871.ハイ・ライフ / 降格
あたしが呼んでくるわあなたが行くと、アニエスが付いて来ようとするでしょうから
ミナホ姉さんは、そう言うとジッちゃんに頭を下げて、退室する
確かにさっきの感じだと、アニエスも水島可憐さんを友達に欲しがっているみたいだったし
でも、アニエスまで、この部屋に連れて来ることはできないもんな
ここでは、これからかなり厳しい空気になると思うし
それにしてもジッちゃんは、どうして鞍馬姉妹をこの部屋に連れて来たまま放置しているんだろう
鞍馬姉妹は、みすずが主催のパーティに来ることでイチかバチか、鞍馬家の救済をジッちゃんに直訴しようとした
そして、ジッちゃんはたくさんの名家のお嬢様たちの前で、拒絶してみせた
鞍馬姉妹は、鞍馬家がもうダメだということで落胆はしているけれど自分たちが黒い森の娼館に売り払われることになっているということは知らないはずだ
姉妹の父親の鞍馬家の現当主も、どこまで承知しているか判らない
ジッちゃんは、この姉妹の前で鞍馬家の当主に電話して何らかの話はつけないといけないんじゃないのか
なのに、鞍馬家の方を飛ばして
スパイを連れ来てしまった水島家の方から処理しようとしている
お姉様、お心をしっかりありすがおりますから
相変わらず気弱な姉を妹が励ましている
ミナホ姉さんに連れられて緊張した面持ちで、12歳の水島可憐さんが入って来た
この度は大変なご無礼を働き、誠に申し訳ございません
殊勝な態度は関心だが君から謝ってもらっても、どうにもならないのだよ
これは、水島家と香月家いや、今日のパーティに参加した全ての名家との問題だからな
天童乙女というスパイが潜入したことは全部の名家に関わる不祥事だ
天童乙女が、みすずたちの超お嬢様校に潜り込んだことで、それぞれのお嬢様の個人情報を探って、ヤクザに流していたかもしれないという懸念がある
今日のパーティだってレズッ子仲間にしたお嬢様を操って、みすずにイチャモンを付けたり悪い噂を流して、香月家の評判を落とそうとしていたし
そういう人間の潜入を許したということは名家全体の問題で
娘のそれもまだ小学生の可憐さんが謝っても、どうにもできないことだ
おっしゃる通りでございますわたくしは、まだ若輩者であり今回の失態について、責任を取って責めを受ける資格すら持ってはおりません
可憐さんは、凛とした態度でそう言う
ああ、君が自分の意志であのような不逞の輩を、私の屋敷に連れて来たのではないということは判っている
不逞の輩関西ヤクザたちのスパイである、天童乙女
君はただ祖父や父親に、あの少女を君の警護役にすると告げられただけだろうだから、全ての罪は水島くんにある私は君を責める気はないよ
言葉は優しいが、ジッちゃんの表情は冷たい
お言葉ではございますがしかしながら、私もあの方が問題のある人物であることは承知しておりました判っていたにもかかわらず、わたくしの護衛役として連れ歩いていたのでございます
だからそれは、君には父親の命令を拒絶することができなかったからなのだろうと言っている
少し不快そうに、ジッちゃんは答えた
そうだ悪いのは水島家の可憐さんの祖父や父親たちだ
可憐さん本人には罪は無い
それは、あくまでもわたくし個人の事情でございます
水島可憐さんは、毅然としてそう答える
そんな理由が名家に生まれた者として、許されないということは承知しております
若輩者だとしても、わたくしも水島家本家の娘でございます家の外に居る時は、どんな状況に置かれていても、水島の家を代表しているものだと考えております
名家の本家の娘
どこに居ても、どんな時でも人々の視線を受ける
**家の令嬢として、家の名誉を背負っている
ですから水島家が皆様に対して行ったご無礼は、全て、わたくしも同罪でございます祖父と父の犯した罪は、家の罪ですから、家人としてわたくしも処罰を受けなくてはならないのだと思います
可憐さんは、おでこに緊張の汗の玉を浮かべている
一生懸命香月家の恐ろしい当主に立ち向かっている
特に本日のパーティには、香月様のご家中の皆様だけでなく、わたくしが日頃から敬愛しております先輩の皆様、さらにはわたくしの大切なお友達がたくさんいらっしゃっておりますわたくしは、むざむざと皆様の前に、危険人物を連れて来てしまったのですこの失態は、決して許されるものではございません
みんな12歳の可憐さんには、罪が無いことは判っているだろうけれど
それでも、このままならわだかまりは残るだろう
形式的だけでも、可憐さんにも何らかの処分をしないとかえって、可憐さんが学校に居づらくなるかもしれない
香月様は、これから水島の家をご処罰なさると思いますどうか、わたくしも父と一緒に、罰して下さいませそしてお願い致しますどうか、父の臣下やミズシマ・ホールディングスの傘下の企業で働いて下さっている皆様に、罰が及ばぬようにしてはいただけないでしょうか伏して、お願い致します
可憐さんは、もう一度深々と頭を下げた
小賢しいね
驚いてジッちゃんを見る可憐さん
途中までは良かったが最後のその一言が余計だ作為を感じる
作為って
君のような幼い少女が、そういう態度でそういう話をするというのは一見、痛々しくて、何とか救ってやらなくてはいけないように思わされてしまいそうだが
ジッと、可憐さんを見る
それも君の祖父や父親の入れ知恵かね
もし天童乙女の正体がバレて、ジッちゃんの前で申し開きしなければならなくなったら
こういう風に話せと、祖父たちに命じられてきた
いや、これは全て、わたくし自身の考えでございます
可憐さんは、真っ直ぐにジッちゃんを見てそう言う
だとしたら、君という少女が小賢しいということになる
まあいい何が本当なのかは、いずれ判るだろうただ
ジッちゃんは、鞍馬姉妹を見る
12歳の少女でも、これだけ立派に自分の意見が言えるのだぞ鞍馬ありすくんは13歳、鞍馬美里くんに至ってはもう18歳だろう今まで、この部屋に居て私に対して、何のアピールもしないというのは、どういうことなのかね
泣いている姉と、その姉を気遣うだけの妹君たちは、自分たちが鞍馬の家を代表しているということさえ判っていないのだな
ジッちゃんの部屋に連れて来られても鞍馬姉妹は、ずっと怯えているだけだったんだ
そ、それはわたくしたちから何申し上げるのは、香月様に失礼なのではないかと思ったからなんですっ
妹のありすさんが、慌ててそう言う