ああ権力者たちの夜の裏の世界の社交場が、黒森家の黒森楼なら
鞍馬閣は、昼間の表の世界の社交場だったんだな
だが、今の鞍馬家の当主はまだ40代の若造だよ海外資本の何だか判らない投資グループに乗せられてあの鞍馬閣の昔の建物も風雅な日本庭園も、全て潰してしまった現代式の高層ホテルに建て替えると言って
え多分、鞍馬さんたちのお父さんだと思うけれど
全部、壊しちゃったんだ
私は止めたんだよ何度も鞍馬閣を残すように、彼に言ったそんなことをするべきではないと外国資本に乗せられているだけだその海外の投資グループの内情が怪しいことも、私たちには判っていたそんなヤツラの甘い話に乗っても、良いことがあるはずがない当座の資金が厳しいのなら、香月グループが融通するという話もした私の他にも、色々な名家の当主が鞍馬くんと話をした海外とは手を切れ新ホテルなんていう馬鹿な挑戦はやめろ鞍馬閣のような歴史的な建造物と、あの素晴らしい庭園は守るべきだと
ジッちゃんの声に、怒気が含まれていた
しかし、あの男は古いものをただ守っているだけでは、僕は何のために生まれて来たのか判りませんと私に言ったよ新しいホテルでここで勝負しなければ、僕の人生は始まりませんとそして、私たちの忠告を無視し私たち、老人とは今後、縁を切るとまで宣言されたよ突然、工事を始め、何もかも潰して更地にし、新しいホテルの建設を始めてしまった
ああ、やっちゃったんだ
ところがだ高層ホテルの建築が半分終わった段階で、彼に資金を提供していた海外資本が吹っ飛んだ金が入ってくるどころか、逆に彼の方が海外に送金させられていた額の方が多かったらしいいずれ返すから、取りあえず貸しておいてくれと、相手の言いなりなって
高層ホテル建築は途中で中止だだが、すでに何億も使ってしまっている海外に貸した金も返って来ないそして、何よりあの素晴らしい鞍馬閣の建物と庭園は、二度と元に戻らない高層ホテルを建てるために、地下深くまで掘り下げてしまったからな
全部、アウトか
かといって、建設途中のホテルを完成させるだけの資金のメドも立たない新しいホテルが開業できなければ、金は入ってこない鞍馬閣グループの他のホテルや旅館・結婚式場も経営資金が足りなくなって危なくなってくる彼は私や私の友人たちに泣きついてきたよお願いだから、金を貸して下さいと
一度はカッコの良いことを言ってジッちゃんたちと縁切りまでしたのに
だが、私も私の仲間も彼に金を融資することはできんよそこまでのことを彼はやったのだから
ジッちゃんだけじゃないものな
他にもたくさんの人の助言を無視して、失敗したんだから
ええとても情けないお話ですわ歌晏の家も鞍馬家の救済はしないと、お祖父様がお決めになりました
だからさっき、鞍馬姉妹に冷たくしたのか
3大名家のうち、狩野家は家柄だけで、財産は無い
香月家と歌晏家が、鞍馬家を助けないのなら他の家も助けようとするはずがない
ところで、歌晏くん鞍馬は、なぜ、こんなバカげたことをしでかしたと思う
それは外国の方に甘い言葉にダマされたからでは
だからなぜ、易々とダマされてしまったと思う
鞍馬の小倅は自分だけの成功体験が欲しかったのだよ
名家に生まれただ名家の過去の栄光に縋って生きるより、自分の手で何かしらの成功を収めたいと思ったんだろう鞍馬閣は鞍馬閣グループの象徴だったあの風雅で素晴らしい建物と庭園があったからグループの他の旅館やホテル・結婚式場も、風格のあるものだと思われてきたしかし、その鞍馬閣は全て、鞍馬家の先祖が残してくれたものだすでに完成されている美には、新しく何かを付け加えることはできない許されない今の鞍馬家の当主は過去から受け継いだものを、そのまま未来に残すのが嫌だったのだろうそれでは自分がこの世に生まれて、生きてきたという証が残せないそれならいっそ過去の鞍馬閣は何もかも壊してしまって、新しい高層ホテルを建てることで、自分の存在を残したかったのだと思う
それで古い鞍馬閣だけ潰して新しいホテルは建てられなかったんじゃ
何もかも最悪だ
これは自分がやったことそう感じられるもので、大きな成功を遂げて、世の中の人々に認められたかったのだよ
それが成功体験を欲しがるということ
ミナホ姉さんのお父さんと同じ
オレは、思わず呟いてしまった
そうだな黒森公一郎もそうだった
ミナホ姉さんのお父さんも自分の父親が一代で作り上げた黒森楼を
無理矢理、父親から奪って自分の色に染め上げようとした
でも、才能も能力無かったから白坂創介という悪人に乗っ取られてしまった
彼のケースの方が判りやすいな父親という、一代で財を築いた英雄が居る父には成功体験があるしかし、自分はそれが無い父親に対するコンプレックスから、無理でも自分の成功体験を勝ち得ようと無茶な行動を引き起こす
ミナホ姉さんは、黙り込んだまま何も言わない
よくある話だよ成功したはずの一族が没落していくケースでは、よくあることだ
名家に生まれたことで自分には成功体験が無いのに、成功者の地位に居ることが人の心を惑わせるのですね
ああ、そういうことだよみすずや歌晏くん、狩野くん名家に属する諸君らも、気を付けるべきことだ
おっしゃる通りでございますわ
歌晏さんが、そう言う
今までは鞍馬さんのお父様のことをなぜ、そんなバカなことをなさったのだろうと嘲笑しておりましたがわたくしや、わたくしの一族の中からも同じ様なことをする者があらわれるかもしれないのですわね
君が、高校生の身分なのに会社を3つも経営しているのだって、同じことが原因なのではないかな
君は、その会社をただの会社経営を学ぶための訓練だとは思っていないだろうその3つの会社を全て、成功させて大きく成長させなければならないと、自分に課しているのではないか
本当に幾つも会社を経営してみれば判るが全ての会社が成功するわけではない上手くいかないものもある時期が悪かった、人材が集まらなかった、予定通りに進められなかった上手く行くはずだと思って始めたものでも、なかなか思い通りにならないものだ
ジッちゃんの言葉に歌晏さんは、うつむく
年を取れば人生は勝ちばかりでないことを学ぶ一度も負けないで、生きていけるほど世の中は甘く無いしかし、どういうことだか年寄りよりも若い人間の方が勝ちを好む負けることを恐れる一度でも負けたら人生が、もう終わりみたいに思ってしまう生きることは、負け続けることだよ負け続けているから時々の勝ちが本当に喜ばしく思うのだ