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それで名家は残った

これが日本の戦後史に長く影を落とす問題となるつまり戦前から日本を支配してきた階級が、敗戦の責任を取らないまま元の座に復活してしまったのだそれを一般庶民は特に若い人たち、学生たちが腹立たしく思うあいつらを引き摺り下ろせということになるしかしあの時代、それまでの日本のシステムを完全に壊して、新しい何かに変えようとしたらメチャクチャなことになっていたろうと思う日本はあの占領下の最初の数年だけを耐えてただけで元の指導者層が、復活することを許されたから、今まで続いているのだと思ういや、それはもちろん私がその古い支配者階級に属している人間だからこそ、そう考えているだけで別の意見があることは承知している結果として、失われてしまったもの、壊されてしまったものおかしな形に変貌してしたまったモノもたくさんあることは判っているしかし日本という国が日本らしさというものを何とか残せたのはわたしたちが滅ぼされなかったからだと信じたいのだ

わたしたちが先祖代々受け継いできたのは血では無い、財産でも無い、名でも無い日本というもの日本人のそれがあるからこそ、私たちは日本人なのだと世界に誇れるモノその守護者としての意識なんだと思う

ジッちゃんの声をお嬢様たちは、真剣に聞いていた

名家の人間だから、偉いはずがない賢いはずもない尊いはずもない気品があるわけもない貴いはずもただ、金があるだけなら権力者と懇意なだけなら、そんな者は新興の成り上がりと何も違わないではないかね

金と権力だけでは無い

人間という生き物にはずっと変わらないままでいようという意識と、どんどん変わり続けようという意識相反した意識が同居しているそれは生命そのものが持つ矛盾だつまり親から子へ可能な限り、できることならば永久に遺伝子を受け継がせようとする意志と、その時々の環境に合わせてどんどん進化し変化していこうという意志矛盾した意識の両方が同居しているものなのだそうして、人間は生命は、代を重ねていく時代に合わせて変化していこうという意識に突き動かされている人間は多いならば、私たちは古いモノを可能な限り残していこうというもう1つの意識の代弁者として、存在しているのだと思う

それが名家の役割

私は孫娘たちに自分で着物を着られるようにさせている畳の生活での所作も、身に付けさせている君たちも、そうだろう君たちの学校は君たちが日本人としての立ち振る舞いができるように教育してくれているはずだ私と歌晏と狩野で、そういう学校になるように指示をしたのだから

ああ名家のお嬢様たちが、みんな日舞を習っていたのも

和服の生活を覚えるためなのか

君たちの学校は基本的に名家の子女しか、入れないようにしてある新興の経済人や政治家の娘、芸能人の娘なども全て断らせているその代わり、私たちは君たちの学校に毎年多額の寄付をしている

多くの名門校が経営のために、そういう人間の子女を受け入れてきただが、名家でない家に生まれた子たちは私たちとは違う彼らは、私たちと逆の意識の申し子だつまり現状をどんどん変化させていくというそういう意識が強い人々だから、今の時代に大きく成功したのだろう地位も金も得たのだろうだが、私たちはまだ幼い私たちの娘、いやもう孫たちの世代なのだな君たちには、そういう意識を持って欲しくは無かった大人になった後ならいいちゃんと自分というものを確立した後なら自分と違う考えの人間たちと出会っても動揺することはないだが、まだ幼い内には幼稚園児、小学生、中学生、高校生までは君たちには名家の子女としての意識を身に付けて欲しかった変えていくのではなく守っていく、伝えていく側の人間になって欲しいと思った

だから、みすずたちの学校は名家の人間だけの閉鎖された空間になっている

無論、それは私たち古い世代の親たちの勝手な願いだ君たちからしたら、好きにさせてくれ、自分は変わっていくものの方が好きだと思うかもしれないだが、これだけは判って欲しいまずは古いモノ、良きモノ、日本的な美しいモノを知ってくれ一般の人たちが、眼を向けることを忘れてしまったモノたちを私たちは、まず君たちにそういうものを観て欲しいと思う知って欲しいと思うそして、できれば愛して欲しいと思う君たちがそういうモノに触れる機会を作るために私たちは、金を惜しまんそれでも、変わっていくモノの方が良いというのなら私たちは止めはしない無理強いもしないだが、まず知って欲しいのだなぜ、日本的な美しいモノが連綿と受け継がれてきたのかそして、そういうモノの保護に私たち名家がどれだけ関わってきたかということを

今は国の博物館にあるが香月家の宝物で、1つ国宝に指定されているものがある300年前の私の先祖が闘いで焼けた京都から持って逃げた宝物の1つだと言うきっと、そのご先祖が運び出さなかったら、現存はしていないだろうそれから300年香月家がずっと守り続けて来たから宝だ私の家にもし何かの価値があるのならあの宝を伝え続けて来たことだけかもしれないそういう時を超える力を持っていたのがかつての名家だよ

モノだけでなく礼儀作法や、立ち振る舞い、言葉様々な文化を現代に受け継いでいるのが名家ですわ

わたくしも亡くなった祖父に厳しく指導していただきました

わたくしは、考えが浅かったようでございますね

歌晏さんがそう言う

香月様やわたくしの祖父たちの思いを、理解しようとせずに名家の心を忘れてしまっていたと思います

とっても、反省しているようだった

わたくしお祖父様にこれからの時代を生き抜いていくためには、今の歌晏家のやり方ではダメですとか、生意気なことばかり言っておりましたから

君に言われるようなことは、歌晏のやつだってとっくに判っていることだよ私たちはまだ十数年しか生きていない君たちと違って、本当に激動した時代を生きているからね時代に合わせて、何とか生き残ろうと必死でもがきながらそれぞれに名家としての誇りを失わないように努力してきた今は、まるで狩野の家だけが傾いてしまったように見えるがそうではない私と歌晏は、運が良かったというだけのことだその代わり残さなければならなかった大切なモノを、幾つか失わざるを得なかったようにも思う古い名家の気風は狩野家が一番残しているのではないだろうか

わ、わたくしには判りません

恥ずかしそうに、狩野さんが答える

狩野の家には先祖代々、警護役を担当する家臣の血も続いているしかし、香月家は、そういう家臣の血脈を失ってしまっただから、香月セキュリティ・サービスなどという無粋な組織を作ることになってしまったのだ