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それが家を受け継ぐ者の責任だ私はただ古い血を受け継いだのではない財産だけでもない先祖たちが代々に渡って積み重ねてきた名誉も香月の家や、企業に人生を懸けてくれた多くの人たちの思いをも受け継いでいる今年の入社試験の面接でも、先祖が香月家に仕えていましたという学生が居たよ

お祖父様は、その方に何てお答えになられましたの

みすずが問う

私は知っている君の6代前の先祖には、京都の香月家でよく仕えてもらったありがたいと思っていると答えたよ私が最終面接で会う学生たちの中にそういう経歴の人間がいれば、秘書科の人間が事前に調べておいてくれることになっている私と会話する時に、彼らは当然そういう話をするだろうから私はそれを知っていて、彼の先祖の忠孝に感謝するのだその結果彼もまた香月家に忠誠を誓ってくれるいや、もし入社試験に落とされたとしても香月家とその企業に悪い印象を持たないでいてくれる

ジッちゃんはそこまで、やっているんだ

いや、長い伝統を持つ名家の当主なら、しなくてはいけない配慮なんだな

自分の先祖のことを知っていてくれて、その忠孝を感謝されたらみんな、ジッちゃんのことを嫌いにはなれない

それで入社できなかったとしてもジッちゃんのせいではないと、思ってくれる

大きな企業の最終面接に残るような学生はね学歴も才能もあるに決まっているんだよしかしながら、どうしたって全員を採用するわけにはいかない数人だけを採り、後の学生たちには縁が無かったと告げなくてはいけないしかしだその学生たちは、いずれどこかに就職するそれは香月家の企業のライバル会社かもしれないし全然別の業種かもしれないそして入社して20年も経てば、みんなベテラン社員になるのだよそうなった時に昔、香月の会社を受けたがあそこの入社試験では恥をかかせられたなあなどと悪い印象が残っているより、入社試験には落ちたが、香月は毅然とした会社だったと良いイメージがある方が良いとは思わないかね

入社試験では学生と私たちでは、企業側の方が立場が強いのかもしれないしかし、入社試験の終わった後でもその関係が続くわけではない今は学生だって、いずれは偉くなるかもしれないいや、そもそも学生であっても、香月の企業の製品を買って下さるお客様なのかもしれないのだ入社試験で彼らが一生、香月に悪い思いを抱くようなことをしてはいけないのだよ学生にだって、家族がいる仲間も居る友人知人は、生きている限りどんどん増えるそういう人たちに、彼は告げるかもしれん昔、入社試験を受けて、香月家の当主に会ったことがあるその後に、どんな言葉が続くのか私は、それがとても恐ろしいのだよ

でも、お祖父様はいつも怖い顔をなさっていますわ

みすずが、ニコッと笑って凍り付いている空気をほぐそうとする

それはそうだ私は別に学生たちを甘やかそうというのではない媚を売るような真似も、親しげに笑うようことも一切しない彼らに好かれたいのではないからな私は香月家の当主は、謹厳で、真面目で、実直で何より、公平な人物だと思って欲しいだけだそれが一番大切なのだ

公平な人間

公平な人間でなくては信頼されることはない私は、そう信じているよ

人に好かれようとして、アレコレ立ち振る舞う人は好かれないし、信頼されないな

誰かに好かれるためには、ルール違反なことでも平気でやりそうだから

そういうのは関係無くいつでも、誰にでも、どんなことにでも

その人の同じ基準で、公平に対処できる人はとりあえずは信頼できる

人によって、場合によって、時によってブレる人は信じられないし、付き合いにくい

これは人間だけでなく、企業もそうだろう

香月閣下は、そこまで考えられて日々の言動を気を付けられているのですか

歌晏さんが尋ねる

当たり前だろう私は香月家の当主だぞ

ジッちゃんのククッという笑い声が、スピーカーから聞こえた

歌晏くん名家とは何かね

今度は、ジッちゃんが尋ねた

あのどういう意味でのお尋ねですか

名家はなぜ、名家になったのかということだよ

そ、それはあの家の初代の先祖が、大きな功績を遂げたからだと

全ての名家は一番最初のご先祖様が、何か大きなことをしたんだ

それで高い位をもらったり、財産を築いたり、一国一城の主になったり

そうだ全ての名家は最初の当主が成功したから存在するその最初の人物にだけ成功体験がある

しかし、その後を継いだ歴代の当主たちもそれぞれの時代で、家を守り続けたからこそ今のわたくしたちが存在するわけで

歌晏さんが、慌ててそう言うが

それでも、最初の人間が一番重要なのだよなぜなら彼だけが、庶民の出だからだ

うん名家を興した最初の当主は、一般人だよな

2代目からは、もうある程度大きくなった家を継いだわけだから

だから、家を創った人間の成功のストーリーだけは英雄的に語り継がれることが多い2代目以降の物語は、埋もれてしまうのが普通だ没落しかけた家を建て直したという中興の祖の物語は残っても初代の栄光には代わらない

それは、初代の物語だけが真の成功体験だからだただの庶民がのし上がって行くという

ああ草履取りから、天下を取ったみたいな

君たちの家でも、初代の先祖だけは特別に厚く祀っていたりするのではないか

それはおっしゃる通りでございますわ

歌晏さんが、答える

では今の私たちは何なのだろう初代の先祖が果たした英雄的な業績にただ安穏と寄り掛かっているだけなのではないかいや、もちろん大きくなった家を守り続けるということは大変なことだ先ほど話した通り、そんなことは香月家の現当主である、この私が一番良く知っているしかし守っているだけの私たちは、何か価値のある存在なのだろうか私たち自身には、何の業績も成功体験も無いのに

ジッちゃんの言葉が響いていく

君たちはもう、鞍馬家に何が起こったか知っているだろう

鞍馬家

鞍馬美里さんとありすさん姉妹の家

あの2人の可愛いお嬢様たちを娼婦に堕とすしかなくなった原因て、何なんだ

鞍馬家は先祖代々受け継いだ鞍馬閣を中心とした、結婚式場とホテルの経営を行っていた

あ、鞍馬閣グループなら聞いたことがあるすごい、豪華な旅館とか結婚式場をたくさん持っているホテル・グループだ

あそこが鞍馬さんの家がやっていたんだ

鞍馬閣は元々は、明治期に建てられた鞍馬家の邸宅と日本庭園だそれを昭和の初期に、高級料亭にし名家の結婚式の披露宴場として利用するようになった政財界の人間たちの会合も多く開かれた私の世代では、あそこで結婚披露宴を行った人間がたくさんいるあの建物と庭は、鞍馬家だけのものではない私たち名家の人間にとっても、大切な思い出がたくさんある場所だったのだ