失敗体験を重ねて、社員は成長するものだしな失敗を恐れていたら、創造的な仕事は、何もできなくなるよ
私は職業として行っている仕事には、失敗は付きものだと思っているというより、いつも成功するとは限らないものなんだと思うだから、私は部下に成功するように頑張れとは言うが失敗するなとは言わないそういう言葉は、部下を萎縮させるだけだそうなったらどんなものも冒険のない創造性に欠けた仕事になってしまう
人はいつかどこかで失敗する一度も失敗しない人間なんていないんだそれは判るよな
だからこそなるべく失敗しないように、できる限り努力するそれでも失敗したら、苦笑いするしかないがそういうこともあるということは、頭の中に置いておかなければならない
そっか絶対に成功する失敗はできないっていう人だと、失敗した後のことまでは考えていないんだ
そういうことだ成功至上主義の人間は常に背水の陣だからな心にも、余裕が持てない
最初から失敗の可能性も考えていたら心がカツカツにはならないのか
覚えておけそれがどんな物でも、職業として成立しているものならば、多少の失敗は許されるんだ逆に、1度の失敗でダメになるものは仕事であっても職業ではない
ジッちゃんは、真顔でそう言った
例えばF1レースのレーサーがいるとするだろ職業としてレーサーとして認められている人間なら、1年ぐらい成績がパッとしていなくても翌年もレーサーでいられるすでに、レーサーとしての実績を上げ、能力が認められているからだ
ああ、1回でもチャンピオンになったことのある人は
成績の悪い年があっても、車の性能が悪かったのかなとか思われて次の年も、F1に出られる
1年だけレースには出たが、翌年にはどこのチームとも契約できなかったとしたらその人間は、F1レーサーだったとは言えても、職業としてF1レーサーをやっていたとは言えないと私は思う
職業として
1度きりでダメになるあるいは1年だけしか続けられなかった失敗は許されないそういう、厳しい仕事は職業ではないんだよ多少の失敗をしても、ずっと続けていかれるものこそが職業なんだ
克子くんの話は正しいだが、足りていない例えばパン屋を例にして話すと
パン屋はオレの仕事だ
昨日は、いつも通りパンが焼けて客に売れたしかし、今日は何らかのトラブルで例えば、いつも使っている高級な素材が手に入らなかった下働きの人数が確保できなかったまあ、色々あるそれで、いつもとは違うパンしか作れなかった