ふん、後からなら何とでも言える元々、君たちは、みすずの招待にかこつけて、私に鞍馬家の窮状を訴えに来たのだろう
でも、それはパーティの前に、香月様のご叱責を受けましたので
一度、怒られたぐらいで、もう諦めるのかねそれで鞍馬家の伝統はどうなる家が潰れたら、ご先祖様に何とお詫びをするんだね鞍馬閣グループで働いてくれている諸君らには何と説明する
ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
姉の鞍馬美里さんが、眼からポロポロ涙を零しながら、ジッちゃんに謝った
もういいっ君たちのことは、後回しにする水島家の方を先に処理する
ああこういうことか
鞍馬姉妹の危機感を煽るために
部屋に連れて来ておきながら、わざと無視し
あげくに、後から呼んだ水島家の方を先に片付けようとする
鞍馬姉妹のプライドは、ズタズタになる
娼婦に堕とすための精神攻撃は、もう始まっている
慌てて、言葉を繋げようとする鞍馬ありすさん
黙っていろと言ったばかりだぞ
鞍馬美里さんが、また泣き出す
その阿鼻叫喚な光景が、水島可憐さんの精神も圧迫している
克子くん、悪いが水島の家に電話してくれ
はい、かしこまれましたわ
まるで秘書のように、克子姉が電話を掛ける
この流れは、事前に打ち合わせしてあったんだろうな
繋がりました、水島様です
克子姉の言葉にジッちゃんは、机の上の機械のスイッチを入れる
香月だ
か、閣下こ、この度は大変申し訳ございません
スピーカーから、老人の声がした
おそらく、これが水島家の現当主で、可憐さんの祖父の声なんだろう
言い訳は致しません関西の暴力団組織につけ込まれてしまいました気が付いた時には、もう逃げることはできずどうしても、彼らの言う通りにしなければならなくなっていましたそれで、今回のような不祥事を
水島老人は、ツラツラと語る
でどうするつもりかね
ジッちゃんは、一言だけ尋ねた
そ、それは、もちろん責任を取って、わたくしはミズシマ・ホールディングスの全ての役職から退きます今後は、わたくしの息子に
それでは足りんね全然、足りない
ジッちゃんは、バッサリと切り捨てた
わたくしの息子も、ミズシマ・ホールディングスから離れよと水島家に、ミズシマ・ホールディングスの経営から手を引けとおっしゃるのですか
そんなことは、どうでもいいのだよ私は、ミズシマ・ホールディングスのことなど興味は無い私を相手に、下らない交渉は止めたまえ
ジッちゃんは、厳しい声で言う
水島家の一族が、ミズシマ・ホールディングスの経営陣からいなくなったとしてもグループ企業全ての株の大半は、君が持っているんだ水島家がミズシマ・ホールディングスの傘下企業を支配していることに代わりは無い
私に譲歩する形にして君の思い通りにしようとする腹づもりだったのだろうがね
可憐さんの祖父が会長職を辞して、息子に継がせると言えば
ジッちゃんが、それを拒絶することは判っていたんだ
それで、ジッちゃんの言うとおりにするフリをして息子を経営のトップの地位に就けないで、話を終わらせようとした
現実には筆頭株主として、水島家が経営を支配しているし
いつでも、また企業のトップに戻ることができるのに
そもそも、君たちはこうなることを狙って、わざと不祥事を起こしたのだろう
そ、そんなわざとなど今回の一件は、あくまでも暴力団組織の圧力に屈せざるを得なかったという事情から
ミズシマ・ホールディングスのここ何期かの経営報告を見たよかなり業績が悪化しているようだね
えいや、あの
水島老人の声が上ずる
第2次世界大戦が終わった頃に、こんなジョークがあったのを君は知っているかね
貧しくて、経済破綻を起こしていてなおかつ国内が、様々な勢力に分かれて争っているどうしょうもない国がある既得権益を守ろうとする古い勢力がのさばっているせいで、国内の社会制度の改革もできないこのままでは、国ごと滅んでしまうことは眼に見えているそこで新しく選ばれた大臣が、こんな提案をするんだ
こうなったら、もう戦争しかありませんそれも世界一の強国、アメリカに宣戦布告するしかありませんとな
アメリカに戦争をフッ掛ける
もちろん、我が国は敗北してしまうでしょう私たちは戦争犯罪人として処罰されるかもしれませんしかし、戦勝国となったアメリカは私たちの国に乗り込んで来て、建て直してくれるはずです何千億ドルもの経済援助をし、古い態勢を崩壊させ、インフラ整備や医療や教育にも協力してくれるはずです戦争に負けることで、アメリカにこの国を再生してもらうのです
な、何じゃそりゃあ
第2次大戦後は、実際色んな国がアメリカの援助で立ち直った事例があったからな実際に、国の改革や経済復興のためにアメリカに戦争をフッ掛けた国はないが
君たちの今回の狙いはつまり、そういうことなのだろ
名家は潰せない、潰してはならないそれは私の信条だ実際、敗戦時に多くの名家が消えたからな没落したり、品の悪い乗っ取り屋に襲われたりあの頃の私たちは、自分の家を守るだけで精一杯だっただから、助けられなかった家がたくさんあるその後悔を忘れぬために私は、どんなことがあってもこれ以上名家が消えることのないようにしていきたいと思っている
は、はい、その閣下のお考えは大変よく承知しております
水島老人は言う
だから君はわざと不祥事を起こせば、私が君たちの企業に介入し資本を注入し、人材を補強し、傾きかけたミズシマ・ホールディングスを再生すると思ったのだろう
ジッちゃんが経営陣から、水島家の人間を排除しただけで終わるはずがない
香月グループから援助をして、ミズシマ・ホールディングスの企業を立ち直させる
水島家は、大株主だからミズシマ・ホールディングスが蘇れば、それでいい
ジッちゃんの名家への思いを利用しようとするなんて、酷い話だ
で、ではお力添えはいただけないのですか
水島老人は、驚愕している
君は大きな勘違いをしている私が、次の時代に残していかなくてはならないと考えているのは名家であって、名家の持つ企業グループではない
し、しかしこのままでは、ミズシマ・ホールディングスは倒れますそうなったら、水島家の資産も全て失われることに
そうはならんよ
水島家という名家は残すただし、ミズシマ・ホールディングスという企業グループは、分割し売却する
ば、売却
今のままの会社組織、従業員のままで君たちの傘下でない方が、業績が上がりそうなのが何社かあった同業他社に譲渡するべき企業もある雇用者たちの生活を考えたら、そうするのがベストだろうこのまま、ミズシマ・ホールディングスという中途半端な大きさ企業グループの中では、どの企業も先はあるまい