みすずは、たくさんのお嬢様、警護役の少女たち、メイドの格好をしている香月セキュリティ・サービスの女性警護員たちの前で
深々とオレに頭を下げる
判ればいいんだ二度とこんなことはするなそれと
こんなことぐらいで、お前を嫌いにはならないから安心しろ
はい、旦那様ありがとうございます
オレたちの変なやり取りに会場の女の子たちの緊張が少しだけほぐれる
香月の家のことですのでどうか皆様、お気になさらないで下さいませ
みすずに代わって瑠璃子が少女たちに笑顔で言う
香月の家は由緒正しき貴族の家柄でございますが、現在は様々な企業を経営することで糊口を凌いでおります
経営と申しましても商業であることに変わりはございません商業ならばお客様に失礼がないようにするのが第一でございます
15歳の少女が、にこやかにスピーチを続けていく
香月の企業グループには、たくさんの方たちに働いていただいておりますその方たちは、勤務時間の間は香月グループが雇用者ですが勤務時間が過ぎれば、その方たちも香月グループの製品やサービスを購入して下さる大切なお客様ですお祖父様が、いつもわたくしたちにおっしゃっていますわ香月グループで働いて下さる方たちこそが、率先して香月グループの製品のカスタマーになって下さるようでないといけないと
ジッちゃんの会社で働いている人が他の会社の製品の方が、出来が良くてサービスもいいからそっちを買おうなんてしていたら
香月グループには、未来はない
世の中には強制的に自社製品の購入を強いる企業もあるのだそうですが、香月グループにはそういうルールはございません強制購入では、雇用者の皆様から製品やサービスに対する不満や要望は聞こえて参りませんから
ヘンリー・フォードの思想ですわね
ああ、空気を読むということを知らない鳥居さんが、ニコニコして話に割り込む
かつては、自動車と言えばお金持ちだけの贅沢品でしたわヘンリー・フォードは、自分の自動車会社の工場労働者の給料を上げ、安く造れるT型フォード自動車を大量生産することで、自社の工員が自動車を買えるようにしましたわまず自社の人間が買わなければ、自動車が大衆に普及することはないという考えで
雇用者だから、使用人だからという考えは、今の時代には合っておりませんわわたくしどもは警護役の皆様にも、香月グループの製品をお求めいただきたいですし
ええ、ですから本日は、警護役の皆様も賓客としておもてなしさせていただきますわ
瑠璃子の言葉をみすずが引き取る
どうぞ、警護の皆様もご自身のご判断で、お楽しみ下さいませ
自分の判断
というか自分の主の許してくれる範囲内でということか
みすずは、あくまでもお嬢様たちと警護役を同等に扱ったのではなく
警護役たちにも、任務の範囲の中でできる限り楽しんで欲しいと思っているのだとそういうメッセージを送っている
それはお嬢様と警護役の関係が、それぞれバラバラだからだ
警護役が、お嬢様の友達感覚のご学友の家もあれば
完全に、警護専門の臣下の使用人という家もある
ただ、こういう色々なお嬢様たちが集まった会合だと
ついつい、一番厳しい家のルールに全ての警護役が適応させられる
昔ながらの何から何まで、主従関係を明確にハッキリとさせる方式に
さっきの警護役には乾杯のグラスが配られないなんていうのもまさしくそうだ
あんなのお嬢様と警護役の関係が和やかな家の子だけの小さな集まりなら、みんなで乾杯するのが普通だろうし
香月みすずが、お願い申し上げますわ
わたくしからも、お願い致します
みすずと瑠璃子が頭を下げる
こういう時に、美子さんが前に出ないのは
長いこと、瑠璃子のお付きとして生活してきたからだ
こういう場で、香月家の代表のような発言をすると反感を持たれることもある
だから、みすずと瑠璃子に任せて美子さん自身は、目立たないように控えている
みすず様たちが、そうおっしゃって下さるのですから
さあ、改めて乾杯致しましょう
自分の警護役と親しい間柄のお嬢様たちから改めて、警護の子たちとグラスを合わせる
中庭全体が、和やかな雰囲気に包まれそうになったが
狩野さんは、まだ納得できていないようだ
何か、上手く誤魔化されていらっしゃるようですが普通の傘下企業の雇用者たちと、警護役は違いますわ
強く、みすずに言う
警護役は親子代々、その家に仕えている生まれながらの臣下ですわ使用人です決して、私たちと同等の立場にしてはいけない存在ですわ
そう主が発言する後ろでシエさんは、無言で立っている
狩野様のお家はそうなのでございましょうけれど今時、そんな封建的なことをやっている家ばかりではございませんわよ
鳥居さんがニヤッと笑う
うちのハイジなんてちゃんと、わたくしのお父様と雇用契約しておりますし時間外労働の賃金とか、何もかも事前に取り決めています
自分の後ろのアーデルハイトさんを見る
はい、わたくしは全て契約に従って、まり子お嬢様の警護役を勤めております
黒髪ハーフの13歳警護役アーデルハイトさんは、ムスッとして答えた
鳥居の家は、現代的でございますから狩野様のお家とは違ってもう21世紀でございますよ前世紀どころか、19世紀以前の身分階級制度で警護役の方をお縛りになるなど、時代錯誤も甚だしいと思いますわ
鳥居さんが、狩野さんを攻撃する
それはだって、あなたの家には代々仕えるような家臣など、1人もいないからでしょ
狩野さんも、ムッとして反撃する
狩野様こそわずかに残った昔ながらの家臣の方たちだけしか、周りにいらっしゃらないからそんな時代遅れな思想に囚われていらっしゃるんですわ
クスッと鳥居さんは、嘲笑を浮かべる
ああ、そういえば狩野様のお家は、企業の経営などなさっていらっしゃらないませんものねだからみすず様のおっしゃるような経営者としての思考はご理解できないのですわ
狩野家は名家だけれど、会社とかは経営していないんだ
じゃあ何で、今時、警護役の子なんて雇っていられるんだ
もしかして、シエさんは親子代々仕えている一族の子だからってお金とかは払ってもらっていない
そんなことあるのか
美智だって毎月、ジッちゃんが銀行にみすずの警護料を振り込んでいるのに
鳥居の家の人間が狩野の家を愚弄なさるおつもり
ギッと、狩野さんが鳥居さんを睨む
狩野さんの後ろのシエさんも怖い顔をしている
鳥居の家は多くの企業を抱えておりますから雇用者への責任があるんですわ過去の栄光だけが自慢のブラック名家とは違いますから