孫娘の客にどう対するかは、ジッちゃんの勝手なんだから
だから、ジッちゃんの方からお嬢様たちに皆さん、今日はよく来て下さいましたと挨拶しないのなら
令嬢たちも、わざわざ出向いて挨拶するべきではないんだ
失礼でないように、軽く会釈するとかだけにしておいてオレたちが話をしているテーブルに割り込むなんて、やってはいけないことなんだ
君は私がどんな立場の人間なのか、判っていないようだね
そしてジッちゃんは、力を持ちすぎている人間だ
軽々しく人に頭を下げたり、ジッちゃんの方から親しげに話したりすることは許されない
今日集まってもらったのはみすずたちの学校に在籍していて、自分の専任警護人を連れてきている令嬢だけだ
今、ここにいる令嬢とだけ、ジッちゃんが親しく会話したなんてことになったら他の名家の人間はどう思うだろう
そういう勘違いも、避けないといけない
私は、わざわざ君たちの前に姿を現したそれだけで、君たちに対する礼は果たしていると思っているよ
ジッちゃんは、まり子さんを見る
今日、家に帰った後でみすずと瑠璃子が主宰したパーティに、私が姿を見せたことをお祖父さんに伝えてみなさい鳥居くんは、それだけで驚くだろう
香月グループの経営は、もう司馬さんに任せているけれどジッちゃんは多忙な人だ
忙しいのに、わざわざ孫娘たちの様子を見にやって来た
それがこのお嬢様たちの祖父や親たちに伝われば、それがジッちゃんは、孫たちを本当に大切に愛しているというメッセージになる
だからお嬢様たちの前に、ジッちゃんが姿を見せたことで、何もかもが完了しているわけで
この上、お嬢様たちの方からジッちゃんに改めて挨拶とかするべきじゃないんだ
場の空気を読まずに、この鳥居まり子さんという人はジッちゃんの前にしゃしゃり出てしまった
君が私に声を掛けたなんてことを知ったら鳥居くんは困惑するだろう君は酷く叱られることになるだろういや、彼なら慌てて、私に詫びの電話をかけてくるだろうなそっちの方が、私には面倒だな彼は確か、心臓が弱かったはずだあまり、お祖父さんに心配をかけるべきではないな
言葉は優しいがジッちゃんの態度は、冷たかった
まり子さんは、慌てて頭を下げ元の席へ戻ろうとする
いや、ちょっと待ちたまえ
ジッちゃんは、そんな彼女を呼び止めた
は、はいわ、わ、わ、わたくしでございますか
他に誰がいるんだねそれと
ジッちゃんは、まり子さんに注意した令嬢を見た
この娘に声を掛けた君そう君だよ
さっきのワインレッドのドレスの人
大人っぽいお嬢さんは、スッと席を立ち
わたくしに、御用でございますか
うむ、私はそろそろ退席しなくてはならん君たち、申し訳ないがこちらの席へ来て黒森くんの相手をしてくれないか
お、お祖父様
構わんだろう黒森くんに、上流階級の女というものがどういうものなのか示すためのサンプルとしてはこの娘たちは適任だと思うが
わたくしでよろしければ
ワインレッドのドレスの子が、深々と頭を下げる
名前を聞いておこうか
狩野桜子でございます
赤いドレスの令嬢は、そう名乗った
ああ、狩野くんの娘さんか確かにお母さんの面影がある
うむでは、よろしく頼む鳥居くんのところの娘さんもいいね
は、はいぃぃぃ
まり子さんが、頭を下げる
さて、では私は行くよみすず皆さんと楽しくやってくれたまえ黒森くんもな
ジッちゃんが、大徳さんたちを連れて退席しようとすると
お、お待ち下さいっ
瑠璃子たちのテーブルの一番、端に座っていた白いドレスの女の子が立ち上がる
ありす、お止しなさい
横に座っていた同じ白いドレスを着た姉らしき少女が、中学生ぐらいの女の子を止めるが
でもお姉様っ
ありすと呼ばれた少女は、ジッちゃんに向かって叫ぶ
は、はじめましてっわ、わたし鞍馬ありすと言いますっ
たった今、ジッちゃんに直接挨拶するのは禁止だと話があったばかりなのに
それでこっちが、姉の鞍馬美里ですっ
お姉さんの方が、慌てて妹の口を押さえる
た、大変失礼を致しました申し訳ございません閣下皆様も
ジッちゃんと周りのお嬢様たちに、ペコペコと頭を下げる
あの座り位置から判断するとこの姉妹は、香月グループと関係のある家の子ででも、他の子よりも弱い立場なんだろうと思った
ああ君たちか鞍馬くんから、話は聞いているよ
ジッちゃんは、姉妹に言う
ちょっとこっちを向いてくれたまえ妹さんもだ
は、はいありす、閣下にお顔を見せて
あ、はいお姉様
姉妹は真剣な表情で、ジッちゃんを見る
ジッちゃんは少し考えて
ふんもういい
少し不機嫌そうに言った
済まないが私は、君たちの力になってはやれんよ
かっ閣下
姉妹の顔色が青くなる
こういう場合私の答えはノーと決まっている申し訳ないがね
ジッちゃんは、そう言ってからオレを見て
だから、悪いが黒森くんとみすずで、あの姉妹の話を聞いてやってくれ
とりあえず聞いてやるだけでいい何かしてやれとは言わんお前たちの判断に任せる
いや、任せるとか言われてもさ
鞍馬くんには、私の方から話しておくまったく、彼にも困ったものだよ私は慈善活動家でないのだからね私が興味があるのは、実直なビジネスだけだ
ビジネス
だからあの姉妹の話が、ビジネスになると思うのなら助けてやりたまえそうでないのなら、追い返せ
鞍馬姉妹が、ブルルッと震え上がる
私なら今すぐ追い返すこれはそういう事案だしかし、黒森くんのビジネスの勉強の教材になるのならあの少女たちを助けてやるのも構わないと思う
判りました鞍馬さんたちをどう扱うかは、旦那様と相談して後ほど、お祖父様にご報告致しますわ
オレが返答する前に、みすずがそう言った
いや、報告もいらんよお前たちで全て処理しろこんなことまで一々、結果を知りたくはない
そして、改めて姉妹を見て
鞍馬くんの長きにわたる忠誠には感謝しているしかし、これは彼の自業自得だ私は、君たちの一族に何かしてやるつもりはない
お、お姉様美里お姉様
突然泣きだした姉を、妹が抱き締める
そういうことだでは、失礼するよ
ジッちゃんは、大黒さんたちを連れて屋敷の中へ入って行く
オレやみすずそれに今まで椅子に座っていたお嬢様たちも全員起立して
立ち去るジッちゃんに一礼した
ただ、鞍馬姉妹だけは芝生にへたり込んだまま、抱き合って泣いていた
ジッちゃんの姿が完全に消えると